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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-4

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 階段を上がる度に、鼓動が強まるのが分かる。
 手に持ったバイオリンケースに収められた対戦車ライフルの重みが、じっとりと感じられる。
 シンは平静に、平静にと呪文のように繰り返しながら歩き続けた。
 ビルの屋上に出て、頬に風を感じる――その時、鼓動はいよいよ高まった。
 遥か一キロ先に見える広場、これからそこに立つカガリ=ユラ=アスハ。

 (俺が、アイツを殺すのか。カガリ=ユラ=アスハを)

 どこか他人事のように、激情ではない思いに心を震わせ、シンは舌舐めずりをした。かさかさの唇を濡らしておきたかった。




 「いくらなんでも、厳重すぎないか?」

 会場に向かう送迎車両の中で警護計画を説明し終わると、総責任者であるアスラン=ザラに発せられた警護対象、カガリ=ユラ=アスハ国家主席の第一声はそれだった。アスランは湧き上がる頭痛を振り払いながら、勤めて冷静にカガリに説明する。

 「あのな……カガリ。お前は今、世界で最も狙われている要人なんだぞ。その要人を護衛する上で『厳重すぎる』って事はないんだ。『国民と触れ合いたい』というお前の要望を叶える為の最善策なんだぞ、これでも」

 どうしても語気が荒々しくなってしまう。が、アスランを責めるのは酷だろう。この数日不休で警護計画を立案したのはアスランなのだから。もっとも統一連合のブレーン連中でこの数日安眠出来ているのはカガリ位なものだろうが。
 式典が執り行われるオロファト中央公園広場の警備状況はこのようなものだ。
 まず、公園周辺は完全に封鎖される。公園に入る聴衆は十年以上のオーブ国籍を持つ者か、来賓証明書を持つ者に限られる。彼等は入念な所持品チェックを経て、ようやく公園内に入れるのだ。更にカガリ等の要人が入る控え室や演台等は強化防弾ガラスで密閉されており、万が一公園内で有毒物質が発生したり、爆弾などが爆発しても問題ないように設計されている。勿論強化防弾ガラスなので狙撃に対しても万全だ。とはいえ、近年弾頭強化が行われた歩兵火器で撃ち抜かれるケースも有るので、狙撃対策として近隣五百メートル圏内に複数の部隊を配置している。とどめに会場はぐるりと無人ピースアストレイで囲まれ、遠距離からの射線はシャットアウトしてしまう。
 文字通り、蟻の子一匹通さぬ布陣なのだ。

 「でも、この式典はオーブ建国以来のもので、お父様の時代は聴衆と握手したり、触れ合いながら演説したものだ。私が人気がないといえば、そうなのかも知れないが……」
 「……そういう問題じゃないんだがな」

 統一地球圏連合政府記念式典は、オーブ建国記念日に併せて行なわれる。それはオーブが世界の中心であると発信することでもあるのだ。オーブのみのお祭りであった昔と比べるものではないのだが。とはいえ、カガリが甘えてきているのがアスランにも分かったので、それ以上アスランも言わなかった。
 ふと、カガリがアスランに向き直る。

 「それより、このドレスおかしくないか? キサカに無理やり着せられたんだが。私としては、いつもの軍服がよかったんだけどな」
 「ああ、よく似合ってるよ」

 カガリが着ている若草色のドレスは、アスランから見ても彼女の魅力を余すことなく現していた。国家主席という肩書きがなくても、男から見たら放っておけない美貌だろう。とはいえ、アスランはそれ以上その話題を続けようとはしなかった。自分はメイリンと結婚しているのだから、とどこかで自分を抑えているのだろうか。それはカガリにも何となく分かっていたので、カガリもそれ以上言わなかった。
 二人の間にある微妙な溝――それを埋めることなく車は会場入りした。




 コニールの仕事はたくさんあった。今回の計画はリヴァイブのものだけではなかったので、他との連携を取らなければならない。しかし肝心のシンは『対外折衝』というものに基本的に無頓着。と、なればコニール一人がやらなければならないのである。

 「ああもう、全くどいつもこいつも!」

 ノートパソコンを弄りながら愚痴るが、聞く者はいない。それが尚更コニールをイラつかせていた。
 ローゼンクロイツとの情報のやり取りは基本的に暗号通信によって行なわれる。治安警察などの当局の目を掻い潜る為、それは毎回変わるややこしいものだ。今は育児サイトの交流掲示板がそれになっており、コニールは様々な言葉遊びでやり取りをしなければならなかった。

 「『状況を早めろ』って、こっちが遊んでるとでも思ってんの!?」

 最初の計画ではローゼンクロイツの別働隊が先に騒動を起こし、その隙を突いてシンが狙撃をする手はずになっていた。それがここに来ての変更となれば、コニールでなくても怒る。

 「あいつら、こっちを捨て石にする気ね!」

 力関係としてはリヴァイブはローゼンクロイツの一支部、という位のものだ。当然対等といえる立場ではない。が、だからといって足蹴にされる言われもない。

 「いいわよ、こっちだってそんなにアテにしてなかったんだ。アンタ等の手なんか借りるもんか!」

 状況は孤立無援といっていい。動ける人間はシンとコニールの二人きり、装備は現地調達したものばかり。しかしそれでもコニールは絶望しなかった。
 何とかなる――絶望を潜り抜け続けた男が、傍にいるのだから。




 会場は、凄まじい賑わいをみせていた。 
 折からの晴天がそうした状況を呼び込んだのか、会場に入れなくても『少しでも近くにいたい』という心理が後押ししたのか。楽団がファンファーレを響かせ、風船やらなにやらが空に舞い、色とりどりの装束に身を包んだ芸人達がその技を競う。正にオロファトを上げてのお祭りムード一色といった状況だった。
 そんな様をスコープ越しに見ながら、シンは思う。

 「……能天気な連中だ。だからオーブの連中ってのは!」

 つい口に出た怒気を吐き出し、シンは心を静める。シンはバイオリンケースを開けると、その中に収納されていた対戦車ライフル一式を素早く組み立てる。その手捌きは機械の様に正確で、シンがその武器に習熟しているのが見て取れた。
 カガリが立つ演台まで、ここから約一キロ。シンの技量を持ってすれば、狙えない距離ではない。しかし、周囲に配置されていたピースアストレイがいかにも邪魔だった。

 「相手も馬鹿じゃないってか。まあ、やりようはあるけどな」

 多少なりと不安はある。しかしシンはそれを考えない様にしていた。
 偶発事故はいくらでも起こりうる。こうした事は運試しなのだと、シンは考えていた。




 「アスラン、久しぶり」

 カガリと別れ、会場を見回ろうとアスランが動き出した時、後ろから呼び止める声。それは彼の親友キラ=ヤマトのものに他ならなかった。

 「キラ! それにラクスも。久しぶりだな」
 「そうですわね、三日と五時間ぶりの『久しぶり』ですわ」

 破顔するアスランに、キラの傍に控えるラクスが茶化して言う。

 「それしか経ってなかったか。最近忙しくて、何だか数ヶ月も会ってない様な気分だった」
 「大げさだね。でもアスランが大変なのは分かるよ」
 「俺だけじゃないさ。バルトフェルドさんも式典の取仕切りで走り回ってる。後はもう、何事もなく終わってくれればそれでいいよ」
 「そうですわね。皆が笑って過ごせるのであれば、それ以上は望みませんわ」

 アスランはどこか安心していた。少しも変わらない親友と元婚約者。なぜか自分は間違っていないのだと、安心させられるその存在感。そうしたものがこの二人からは感じられるのだ。
 とはいえ、のんびりはしていられない。もう式典は始まるのだ。

 「とりあえず二人とも、席に着いていてくれ。俺はもう一度会場を見回ってくる」

 そう言うと、アスランは足早に立ち去る。置いていかれた二人は苦笑していた。

 「じっとしてられない、か。アスランらしいけどね」
 「動いていないと落ち着かないのでしょうね。本当に変わらない人ですわ」

 二人はくすくすと笑いながら、彼等の席に向かおうと歩き出す。キラの持つ携帯端末が鳴り出したのは、そんな時だった。




 ――式典が始まる。

 《オーブの皆様、そして世界の皆様へ。私カガリ=ユラ=アスハは今日という日、統一地球圏連合政府がめでたく三周年を向かえた今日という日を嬉しく、そして誇らしく思う。
 それは世界の人々が皆、平和を望んでいるからなのだと思うからだ。
 統一連合の目指す『主権返上』とは、世界を一つにするという事だ。それは、国家同士の戦争を止めようという事に他ならないんだ。
 世界では今なお、苦しんでいる人が、迷っている人がいる。そうした人々に我々が出来ることはなんだろうか。
 手を差し伸べ、共に歩んで行こうと提案することではないだろうか》

 「さすが、奇麗事はアスハのお家芸だな」 

 シンはどこか、心が落ち着いていくのを感じていた。射撃軸線に今だカガリの姿は入ってこない。しかし、シンの脳裏にカガリの姿がはっきりと映し出される。まるで幼子か童の様な穢れを知らないその瞳――シンには許せないその瞳。それを持つカガリを、あるいはシンは憎んでいた。
 対戦車ライフルを微調整しながら、シンは考える。

 (ほんの一瞬だ。ピースアストレイを射撃軸線から動かせば、アスハを狙い撃てる。その為には……)

 今からシンが行なうのは、通常の狙撃ではない。だが、カガリを狙うためにはやらなければならないのだ。様々な事を考えながら、シンは結論付けた。

 (五秒。そんなところか……護衛の連中も間に合わない。しっかり狙い撃てれば、アスハは死ぬ)

 呼吸を沈める。だんだんと鼓動が弱まり、そして意識が統一され――


 そしてシンは引き金を引いた。




 その時。
 アスランはキラからのメールを受け取り、読んだところだった。その内容の恐ろしさが脳裏に書き込まれるまでの僅かな瞬間、それが起こった。

 (ピースアストレイが……傾いた?)

 一瞬、ほんの一瞬。その瞬間アスランの両足は大地を蹴り、走り出していた。脳内で全ての事象がリンクするよりも早く、アスランが奔る。それはもはや本能的なものだったのかも知れない。いや、見えたのかもしれない。アスランの視界の中に、ほんの一瞬だけでも。
 殺意を持つ者の姿が――それは。

 「カガリっ!」

 会場中の視線が自分に集まる。カガリの怪訝な顔が見え、そしてアスランには見えた。彼方から飛来する殺意の『線』が。それは特殊防弾ガラスすら撃ち抜き――

 アスランがカガリを押し倒すのと、着弾音は同時だった。




 「アスラン=ザラっ!」

 シンは呻いた。まさか間に合うとは、と。初撃でピースアストレイ脚駆動部を撃ち抜き、膝が抜けたピースアストレイによって生じる空間への狙撃。瞬時に狙いを変更できたシンの技こそ誉められるべきだろう。
 カガリの姿は演台の影に隠れ、ここからは見えない。しかし、シンには何となく外れたのが解っていた。当たった時の感覚ではないと、本能が告げている。
 もう一度ライフルを構え、演台ごと狙撃しようとしてスコープを覗いた時、シンは慄然した。こちらに向かって殺意が放たれていたのが解ったのだ。アスランは起き上っており、手にした拳銃でこちらを見据え、そして――既に撃っていた。
 シンがスコープから身を離したのはその瞬間。スコープにアスランの放った銃弾が着弾したのもその瞬間だった。それはスコープのサイトを破壊した程度に留まったが。

 (……あ、あの距離から当ててくるか!?)

 いくら対戦車ライフルの弾痕が大きくても、それは十センチにも満たないはずだ。防弾ガラスに空いた、そんな小さな穴を通して一キロ先の相手を狙う――どう考えても人間技ではない。まして拳銃で、である。

 「畜生、やっぱり化け物だアイツは!」

 思わず口から愚痴が出る。無理もないが。
 ふと、サングラスに仕込まれた通信機が作動した。盗聴の恐れがあるので緊急時以外は使われないはずだが、もはやそんな事は言ってられない情勢らしい。

 《シン、逃げて! 失敗よ!》
 「みたいだな。こっちも発見された!」
 《後で落ち合いましょ! 『約束の地》で!》

 それだけで通信は切れた。逆探知対策も兼ねているのだろう。ともかくシンはきびすを返すと走り出した。何とか逃げきらなければならないのだ。




 《予想通り、失敗だな》

 通信機の向こうから男の声が漏れる。どこか老成した様な声だ。

 「コーカサスの片田舎グループじゃこんなもんだろうさ。むしろよくやった方だよ。どのみち、こっちが本命だからねぇ」

 モビルスーツのコクピットで、女が舌舐めずりをする。蛇を思わせる、ちろりとした舌舐めずり。眼光は鋭く、しかし爬虫類的な瞳――シーグリス=マルカ。それが彼女の名前だった。水中用モビルスーツ『海坊主』のコクピットで彼女は官能的に伸びをしてみせる。待ちくたびれた、という風情だった。

 「よし、全機エンジン始動! ここまで海流に漂ってきたんだ、しゃきっと行くよ!」

 シーグリス機の周囲からエンジン機動音が響き渡る。十機、いやもっとか。
 モビルスーツの群れは一つになって進む――オーブが誇る軍港、オノゴロ島へ向かって。




 シラヒは焦っていた。失態を挽回しなければ、と。
 失態と言っても大した事はないと思ってもいたが、しかして失態は失態である。自分のコスプレ衣装を盗まれた――それは任務に支障を来たす事態ではあったからだ。

 「まあ、アタシはいいけどね。子供は嫌いじゃないけどねー」
 「任務には違いないから、報告はしておきましたよ」

 完全に他人事な同僚に、シラヒはいっそ泣きたい心境だった。事態の真相を知ったら泣くどころでは済まないだろうが、現時点でシラヒの知りえる事はそれだけだったのである。せめて犯人を捕まえなければ、とシラヒは焦っていたのだ。自分のバイクを引っ張り出し、オロファト市内を走り回っているのはその為である。

 「……ん? シラヒ、あれじゃない?」

 バイクの後ろに乗っているレイラが言う。『状況からの逃走手段』としてシラヒのお目付け役を買って出たのだ。
 なんという偶然だろうか、レイラは本当に偶然シンを見つけたのである。シンが目立つ衣装を着ていたというのも有るし、今のシンは走っていたというのもあるが。

 「何!? 本当だ、アイツ!」

 この時点でシラヒは運を使い果たしたと言っていい。この雑踏の中でシンを見つけ出したというのは奇跡に近い確率だったからだ。
 あるいは、シンの悪運が強すぎるのだろうか。ともあれ、シラヒの不幸は『現状を知らなかった事』に他ならなかった。事細かに現状を報告したくないのもあったし、装備一式をトレーラーに置いておいたという事も不幸だった。まとめると『シラヒは不幸だった』という事になる。

 「おい、お前! ちょっと待て!」

 バイクを止め、掴みかかろうとして――シラヒは再び昏倒した。最後に見たのは、振り返った時にニヤリと笑った顔だったろうか。
 吹き飛ばされたシラヒにレイラは走りよる。数瞬後、バイクの排気音が響き渡り、『シラヒの呼び止めた男』は走り去っていった。レイラはしばらく呆気に取られていたが、シラヒの顔を見てこう言った。

 「……ダッサ」と。




 治安警察本部は、数分前の静寂から一転、怒号渦巻く戦場と化していた。

 「市内状況、まだ封鎖できんか!」
 「無理です、群衆が多すぎます! これだから……!」
 「泣き言を言うな、解っていた事だ!」

 とはいえ指揮を取るエイガーにしてみても苦悩はある。

 (何かあればこの様な状況になるのは解り切っていた。しかしどうしても『平和』なムードを出したいという官邸の要望を聞き入れなければならなかった。何という下策か!)

 とにかく、事態の収拾に努めるエイガー。だが事態は更に悪化の一途を辿る。

 「緊急入電、オノゴロ島にモビルスーツ多数接近との事! 映像出します!」

 映像に一瞬だけ映ったもの――それは基地に向かって飛来してくるミサイルの映像だった。




 シンは走る、ひた走る。
 タイミングよくバイクが得られたのは幸運だった。おかげで治安警察の封鎖網が敷かれる前にオロファト市内から脱出出来つつある。とはいえ、そうそう楽観もしてはいられない。

 「一度市内から脱出しなきゃならないな」

 シンとて、ローゼンクロイツの連中が何事か起こすのは知っている。逃げるのならその混乱に乗じなければならない――ならば、必然的に警備が強化されるオロファト市内から脱出しなければならないだろう。
 とはいえ、それも簡単な事ではない。既に後背からサイレンの音が追尾してきている。おそらくバイク警官だろう。

 「仕事熱心だな、オーブの『おまわりさん』は」

 オーブらしい、といえばそうだろう。こうした場合各部署が独自に動くのが近代警察だ。事態が解らなくても『怪しければ捕らえろ』というのは間違いではない。
 とはいえ、どこまで付いてこれるか――シンには余裕があった。いくら頑張っても個人技量ではナチュラルはコーディネイターに叶わない。ましてや、常に戦火の中を駆け抜けたシンと、平和な世界で生きている者達では比べ物にならないのだ。
 さて、どこで撒くか――そんな事を考えていた時、シンは改めて慄然した。まさか追ってくるとは思わなかったのだ、あの男が。

 「待てっ! 逃がさん!」

 真紅のバイクも色鮮やかに、あの男――アスラン=ザラが猛追を仕掛けてきていた!




 アスランとしては、やる事は単純だった。
 カガリの無事を確認したら、後はSPに命じて彼女を安全な場所に放り込む。その後はすぐさま犯人を追いかけるだけだ。この時『誰かに任せる』という思考が発生しないのがアスランという人間なのだろう。あるいは一キロ越しの殺意に何か感じる事があったのだろうか。
 ともあれアスランは追いかけていた――前方にいる、妙なコスプレをした男を。
 そして、こうして後ろに付けばバイクの性能ではこちらが勝っているのが解る。ならば。

 「取り押さえる!」

 アスランはスロットルを絞り、更にバイクを加速させる。みるみる距離が縮まっていくのがよく判った。逃走する男もそれが解ったらしく、こちらも速度を上げていく。いきなり難易度の跳ね上がったチェイスに、オーブの『おまわりさん』達は次々と戦列から離れていった。とはいえ、それはもう二人には関係ない話だった。
 車の間を駆け抜け、カーブを攻める二人のバイク。それは正にドッグファイトであった。

 「アスラン=ザラっ!」

 シンは呻く。改めてあの男の凄さが解る――腹芸などはできないが、瞬間の判断であれば最強の、かつてシンが戦慄した『ヤキン=ドゥーエを超えた者』。味方の間は感じさせないが、いざ敵対してみれば解る凄み。そういったものがアスランにはあるのだ。

 「絶対に、逃がさん!」

 それは、単純さ故だろうか。純粋だからこその強さだろうか。
 シンプルだからこそ強い――アスランとはそういう人間だった。
 しかし、だからといって。

 「アンタに負けられるか!」

 シンが吼える。この男にだけは負けられない。負けたくない。もう二度と、この男には。
 いよいよ並んできたアスランのバイクにシンは体当たりをする。カウルが割れ、火花が散った。

 「貴様ァ!」
 「いつもそうやって、やれると思うな!」

 市内を抜け、海岸線に出るが一向に二人のせめぎ合いは止まらない。むしろますます危険な領域に突入していく。少しバランスを崩せば即転倒の、危険なタイトロープ。
 しかし、アスランも全く臆せずバイクをぶつけていく。

 「なぜカガリを襲う! 彼女は世界に必要なんだぞ! なぜそれが解らない!」
 「――そうやって、上から決め付けるのがアンタの『正義』かよ!」

 何度目かの体当たりの後、シンが怯んだ。サングラスが割れたのだ。シンはそれを捨てて、吼える。

 「アンタが……そうやっていつもアンタは!」
 (俺を否定するのか!)

 それは、シンの慟哭だった。心からの絶叫だった。しかし、それがアスランに通じるよりも早く、アスランは気付いていた。

 「シン!?」

 アスランの表情に驚愕が浮かぶ。その隙をシンは見逃さなかった。

 「うおおおおっ!」

 最後の体当たりは凄絶なものだった。アスランのバイクが吹き飛ばされ、バランスを崩す。シンのバイクはカウルのほとんどが吹き飛んだが、しかしそのまま走り去っていった。崩れたバランスを直す事を諦め、停車する事に終始するアスラン。甲斐あって何とか停車するが、その頃にはシンのバイクは走り去っていた。さすがにこれだけ差が開いては追い切れない。それに、アスランにしても平静を保ってはいられなかった。

 「……シン、お前はまだ……」

 そう呟いたきり、アスランは押し黙った。
 だんだんと夕闇が世界を塗り替えていくのが、辛かった。




 ――オノゴロ島が爆炎で染まる。

 「予定通り、ですな」
 「そうですわね。これで首席も考え方を変えなければならないでしょう」
 「『話せば解る』――それは理想論です。それで済むのなら、過去二回の大戦はなかった。強攻策は時に必要なのでしょう」
 「それにしても大層な狼煙ですねぇ。我々にとってオノゴロ島がさほど重要な拠点ではない、という事もありますが……」

 暗闇で、何かが蠢いている。
 それは『世界を平和にしたい』と願う者達。その為に『手段を選ばない』者達。
 理想論では世界は治められないと確信する者達であった。

 「諸君、これが始まりだ。『真の平和』への道筋を見つける事が、私達の目的なのだよ」

 そう、治安警察長官ゲルハルト=ライヒは厳かに言った。
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