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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-5

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 ……暗闇の中、手を伸ばす。
 彼方に見える光に、手が届かない事は知っている。
 その先に居るはずの『春の日差しの様に笑う女の子』にも、手が届かない事を知っている。もう触れる事が出来ない事を、痛いほど知っている。
 けれど、だから。
 もしも触れる事が出来るのなら。もしも届く事があるのなら。
 馬鹿だと罵られても、愚かだと蔑まれても。俺は手を伸ばし続ける。
 そうだ。例え俺が……で、……だったとしても。

 (……ん?)

 俺は――何だ――何かを。
 ……ああ、そうだ。俺の手は一度、届いたはずなんだ。
 なのに、何故だ。
 なのに、何故だ。
 俺は、何かを……っている。

 (いや、関係ない。手を伸ばさなければ)

 そうしなければ。
 そうしなければ、救えない。
 そうしなければ、愛せない。
 そうしなければ、俺は俺で居られない。
 だから、手を伸ばさなければ。ただ、ひたすら。
 彼方に見える光に、手が届かない事は知っているのに。

 (止めろ、待て。待てってば! 行くな……行くな!)

 手を。遠くへ。掴むために。掴んで。引っ張って。
 俺は、叫んでいた。我知らず、叫んでいた。その言葉を――その人の名を。

 (――ルナマリア!)




 空しく握り締めた拳が、視界に入る。絶え絶えの息が胸を締め付けているのを感じて、深呼吸をする。シンは、ぐっしょりと濡れた前髪を手で払い、顔を拭った。

 「畜生……またか」

 一言呟く。それがやっとだった。シンは背もたれに使っていた壁にもう一度体を預け、足を引き寄せる。壁と床――それしかない部屋。そこが、シンとコニールが取り決めた『約束の地』だった。
 市外の更に外れに作られた集合団地、その跡地。かつてモルゲンレーテがオノゴロ島で最盛期を迎えていた時、従業員用に作られていた団地である。そしてシンが居るのは、かつて自分の家族が使っていた一室――シンの部屋だった場所だ。今はもう家具も何もかも処分され、煤けたコンクリートと捲れたフローリングがあるだけの部屋。けれどそれは確かに、かつての自分の部屋に間違いなかった。
 侵入する方法は簡単だった。打ち捨てられた団地――僅かに残ったバッテリーで動いていたオートロックは、当時と変わらない番号で解除できた。都市部の開発を急ぐあまり、打ち捨てられた箇所というものはある。ここは、そういった場所だったのだ。
 窓の外を見やり、シンは思う。割れたガラス越しの夜空は、あの時となんら変わりない――嫌になるほど。

 (ルナ。俺は……)

 シンは普段、過去の事を考えないようにしている。思い出すには辛すぎ、顧みても癒しようがない事柄ばかりだからだ。けれど、今は駄目だった。奔流の様に過去の思い出が蘇っていき――不意に、シンは気が付いた。

 (俺は……俺は、ルナの死んだところを見ていない。どういうことだ?)

 何故だろう。何故自分は『ルナが死んだ』と決め付けているのだろう。しかしシンはそれ以上思い出そうとしても、出来なかった。ぼんやりとした頭が拒否しているのがわかって、シンはこう考える事にした。

 (生きているのなら、いつか会えるだろうさ)

 それはシンにとって嬉しい考え方だったのだ。




 「……大変だったみたいだな、バルトフェルド」

 統一地球圏連合政府第一宇宙軍総旗艦ミカエルのマストブリッジで、艦隊司令ムゥ=ラ=フラガは秘書官が入れてくれたコーヒーを飲みながら笑顔で答えた。ブリッジに設えられた大型スクリーンに映るアンドリュー=バルトフェルドはこちらもコーヒーを飲みつつ、渋面になって言う。

 《いやはや、近年では最も忙しい日だね。こんな事は若手に任せて、そろそろ隠居したいんだがねぇ》
 「そうもいかないだろう、統一連合情報省大臣殿?」
 《全く、肩書きだけさ。実権はあのライヒが半分持っていってるんだからね》
 「それでも半分あるだろ。全く……」
 《面倒な事、さ》

 お互いの顔に浮かぶのは歴戦の証である傷跡の数々と、そして全くそれを誇りに出来ない、したくないという笑顔。長く生きたところで、それはただ他人より多く殺してきたに過ぎないのだ――そういう自負。彼等二人が長く親友として付き合えるのは、正にそういうところだろう。

 「それにしても、こんな大騒ぎになるとはね。アスハ主席狙撃事件に、オノゴロ島襲撃事件と来た。しばらくニュースソースのネタには困らないね、こりゃ。俺は宇宙にいてラクだったのかも知れないな」
 《君が式典に来れなかったのは単に、宇宙が不穏だったからだろ? そっちだって充分鉄火場じゃないか》
 「……言わないでくれ。根本的解決策がない以上、出来るのはもぐら叩きだけさ」

 CE.78年当時、宇宙は平穏であった――等とは、到底言える状況ではない。頻発する宇宙海賊事件、多発する旧ザフト軍残党による武力攻勢。それらに対するは促成栽培で造り上げられた若年兵士達――とてもではないが、平穏であったとは言えないのである。それでもここ数年のムゥの尽力により、多少は平穏になってきているのだが。

 《何しろ、現状で君が抜けた途端に元の木阿弥になる。『エンデュミオンの鷹』の名は偉大だね》
 「いっそ、名前を彫った木像でも置いとけばいいのかと思うよ」
 《やってみてもいいんじゃないか? 本気なら予算審議会に掛け合うよ》
 「……後生だから止めてくれ。子々孫々そんな事を語られたくない」

 お互い苦笑する。横で聞いているお互いの秘書官も笑いを堪えるのに懸命だ。公共電波でこんな会話をするのは彼等くらいのものだろう。部下の緊張を解す為にしていると考える事も出来るが、多分に地なのだろうが。
 心地良い空気が流れる――しかし、それで終わらせる訳にいかないのが彼等の立場であり、悲しさである。ムゥは顔を引き締めると、言った。呼応してバルトフェルドの顔も引き締まる。

 「それで、官邸の方は?」
 《予想していると思うが、右往左往している。どう対処していいのかわからない、というところかな。軍部の人達はオノゴロ島が壊滅したのがショックだったみたいだね。あそこに軍事拠点としての価値はもう、ほとんどないんだがねぇ」
 「モニュメントってのは必要なのさ。それで?」
 《オーブ海軍は逃げたモビルスーツ群を追って出撃、今の所は進展なし――おそらく今後も、ね。逃走したモビルスーツを見つけるのは至難の業だって事を理解できないのかね。主席狙撃の犯人は今だ逃走中……ん、一応市内は出たみたいだ。とはいえ山狩りしようにも警備の方に重点を置きたいから、結局は治安警察に頼まないと駄目なんだろうね》
 「治安警察、か……」

 どうにもきな臭い感じをムゥは覚える。それはバルトフェルドも同じらしい。しかし彼等はお互い目配せだけでそれを言葉にはしない。今、憶測を口に出す訳にはいかないのだ。

 《官邸では軍閥の動きをアスハ主席が抑えようとしているけど、聞かん坊だからね連中は。『平和維持活動』の名の下に、出兵が決まるのは間違いない。……今のところは、こんな状況だね》
 「助かるよ。世事に疎くはなりたくないんでね」
 《やれやれ、大臣にホットラインで『新聞記事を読み上げろ』っていうのは『エンデュミオンの鷹』位だよ。お休み》
 「いい夢を」

 お互い今夜は眠れないだろう、という事は解っていたが。
 モニタを消し、ムゥは溜息を吐くと懐から一枚の写真を取り出す。それには愛する妻、マリューとまだ赤ん坊の長男アンリの姿があった。

 「マリュー、アンリ……父ちゃん頑張るからな」

 もう一年近く彼等と会えていない。しかし彼等の為に、自分は為すべき事がある。ムゥは気を引き締めると、秘書官を呼びつけ、幾つかの命令を与えた。軍団を維持するだけでも、司令官というのは大変なものなのである。



 
 多分、相手は考えていないだろう。信頼してくれているのかも知れないが、考えてないだろう。おそらくはこっちが何とかしてくれると考え、信じてくれているのだろうか。それらはどう思おうとコニール=アルメタの都合であるが、どれ一つとしてコニールのストレスを解消する役目は果たしていなかった。

 「あんの……大馬鹿野郎っ! せめて連絡位よこせっ!」

 もはや何度目かの怒髪天をコニールは感じていた。原因は言う必要もないだろう。オーブから脱出する際、最も重要なのはタイミングだ。それを決めるためには多少の通信も止むを得ない――そういう決め事があったはずなのだが、一向にシンからの連絡は来なかった。逃走の際に通信機が壊れたのかもしれないが、にしても。

 「一発勝負なのよ、今回のミッションはどれもこれも! よくこんな無茶なミッション組んだなぁって思ったけどさ! それにしたって最悪、斜め下ブッチギリの状況を更に悪化させないでよ!」

 誰に対しての愚痴なのだろうか。
 ともかく、事態は刻々と悪化している。現在オロファト市内は非常線が幾重にも敷かれ、コニールとしても動き辛くなって来ているのだ。コニールとしては打てる手をきちんと打っているのだが。
 コニールはしばらくあれこれと考えを巡らせながらうろうろとしていたが、不意に足を止めた。その後渋面になり、更に苦悩で頭を掻き毟ったが、叫ぶ様に決めた。

 「ああもうっ、こうなりゃヤケよ!」

 通信機を引っ張り出し、今まで決して通話しなかった相手の番号を指定する。その相手は、今はどこにいるかも解らず、ヘタするとその辺に落ちているかもしれない『腕時計』だった。

 「レイ、聞こえてるの!? アンタどこに居るの!?」




 (……会えなかったなぁ、あの人。どこの人なんだろ……)

 その頃。ソラは同室の皆より早く寄宿舎に戻り、一人悶々としていた。喫茶『ロンデニウム』でのバイトは「こんな状況だから早く帰りなさい」とマスターに言われ、早々に帰る事になってしまったのだ。寝るには早く、しかし出かけるにしても遅い時刻。仕方なくソラは親友達の帰りを待ちわびながら、ベッドの上で休んでいた。
 その時――まるで雷鳴の様に――怒鳴り声が左手から飛び出してきた。

 《レイ、聞こえてるの!? アンタどこに居るの!?》
 「!?」

 勢い余って、ベッドから転げ落ちる。頭を擦りながら、何が起こったのか確認しようとして――

 《騒がしいぞ。そう焦っては何事も叶わん》
 「……え?」
 《レイ! アンタ今何を……!》
 《落ち着け。状況は今更好転なぞせん。事態を理解すれば取るべき行動は見えるはずだ》
 「何、何!?」
 《何でそんなにアンタは偉そうなのよ! ……って、他に誰か居る?》
 《居るぞ。ソラ=ヒダカさんだったかな?」
 「はい!?」

 一拍置いて、ソラは状況を理解し――出来なかった。 

 「わ、私の左手が左手にー!?」

 ソラに出来た事は、絶叫だけだった。

 《だから落ち着けと言ったのだ、全く》



  
 妻が寝室から出てくると、夫――キラ=ヤマトはそちらを振り返り、聞いた。

 「カガリは?」
 「お休みになられましたわ。今日は色々ありましたから、疲れたのでしょう」
 「そう……」

 キラはふう、と溜息を吐く。その様子を見てラクスはティーセットを出すと、紅茶を淹れて持ってくる。夫も疲れているのだと悟ったからだ。

 「ありがとう」

 短い返答の後、キラは紅茶を一飲みにする。紅茶を淹れ直しながら、ラクスは言う。

 「カガリ様にも、お支えが必要なのですわ。カガリ様は気丈に見えて、そうでないところもおありですから」
 「……そうだね」

 二人の脳裏に浮かぶのは、彼等の最も親しい友人の顔。しかし、彼に頼る事は出来ない――出来ないのだ。
 不意に、キラが切り出す。

 「どうしたら、いいかな」

 これは今までの会話の流れではない――ラクスは直ぐにそう察した。私人ではなく、公人としての問い。それ故にラクスもまた『公』となる。

 「……今は動くべきではありません。感情的に動く事は戒めるべきです。オーブ海軍が既に動いている様ですが……」
 「分かった。頃合をみて引き上げさせる様、カガリに言っておくよ」
 「賢明ですわ」

 ラクスはにっこりと笑う。つられて笑うキラ。

 「今回の活動において、声明は発せられていません。ならば陽動、と見るべきでしょう。要人暗殺という手段に出たのは防備に少しでも注意を逸らす為と考えるのなら……」
 「統一連合の注意を分散させて、動く……とすればユーラシアかな?」
 「その可能性は高いですわ。あの地域は統一連合と東西ユーラシアが乱立している状態。レジスタンス活動も多いと聞きます。ならば今回の件はローゼンクロイツ辺りの策ではないかと……」

 かちゃりと、カップがソーサーに置かれる。キラは頷きながらラクスに向き直ると、言った。

 「おいで、ラクス」
 「……はい」

 今は夫婦で居たい――それは二人の共通の願い。ラクスはキラの横にちょこんと座り、そして……。



後で、何度も思い返しました。
あそこでああしたら、こうしたらどうなっていたのかなって。
意味もない事を、ずっと。
でも、私はきっと……。




 「あれ、どうしたのソラちゃん。買い物かい?」
 「ええ。あまり外に出ない方が良さそうだから、今のうちに」
 「そっか。あんまり遅くならないようにね」

 良く知っている警察官であった事はラッキーだと、ソラは思う。ソラの事を疑いもせず、通してくれた。この先にも商店があり、その事を咄嗟に思い出せた事も。自転車を漕ぎ始めると、『左手』が話しかけてくる。

 《ふむ、地元民というものは強いものだ。信頼度がコニールとは雲泥の差だな》
 《……聞こえてるわよ、レイ》
 《聞いたかソラ。今の言葉は『納得』していなければ出ない言葉だ》
 「はぁ……」

 先程から一体何度、この妙なやり取りを聞いただろうか。ソラは半ば呆れながら、相槌を打ちつつ歩いていた。
 ソラは今、自分が『愚かな事をしているのだ』と思う。けれど、どうしても自分が抑え切れなかった。

 (解らない。なんで私はこんなにも『あの人』に会いたいんだろう)

 それは一言で言い表せる様な事柄ではない、と思う。恋や愛といった、そんな単純な事では。しいて言うのなら――そう、『運命』とでも言おうか。
 『腕時計』――レイ=ザ=バレルと名乗った――は妙な提案をしてきた。それはおそらく駄目で元々な類の、いわゆる『無茶』なお願いに違いなかった。

 《俺を、君の言う『あの人』に渡して欲しい。無茶な願いだとは承知しているが……》

 ソラにしてみれば、聞く理由は微塵もない。にも拘らず、ソラは次の瞬間動いていた。なぜだろうか、自分でも解らないほどの情熱で。それは提案したレイも通信先のコニールも驚く展開だった。
だから、かも知れない。道中で『腕時計』が聞いてきたのは。それに対してのソラの答えは次のようなものだった。

 「……でも、もうここまで来ちゃったから……」

 レイも、コニールも何も言わなかった。言えなかった、のかもしれない。あるいはここでヘソを曲げられては堪らないと思ったのかもしれない。ともあれソラは誰にも止められる事無く非常線を抜け、市外に出る事が出来ていた。
 そして――ソラの視界には目的地、シンの居る団地が見えてきていた。




 端末を操作しながら、メイリン=ザラは思う。

 (……痕跡が少なすぎる。おそらくは本当に少人数。せいぜい二人か三人……随分無茶な作戦ね。特攻覚悟って所かしら?)

 狭い一室だが、うず高く積み上げられた端末のそれぞれが別個に稼動している。それらを同時に操作できる――それ様にコーディネイトされたメイリンならではの所行だ。
 今、メイリンには治安警察長官ゲルハルト=ライヒから直接命令が伝達されている。内容は『アスハ主席狙撃犯を特定、拘束せよ』だった。彼女に割り当てられた人数は数十人の兵士とオスカー=サザーランド及びエルスティン=ライヒの幹部二人だけ。当然捜査は限られたものになる――しかし、メイリンには自信があった。 誰が何を何処で――必ず痕跡が残る。それを見つければいいと。
 そして遂に、メイリンは狙撃犯が誰かを特定していた。

 (シン=アスカ。生きていたのね、のうのうと……姉さんを守れなかった分際で!)

 ギリッと、爪を噛む。イライラした時の癖だ。しかし頭を振って、冷静になろうと努める。激昂して逃しては、元も個もない。深呼吸して平静になると、メイリンはコンソールを操作して二箇所に連絡を入れた。一つは二人の幹部宛に。もう一つは……。




 場違いだ。そう思った。そう思わざるを得なかった。
 ギラギラした逃走者の瞳を見た時、ソラは本能的に直感したのだ。悲しいほど、思い知らされたのだ――世界が違うのだ、という事を。

 (馬鹿みたいだ、私……)

 なぜ、ここまで来たのだろう。なぜ、こんなにも会いたかったのだろう。それらを振り切ってまで来たはずなのに、待っていたのは全霊の拒絶だった。

 「ふざけるな! こんな子まで巻き込んで……レイ、コニール、お前達何のつもりだ!」
 《弁解のしようもない》
 《アンタだって! ……ううん、アタシが悪い。ごめんねソラちゃん、巻き込んで》

 ソラには、しかしそれらの言葉は届いていなかった。ただ、ソラは圧倒されていたのだ。戦地が醸し出す空気――それを持つ眼前の男に。

 (違う。私が見たかったのは、こんな人じゃない)

 朝会った時、この人はもっと違っていたと思う。赤い瞳はもっと優しさを湛えていたはずだし、視線はもっと真っ直ぐだったはずだ。それなのに、今のこの人は。

 (殺人者――犯罪者。そうなんだ、この人は)

 そう説明されていたのに。ソラが理解できたのは、現物を見てからだった。平和に慣れすぎている、平和以外の世界を知らない人間の悲しさだった。
 なおも言い争う三人――実際に居る人間で話しているのは一人だけだが――の声より明らかに小さかったが、ソラの声は見事に彼等の争いにするりと割り込んでいった。

 「……私、帰ります」

 一瞬の静寂の後。

 《そうだな、その方がいい。世話をかけた》
 《本当にごめんね。埋め合わせなんか出来ないけど、本当にごめん》
 「……当たり前だろ」

 口々に謝る二人、どこか他人事の様に言う一人。ソラはさっさと腕時計を渡して帰ろうとシンに近付いて行き――


 その時、団地内全域にアナウンスが流れた。


 《捕まえたわよ、シン=アスカ》

 声と共に団地内が光で溢れた。切断されていたはずの電源がいきなり復旧して、団地全域が復活したのだ。だが、それだけではない。窓や通路の防火シャッターが閉まり始め、あれよという間にシン達の動きは封殺されていった。

 「な、何?」
 「どうなっている!? 電源は確かに切れていたはず!」
 《鈍いわね、私が復旧させたのよ。電力会社に連絡してね。……お久しぶり、シン。覚えているかしら? かつては貴方と共に戦った戦艦ミネルバのクルー、メイリン=ザラを」

 シンは中空を睨んで返す。まるでそこにメイリンが居るかのように。

 「今、思い出したよ。アスランみたいな蝙蝠男の妻になってるってな。……何の用だ?」

 くすくすと、笑い声が聞こえる。団地内全てに伝達されているのか、あちこちから反響してくる。ソラは気味が悪いと、素直に思っていた。

 《一人の女を守れもしない、情けない男よりは遥かにマシだわ》
 「――っ!」

 奇妙な言い争いが続く。
 置いてかれた形のソラは、しかし不思議な感覚を味わっていた。

 (……どうしてだろう。この人、さっきより怖くない。ううん、違う。そうじゃなくて……)

 バラバラなのだ。何かが。大事なものが。
 しかしそんなソラの思いは、別の考えに取って代わられた。もっと原始的な恐怖が迫ってきていたのだ。

 「何……焦げ臭い?」

 ソラの一言でようやく気が付いたのか、シンが激昂する。

 「メイリン、何をした!」
 《犯罪者の貴方が、何を言うのよ。貴方を捕らえるのに真正面から掛かったら、被害が大きすぎるでしょう? ここで焼け死になさい、シン。嫌なら投降するのね》
 《シン、温度が上がってきている! おそらくここだけじゃない、団地全域で火災が発生しているぞ!》

 二人の会話に今まで入らなかったレイが怒鳴る。

 《レイまで? ……ふぅん、姿を変えてまで、ご執心な事ね。まあいいわ、教えてあげる。既にこの団地は私の支配化に入っているわ。逃げる事は勿論、全てが私の思いのまま。火災を起こす事だってね》
 《メイリン、会話を聞いていたなら知っているはずだ。この少女は関係ない、助けてやってくれ!》

 ふと、シンは見やった。恐怖に怯え、慄く少女の姿を。

 「メイリン、頼む!」

 しかし、返事は素っ気無いものだった。

 《……駄目よ。助けたければ、投降しなさい。貴方はたった一人で一軍を壊滅できる可能性を持つ『カテゴリーS』。その少女には悪いけど、代えられるものじゃないわ》
 「メイリンっ!」
 《解らないの? 貴方は恐れられているのよ――そうやって、何も諦めてくれない貴方を。だから私は、全霊で貴方を止めるわ。私の愛する人を守るために。そのためなら、何だってしてみせる》

 それは、メイリンという女性が持つ意地なのか。はたまた狂気なのか。ソラは徐々に上がって来る温度と、視界に入ってきた煙にいよいよ恐れを抱きつつあった。




 もはや、一刻の猶予もない。細かい打ち合わせをしたかったが、妨害電波のせいで行なえなくなった。と、なれば――やるしかない。

 「追撃が掛かるのは止むを得ないわ。アタシの腕じゃ振り切るのは無理、シンが居なきゃ、ね」

 コニールは冷静だった。普段怒鳴り散らしているからか、はたまた慣れ親しんだ鉄火場の匂いがいよいよ近付いてきたからか。彼女は潜伏先からすぐのところにある倉庫に入っていく。ロックや防犯設備は既に確認済みだった。彼女を止めるものは何もなく、そして彼女は目的の巨大なコンテナの前に立つ。忘れもしない、シンと共にオーブに入港したリサイクル品だ。形式番号ZGMF‐X56S/α、通称を『フォースインパルス』と呼ばれた、五年前の最新鋭兵器である。ほとんどのパーツが破損し、上半身とバックパックのみの状態――だが、生きている部分もある。コニールはそれに偽装し、全部死んでいる様に見せかけていた。
 コンテナを展開させるとコニールは機体に駆け上がり、コクピット脇のコンソールを操作した。何も表示されないが、コニールは構わずスイッチを押していく。すると駆動音が響き始め、不要なパーツが剥離し始めた。
 使えるパーツはコアスプレンダー及びフォースフライヤーの部分。これらを合体させる――リヴァイブの名メカニック、サイ=アーガイル苦心の作品だ。地響きを立て不要パーツが落ちた時、そこには流麗なフォルムを持つ戦闘機が現出していた。

 「さあ、行くわよ『フォース=スプレンダー』! アンタの持ち主を回収に!」

 哀れな倉庫主が事態に気が付いて倉庫に入ってきた時、全ては後の祭りだった。爆風と爆発が倉庫を吹き飛ばし、そしてそこから何かが飛び立っていった時――倉庫主はぺたりとへたり込んでいた。
 何かが終わり、始まったのだ――倉庫主はそう思った。 
 
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