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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-2

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C.E.78年、世界は『ナチュラル』と『コーディネイター』という種族対立が元となった
数々の戦争で疲弊していました。
その中で、あらゆる戦争において勝利していたオーブ連合首長国が国際社会の中で
強権を得ていった事は、自然の流れだったのかもしれません。
世界は『主権返上』という流れの元、『統一地球圏連合政府』という名の下に
一つになろうと鳴動していました。




 「はあ!? 何だって! もっと大声で言ってくれよ!」

 季節外れの雷が鳴り響く中だったからか、それとも明日に控える統一地球圏連合政府樹立三周年記念式典の準備による喧騒のせいか。馴染みの運送屋がぼそぼそと話す声が聞き取れず、思わず男は怒鳴っていた。
 男はスクラップを改修、リサイクルして販売する事を生業としており、そこに持ち込まれるものは多岐に渡る。モビルスーツクラスの物まで取り扱えるのだから、彼の資本はかなり高いことが伺えるだろう。しかし男は自身の仕事が『日の当たる類』ではないことを熟知していたので、この様に激して言うことは滅多にない。それほど、運送屋の言葉はぼそぼそと紡がれたのである。
 とはいえ、相手の声量に比例して運送屋の言葉も上がった。

 「だーかーら、死体だよ、死体!」

 言ってから運送屋は慌てて口を塞ぎ、男は色めき立つ。大型トラックの止められる大通りから慌てて事務所に運送屋を連れ込み、幾らか押さえ気味ではあるが矢継ぎ早に怒鳴りつけた。
 
 「馬鹿野郎、死体なんざリサイクル出来るか! なんでそんなもん輸入してくるんだよ!」

 「そんな事言っても、あのブツを仕入れる条件だったんだよ! 何でも『元オーブの住人だったから、その地に埋葬して欲しい』って遺言があったらしくて……」

 男は頭を抱えた。確かに運送屋が持ってきたブツは欲しい。五年前の代物とはいえ、そんなものが仕入れられるというのは天文学的な確率だったからだ。欲しがる者はごまんと居るだろう――この様な政情不安な時勢であれば。
 しかし、死体とセットとは。それは男にしてみても薄気味悪い話ではあった。

 「まあいい。入国管理官には弾まなくちゃならんかもしれんが……」

 とはいえ、考えても仕方の無い事である。ここに捨てていくのも気が止めるし、簡易葬位だったらしてやろうという仏心も湧いた。何より、儲け話には違いない。験を担ぎたいという思いもあった。
 男は運送屋から渡された伝票にサインすると、死体の名前までちゃんと書かれていたことに気が付いた。
 死体の名前はこう書かれていた――『シン=アスカ』と。



急速な統一への流れは、新たな軋轢と歪みを作っていきます。
そんな軋みを正すために、統一連合は様々な手段を模索せねばならなくなりました。
始めは平和的に。
しかし、段々と軍事色を帯びていって、遂には……。




 イヤーホンから聞こえてくる大人二人の馬鹿馬鹿しい話を聞きながら、コニール=アルメタは安堵していた。

 「やれやれ、どうやら拾いにいく必要は無さそうね」

 後は書類を持って迎えに行けばいい。あの連中は一緒に同封した物に首っ丈だ、厄介者はあっさりと手放すだろう。
 バイクをスタートさせてアクセルターンを軽やかに決めると、コニールは走り出した。
 今日中にやる事は多かった。動けない相方の面倒を見てやらなければならないのだから。



軋轢の遠因は、エネルギー危機と食糧危機でした。
急速な中央集権化は貧富の差を広げ、一部の国々では明日の食事に事欠く有様。
それは為政者としては当然の事だったのかもしれません。
けれど、異論の有る者にとっては非常に生き辛い世界となったのです。




 壇上に上がる青年は力説する。年の頃は三十代だが、どこか老成しているように見えた。異様な熱気が溢れる室内で、彼は拳を上げて人々に訴え続けた。

 「……我々は三年間耐えた! しかし、奴等は決して我々の要求を呑もうとしなかった! 人が人として生きるための尊厳を、奴等は踏み躙り続けたのだ!
 今、私ミハエル=ベッテンコーファーはここに宣言する! ユーラシアの大地に自由と尊厳を!『主権返上』なる蹂躙に正当なる反撃を! そして、我等ローゼンクロイツの勝利を!
 今、立てよ同士達! 薔薇十字の紋章と共に!」

 沸き立つ室内に、彼は満足げに頷く。ある種の狂信とも言い換えていい熱気が、彼を押し上げていた。



事態が早急に解決出来ないことは明らかでした。
行き場の無い怒りが、どちらの陣営にもあったのです。
長きに渡る戦いの結果が、人々を蝕んでいる――これは、皮肉でしょうか。
誰もが、平和を望んでいるのに。




 複数のモニターに移る女性は、世界に向かって語りかける。

 「世界は、一つになるべきなんだ。もはや、ナチュラルとコーディネイター等という区切りは必要ない。それが戦乱の原因になるのなら、我々は取り除かなければならないだろう。
 人々よ、聞いて欲しい。『殺したから殺す』、そんな刹那的な考えを捨ててくれ。そして、共に手を取り合って生きていこうではないか。
 私、カガリ=ユラ=アスハは皆と共に歩いていきたいのである」

 それは、理想だ。美しい理想だ。
 庇護される者には福音となり、庇護されない者には警鐘、或いは警告となる。
 彼女自身がその事に気が付いているのか……。



人々は、誰もが自分勝手でした。
或いは他者を思いやる余裕が無かったのかもしれません。
そんな中で他者を思いやれる者達の多くは『野心を持つ者達』でした。
人々は、新たなる火種を作り出そうとしていたのです。



 「よろしいのですか、ロマ殿?」

 初老の男が、隣に立つ青年に話しかける。その青年は奇妙な事に、両目を隠すように仮面を被っていた。それは異様なものであったが、地上戦艦スレイプニールのマストブリッジ上では誰も奇異を示さない。というより、慣れているだけなのだろうが。
 眼下にはコーカサスの大地がどこまでも続いていく大平野。そこを一直線に横切るようにスレイプニールは進む。一路、ローゼンクロイツとの合流地点アリーへ。

 「今更、言っても始まらないよ。既に賽は投げられた。僕等に出来ることは、シンとコニールの無事を祈るばかりだ。
 ……地熱プラントを僕等が占領しなくちゃ、今年こそコーカサスの住人は飢えて、凍死していくだろう。それを防ぐ為には、もはや手段を選んではいられない。僕等『リヴァイブ』に出来ることは、もうこれだけなんだ」

 ロマ=ギリアム――ロマと呼ばれた青年は、出来るだけ平静を装っているように見える。しかし初老の男、ヨアヒム=ラドルから見れば苦悶の雄叫びを上げているのに等しく見えた。

 (だからといって、カガリ=ユラ=アスハを暗殺してみせなければならない。辛いところですな……)

 ラドルは帽子を直して、目深に被りなおす。この上はせめて隣の青年を、出来る限り補佐しようと思いながら。
 地上戦艦スレイプニールは進む――ロマと、レジスタンス『リヴァイブ』を乗せて。



どうにもできない。
どうにもならない。
けれど、生きなければならない。
……この時代の人々が追い込まれた窮状とは、そのようなものだったのです。
けれど、その頃の私はそんな事を全く知らず、日々を過ごしていました。




 「……で、どうなんや?」

 寄宿舎の一室で厳しい詰問が、先程から続く。とはいえソラは、他人事の様に紅茶を啜っていた。本当に他人事だったから、というのもあるが。

 「だから、カフェ『ロージー』に言った後別れたって。本当だよ」
 「嘘や! 目撃証言によるとその後映画館『アダム』に行ったという情報があるんやで!」

 この言葉に、詰問されていた女の子がかっと顔を赤らめる。黒髪のポニーテールが良く似合う子、シノ=タカヤだ。その表情の変化を見逃さず、詰問していたハナ=ミシマが畳み掛ける。
 ソラにとって、この二人は親友だ。幼い頃からずっと一緒だった、家族同然の女友達だ。ソラは険悪な状態になり始めた親友達の間に、どのタイミングで割って入ろうかと模索していた。

 「尾行してたの!? サイテー!」
 「はよ白状しいや! シーちゃんがあの美形転校生……えーと、なんつったっけなぁ……まあいいわ、付き合ってるっちゅーんは、既にウチのクラスのトップシークレットなんやで!」
 「……セシル=マリディア君でしょ、ハーちゃん」
 「そうそう! それそれ!」
 「か、関係ないでしょー!」

 二人がやいのやいのと言い争い、ソラがたまに混ぜっ返す。それは、昔からの光景だった。くすくすと笑いたくなる衝動を堪えながら、ソラは状況を楽しんでいる……我ながら悪趣味だとは思うが。
 とはいえ、そろそろ止めよう。そう決断するとソラは読んでいた本を閉じ、おもむろに二人にお茶を出し、こう言った。

 「はい、そこまで。お茶にして一息入れよ」

 二人は憮然としながらもお茶を啜り始める。すると、シノがぽつぽつと喋り始めた。

 「別に黙っていた訳じゃないのよ。けど……」
 「解っとるわ、ンな事。けどな……」

 ハナもぶつぶつと答える。親友だと思うから、親友だと思えるからこそ打ち明けて欲しかった、そんな所だろうか。とはいえシノの方も言い出しづらかったのはあるだろうが。
 だからソラは、助け舟を出した。この二人の間に立つのは、いつもの事だったから。それが自分の役目なのだと、知っていたから。

 「で、シーちゃん幸せなの?」

 その質問はある意味ずるいかも知れない。みるみる内にシノの顔が真っ赤になっていき、答えなんか必要ないのは明らかだった。それを見て、ハナも溜飲を下げることにしたようだ。

 「アホらし、白けるわ」

 そう言って、ハナは「ちっと買い物いってくるわ」と言って、部屋を出て行った。きっとお菓子とジュースを買いに行ったのだろう。祝福するために。
 不器用な親友達の姿に微笑みながら、ソラは今だ真っ赤な顔のシノに向き直り、こう言った。

 「でも、羨ましいな。そんなに好きになれる人が現れるってさ」

 ソラとて、年頃の女の子である。恋愛話には興味もあるし、自身も恋をしてみたいと思う時もある。
 けれど、どうしても駄目だった。生まれ育った孤児院のことが、そして未だに自分を慕ってくれる子供達の姿が忘れられない。いつかあの子達が大きくなるその日まで、その日までと思ってしまうのだ。

 「ソラは、責任感強すぎるのよ。もっと自由になればいいのに」
 「誰か強引な人が、空の彼方まで引っ張っていかなきゃ無理だよ。私には……」

 そんな事は無い、と思う。
 だからそんな風に言うのだ、とも思う。
 結局遠回しに逃げているだけだと思う。けれど、それに身を沈めていたい。
 そう思うから、ソラは子供達の世話を懸命にやるのだろうか。
 ふと、時計を見るともう夜九時の消灯時刻だ。明日は統一政府三周年記念式典。オーブを上げてのお祭りだ。勿論学校もお休みである。
 ソラは嘆息した。ハナがお菓子とジュースを買って帰ってきたら、今夜は語り明かす事になるのだろうな、と。



命懸けで、人を愛した人が居る。
命懸けで、人を殺めた人が居る。
夢を追うでもなく、罪から逃げるわけでもなく。
ただ彷徨い、歩いて、歩き続けて。
……けれど私は、その赤い瞳に、優しさを見つけていた。




 コンプレッサーの音が狭い室内に響き渡る。
 コニールは先程回収してきた長細い箱――棺、と一言で現せる代物――に幾つかのコードとコンプレッサーを接続し、何事か作業を始めた。コンプレッサーで棺内の空気を入れ替え、温度を段々と上げていくのだ。
 コールドスリープによる仮死状態を回復するための手段、である。
 医者によれば再生確率は80%といったところか。100%の手段を取れなかった辺りにコニール達の組織『リヴァイブ』の弱小さが透けて見えるが、コニールの表情に不安は無い。この程度で死ぬような男ではないと、心の底から思っているからだ。

 「さあ、目覚めなさいよ。仕事の時間よ、シン」

 棺が開く。部屋中に冷気の靄が広がり、棺の中に居た裸の男の姿が露わになる。中肉中背、黒髪の青年がそこに居た。
 その青年はしばらくの間身動ぎもしなかった。だが、段々と瞼が動き始め、指が動き始め、赤い瞳が見開かれ――。



C.E.78、九月十一日。
その日まで、私は平穏でした。
この人生がずっと続いていくんだと、何の疑問も無く思っていました。
その日、全てが始まったのです。




 九月十一日の朝は、静かに始まった。
 明け方まで語り明かしたソラは、ほんの少し仮眠した後、眠気覚ましに近くの公園を散歩することにした。この後、喫茶店『ロンデニウム』でのアルバイトもしなければならないのだ。意識をしっかりさせておくに越したことはないと考えたのだ。
 少し肌寒いが、良く晴れた空だ。目覚ましには丁度いい。公園を二週程して、帰ろうとして――ソラは、運命に直面することになった。

 「や、止めろ! いきなり何をする!」
 「やかましい! このテロリストが!」

 老人に、若者数人が襲い掛かっている!
 その老人は、ソラも見知っている人だった。この公園でよく会う、老紳士だ。いつも快く挨拶をしてくれたり、鳩に餌をやっている人なので、ソラはその老紳士が悪い人には思えなかった。
 だから――寝不足の思考回路だったからかもしれない――少々短絡ながら、ソラはその騒ぎを止めに入った。

 「止めなさい、お年寄り相手に!」




その人の瞳は、血の色の様に真っ赤でした。
恐ろしいほど凄みのある、強い――真っ直ぐな瞳。




 「邪魔だ!」
 「きゃあっ!」

 止めに入ったソラは、若者の腕の一振りで吹き飛ばされる。

 「お嬢さん! ……ええい、治安警察の犬共めっ!」

 老紳士が吼えるが、そのまま地面に押さえ込まれる。

 「大人しくしてもらおう。万が一でも疑いがあれば、拘束させてもらわなければならんのでな」
 「無茶苦茶を……!」
 「ロナウド=ウィラード殿。それだけの疑いがあれば充分だろう」



その人はまるで暗闇から湧き出すように現れました。
真っ黒いコートを羽織り、黒ずくめの姿で。
――射すくめる様な視線と、凄みのある声音と共に。




 「年寄りと子供を苛めるのが治安警察の仕事か?」



その時の事は、はっきりと覚えています。
老紳士に暴行を振るっていた若者達が、その黒ずくめの青年に打ち掛かった瞬間。
反対にその若者達が、吹き飛ばされていたのです。




 まるで――吸い込まれる様に。
 若者達も、老紳士も、そしてソラも。
 その青年から目を逸らせなかった。
 そして、若者達はその青年に打ち掛かり――始めは吸い込まれる様に、そしてある一定を過ぎたら全く間逆に弾け飛ばされた。青年が相手の力を応用し、弾き飛ばしたのだ。武道の経験のないソラには、まるで手品の様にも見えた。
 一人、二人……まとめて更に二人。あっという間に四人の若者達が大地に伏して動かなくなる。それは凄まじい手練の技であった。



……私は、あの人から目を逸らせなかった。
平和なオーブでこんなことが起こるなんて、とか
この暴漢の特徴をしっかりと捉えて通報しよう、とか考えていた訳じゃない。
ただ、私は吸い寄せられる様に、あの人を見つめていたの……。




 「父さん、母さん、マユ……ステラ、ルナ、レイ、ハイネ。ミネルバのみんな……。
 俺は、俺は帰ってきたぞ……」



立ち去っていくあの人の背中を見ながら、私は思いました。
ああ、私は知りたいのだと。
言葉に出来ない、湧き上がるこの思いを。

……何の疑問も持たなかった平穏な生活。
私の生活はこの日、終わりを迎えたのです。
 

  

C.E.78年、世界は『ナチュラル』と『コーディネイター』という種族対立が元となった

数々の戦争で疲弊していました。

その中で、あらゆる戦争において勝利していたオーブ連合首長国が国際社会の中で

強権を得ていった事は、自然の流れだったのかもしれません。

世界は『主権返上』という流れの元、『統一地球圏連合政府』という名の下に

一つになろうと鳴動していました。

 「はあ!? 何だって! もっと大声で言ってくれよ!」

 季節外れの雷が鳴り響く中だったからか、それとも明日に控える統一地球圏連合政府樹立三周年記念式典の準備による喧騒のせいか。馴染みの運送屋がぼそぼそと話す声が聞き取れず、思わず男は怒鳴っていた。

 男はスクラップを改修、リサイクルして販売する事を生業としており、そこに持ち込まれるものは多岐に渡る。モビルスーツクラスの物まで取り扱えるのだから、彼の資本はかなり高いことが伺えるだろう。しかし男は自身の仕事が『日の当たる類』ではないことを熟知していたので、この様に激して言うことは滅多にない。それほど、運送屋の言葉はぼそぼそと紡がれたのである。

 とはいえ、相手の声量に比例して運送屋の言葉も上がった。

 「だーかーら、死体だよ、死体!」

 言ってから運送屋は慌てて口を塞ぎ、男は色めき立つ。大型トラックの止められる大通りから慌てて事務所に運送屋を連れ込み、幾らか押さえ気味ではあるが矢継ぎ早に怒鳴りつけた。

 

 「馬鹿野郎、死体なんざリサイクル出来るか! なんでそんなもん輸入してくるんだよ!」

 「そんな事言っても、あのブツを仕入れる条件だったんだよ! 何でも『元オーブの住人だったから、その地に埋葬して欲しい』って遺言があったらしくて……」

 男は頭を抱えた。確かに運送屋が持ってきたブツは欲しい。五年前の代物とはいえ、そんなものが仕入れられるというのは天文学的な確率だったからだ。欲しがる者はごまんと居るだろう――この様な政情不安な時勢であれば。

 しかし、死体とセットとは。それは男にしてみても薄気味悪い話ではあった。

 「まあいい。入国管理官には弾まなくちゃならんかもしれんが……」

 とはいえ、考えても仕方の無い事である。ここに捨てていくのも気が止めるし、簡易葬位だったらしてやろうという仏心も湧いた。何より、儲け話には違いない。験を担ぎたいという思いもあった。

 男は運送屋から渡された伝票にサインすると、死体の名前までちゃんと書かれていたことに気が付いた。

 死体の名前はこう書かれていた――『シン=アスカ』と。

急速な統一への流れは、新たな軋轢と歪みを作っていきます。

そんな軋みを正すために、統一連合は様々な手段を模索せねばならなくなりました。

始めは平和的に。

しかし、段々と軍事色を帯びていって、遂には……。

 イヤーホンから聞こえてくる大人二人の馬鹿馬鹿しい話を聞きながら、コニール=アルメタは安堵していた。

 「やれやれ、どうやら拾いにいく必要は無さそうね」

 後は書類を持って迎えに行けばいい。あの連中は一緒に同封した物に首っ丈だ、厄介者はあっさりと手放すだろう。

 バイクをスタートさせてアクセルターンを軽やかに決めると、コニールは走り出した。

 今日中にやる事は多かった。動けない相方の面倒を見てやらなければならないのだから。

軋轢の遠因は、エネルギー危機と食糧危機でした。

急速な中央集権化は貧富の差を広げ、一部の国々では明日の食事に事欠く有様。

それは為政者としては当然の事だったのかもしれません。

けれど、異論の有る者にとっては非常に生き辛い世界となったのです。

 壇上に上がる青年は力説する。年の頃は三十代だが、どこか老成しているように見えた。異様な熱気が溢れる室内で、彼は拳を上げて人々に訴え続けた。

 「……我々は三年間耐えた! しかし、奴等は決して我々の要求を呑もうとしなかった! 人が人として生きるための尊厳を、奴等は踏み躙り続けたのだ!

 今、私ミハエル=ベッテンコーファーはここに宣言する! ユーラシアの大地に自由と尊厳を!『主権返上』なる蹂躙に正当なる反撃を! そして、我等ローゼンクロイツの勝利を!

 今、立てよ同士達! 薔薇十字の紋章と共に!」

 沸き立つ室内に、彼は満足げに頷く。ある種の狂信とも言い換えていい熱気が、彼を押し上げていた。

事態が早急に解決出来ないことは明らかでした。

 行き場の無い怒りが、どちらの陣営にもあったのです。

長きに渡る戦いの結果が、人々を蝕んでいる――これは、皮肉でしょうか。

誰もが、平和を望んでいるのに。

 複数のモニターに移る女性は、世界に向かって語りかける。

 「世界は、一つになるべきなんだ。もはや、ナチュラルとコーディネイター等という区切りは必要ない。それが戦乱の原因になるのなら、我々は取り除かなければならないだろう。

 人々よ、聞いて欲しい。『殺したから殺す』、そんな刹那的な考えを捨ててくれ。そして、共に手を取り合って生きていこうではないか。

 私、カガリ=ユラ=アスハは皆と共に歩いていきたいのである」

 それは、理想だ。美しい理想だ。

 庇護される者には福音となり、庇護されない者には警鐘、或いは警告となる。

 彼女自身がその事に気が付いているのか……。

 人々は、誰もが自分勝手でした。

或いは他者を思いやる余裕が無かったのかもしれません。

そんな中で他者を思いやれる者達の多くは『野心を持つ者達』でした。

人々は、新たなる火種を作り出そうとしていたのです。

 「よろしいのですか、ロマ殿?」

 初老の男が、隣に立つ青年に話しかける。その青年は奇妙な事に、両目を隠すように仮面を被っていた。それは異様なものであったが、地上戦艦スレイプニールのマストブリッジ上では誰も奇異を示さない。というより、慣れているだけなのだろうが。

 眼下にはコーカサスの大地がどこまでも続いていく大平野。そこを一直線に横切るようにスレイプニールは進む。一路、ローゼンクロイツとの合流地点アリーへ。

 「今更、言っても始まらないよ。既に賽は投げられた。僕等に出来ることは、シンとコニールの無事を祈るばかりだ。

 ……地熱プラントを僕等が占領しなくちゃ、今年こそコーカサスの住人は飢えて、凍死していくだろう。それを防ぐ為には、もはや手段を選んではいられない。僕等『リヴァイブ』に出来ることは、もうこれだけなんだ」

 ロマ=ギリアム――ロマと呼ばれた青年は、出来るだけ平静を装っているように見える。しかし初老の男、ヨアヒム=ラドルから見れば苦悶の雄叫びを上げているのに等しく見えた。

 (だからといって、カガリ=ユラ=アスハを暗殺してみせなければならない。辛いところですな……)

 ラドルは帽子を直して、目深に被りなおす。この上はせめて隣の青年を、出来る限り補佐しようと思いながら。

 地上戦艦スレイプニールは進む――ロマと、レジスタンス『リヴァイブ』を乗せて。

どうにもできない。

どうにもならない。

けれど、生きなければならない。

……この時代の人々が追い込まれた窮状とは、そのようなものだったのです。

けれど、その頃の私はそんな事を全く知らず、日々を過ごしていました。

 「……で、どうなんや?」

 寄宿舎の一室で厳しい詰問が、先程から続く。とはいえソラは、他人事の様に紅茶を啜っていた。本当に他人事だったから、というのもあるが。

 「だから、カフェ『ロージー』に言った後別れたって。本当だよ」

 「嘘や! 目撃証言によるとその後映画館『アダム』に行ったという情報があるんやで!」

 この言葉に、詰問されていた女の子がかっと顔を赤らめる。黒髪のポニーテールが良く似合う子、シノ=タカヤだ。その表情の変化を見逃さず、詰問していたハナ=ミシマが畳み掛ける。

 ソラにとって、この二人は親友だ。幼い頃からずっと一緒だった、家族同然の女友達だ。ソラは険悪な状態になり始めた親友達の間に、どのタイミングで割って入ろうかと模索していた。

 「尾行してたの!? サイテー!」

 「はよ白状しいや! シーちゃんがあの美形転校生……えーと、なんつったっけなぁ……まあいいわ、付き合ってるっちゅーんは、既にウチのクラスのトップシークレットなんやで!」

 「……セシル=マリディア君でしょ、ハーちゃん」

 「そうそう! それそれ!」

 「か、関係ないでしょー!」

 二人がやいのやいのと言い争い、ソラがたまに混ぜっ返す。それは、昔からの光景だった。くすくすと笑いたくなる衝動を堪えながら、ソラは状況を楽しんでいる……我ながら悪趣味だとは思うが。

 とはいえ、そろそろ止めよう。そう決断するとソラは読んでいた本を閉じ、おもむろに二人にお茶を出し、こう言った。

 「はい、そこまで。お茶にして一息入れよ」

 二人は憮然としながらもお茶を啜り始める。すると、シノがぽつぽつと喋り始めた。

 「別に黙っていた訳じゃないのよ。けど……」

 「解っとるわ、ンな事。けどな……」

 ハナもぶつぶつと答える。親友だと思うから、親友だと思えるからこそ打ち明けて欲しかった、そんな所だろうか。とはいえシノの方も言い出しづらかったのはあるだろうが。

 だからソラは、助け舟を出した。この二人の間に立つのは、いつもの事だったから。それが自分の役目なのだと、知っていたから。

 「で、シーちゃん幸せなの?」

 その質問はある意味ずるいかも知れない。みるみる内にシノの顔が真っ赤になっていき、答えなんか必要ないのは明らかだった。それを見て、ハナも溜飲を下げることにしたようだ。

 「アホらし、白けるわ」

 そう言って、ハナは「ちっと買い物いってくるわ」と言って、部屋を出て行った。きっとお菓子とジュースを買いに行ったのだろう。祝福するために。

 不器用な親友達の姿に微笑みながら、ソラは今だ真っ赤な顔のシノに向き直り、こう言った。

 「でも、羨ましいな。そんなに好きになれる人が現れるってさ」

 ソラとて、年頃の女の子である。恋愛話には興味もあるし、自身も恋をしてみたいと思う時もある。

 けれど、どうしても駄目だった。生まれ育った孤児院のことが、そして未だに自分を慕ってくれる子供達の姿が忘れられない。いつかあの子達が大きくなるその日まで、その日までと思ってしまうのだ。

 「ソラは、責任感強すぎるのよ。もっと自由になればいいのに」

 「誰か強引な人が、空の彼方まで引っ張っていかなきゃ無理だよ。私には……」

 そんな事は無い、と思う。

 だからそんな風に言うのだ、とも思う。

 結局遠回しに逃げているだけだと思う。けれど、それに身を沈めていたい。

 そう思うから、ソラは子供達の世話を懸命にやるのだろうか。

 ふと、時計を見るともう夜九時の消灯時刻だ。明日は統一政府三周年記念式典。オーブを上げてのお祭りだ。勿論学校もお休みである。

 ソラは嘆息した。ハナがお菓子とジュースを買って帰ってきたら、今夜は語り明かす事になるのだろうな、と。

命懸けで、人を愛した人が居る。

命懸けで、人を殺めた人が居る。

夢を追うでもなく、罪から逃げるわけでもなく。

ただ彷徨い、歩いて、歩き続けて。

……けれど私は、その赤い瞳に、優しさを見つけていた。

 コンプレッサーの音が狭い室内に響き渡る。

 コニールは先程回収してきた長細い箱――棺、と一言で現せる代物――に幾つかのコードとコンプレッサーを接続し、何事か作業を始めた。コンプレッサーで棺内の空気を入れ替え、温度を段々と上げていくのだ。

 コールドスリープによる仮死状態を回復するための手段、である。

 医者によれば再生確率は80%といったところか。100%の手段を取れなかった辺りにコニール達の組織『リヴァイブ』の弱小さが透けて見えるが、コニールの表情に不安は無い。この程度で死ぬような男ではないと、心の底から思っているからだ。

 「さあ、目覚めなさいよ。仕事の時間よ、シン」

 棺が開く。部屋中に冷気の靄が広がり、棺の中に居た裸の男の姿が露わになる。中肉中背、黒髪の青年がそこに居た。

 その青年はしばらくの間身動ぎもしなかった。だが、段々と瞼が動き始め、指が動き始め、赤い瞳が見開かれ――。

C.E.78、九月十一日。

その日まで、私は平穏でした。

この人生がずっと続いていくんだと、何の疑問も無く思っていました。

その日、全てが始まったのです。

 九月十一日の朝は、静かに始まった。

 明け方まで語り明かしたソラは、ほんの少し仮眠した後、眠気覚ましに近くの公園を散歩することにした。この後、喫茶店『ロンデニウム』でのアルバイトもしなければならないのだ。意識をしっかりさせておくに越したことはないと考えたのだ。

 少し肌寒いが、良く晴れた空だ。目覚ましには丁度いい。公園を二週程して、帰ろうとして――ソラは、運命に直面することになった。

 「や、止めろ! いきなり何をする!」

 「やかましい! このテロリストが!」

 老人に、若者数人が襲い掛かっている!

 その老人は、ソラも見知っている人だった。この公園でよく会う、老紳士だ。いつも快く挨拶をしてくれたり、鳩に餌をやっている人なので、ソラはその老紳士が悪い人には思えなかった。

 だから――寝不足の思考回路だったからかもしれない――少々短絡ながら、ソラはその騒ぎを止めに入った。

 「止めなさい、お年寄り相手に!」

その人の瞳は、血の色の様に真っ赤でした。

恐ろしいほど凄みのある、強い――真っ直ぐな瞳。

 「邪魔だ!」

 「きゃあっ!」

 止めに入ったソラは、若者の腕の一振りで吹き飛ばされる。

 「お嬢さん! ……ええい、治安警察の犬共めっ!」

 老紳士が吼えるが、そのまま地面に押さえ込まれる。

 「大人しくしてもらおう。万が一でも疑いがあれば、拘束させてもらわなければならんのでな」

 「無茶苦茶を……!」

 「ロナウド=ウィラード殿。それだけの疑いがあれば充分だろう」

その人はまるで暗闇から湧き出すように現れました。

真っ黒いコートを羽織り、黒ずくめの姿で。

――射すくめる様な視線と、凄みのある声音と共に。

 「年寄りと子供を苛めるのが治安警察の仕事か?」

その時の事は、はっきりと覚えています。

老紳士に暴行を振るっていた若者達が、その黒ずくめの青年に打ち掛かった瞬間。

反対にその若者達が、吹き飛ばされていたのです。

 まるで――吸い込まれる様に。

 若者達も、老紳士も、そしてソラも。

 その青年から目を逸らせなかった。

 そして、若者達はその青年に打ち掛かり――始めは吸い込まれる様に、そしてある一定を過ぎたら全く間逆に弾け飛ばされた。青年が相手の力を応用し、弾き飛ばしたのだ。武道の経験のないソラには、まるで手品の様にも見えた。

 一人、二人……まとめて更に二人。あっという間に四人の若者達が大地に伏して動かなくなる。それは凄まじい手練の技であった。

……私は、あの人から目を逸らせなかった。

平和なオーブでこんなことが起こるなんて、とか

この暴漢の特徴をしっかりと捉えて通報しよう、とか考えていた訳じゃない。

ただ、私は吸い寄せられる様に、あの人を見つめていたの……。

 「父さん、母さん、マユ……ステラ、ルナ、レイ、ハイネ。ミネルバのみんな……。

 俺は、俺は帰ってきたぞ……」

立ち去っていくあの人の背中を見ながら、私は思いました。

ああ、私は知りたいのだと。

言葉に出来ない、湧き上がるこの思いを。

……何の疑問も持たなかった平穏な生活。

私の生活はこの日、終わりを迎えたのです。

 

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