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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-6

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「今度は戦闘機が出現しただと!?」

治安警察オロファト本部における治安部隊隊長、エイガー=グレゴリーは朝からずっと怒鳴り詰めだった。
そして予感していた――明日になるまで怒鳴り続けなければならないのか、と。
一向に事態が収拾するメドも立たず、現場どころか官邸ですら浮き足立っているこの有様では無理もないが。
しかし、怒鳴るだけで事態が進展するわけでもない。エイガーは報告を持ってきた部下に指示を出す。

「とにかく、モビルスーツ隊に伝達。動けるピースアストレイを放出、捕獲に当たれ。オーブ海軍のマサムネにも出撃依頼を伝達せよ!」
「拝命します。しかし、オーブ海軍は既に近海に出撃しており、呼び戻すまでに時間が掛かりますが……」

エイガーはげんなりする。しかし、それで諦める訳にもいかない。

「止むを得んだろう。ピースアストレイで戦闘機に追い付ける訳もないが、威嚇にはなる。
防衛用配備部隊はそのまま。予備部隊で捕獲に当たる。
全機捕獲用ネットワイヤーを装備させろ。市街地での火器使用は厳禁だ。徹底させろ!」
「拝命します!」

敬礼すると、忙しなく部下は退出する。
それを見届けてからエイガーは一息つくと、葉巻に火を点けた。
動けない立場というものがもどかしく、煩わしかった。





武装もない。味方もいない。あるのは追い付かれない『最高速』だけ。
フォース=スプレンダーの現在の状況を表すのならば、そういう事になる。
それでもコニールは落ち着いていた。

「下手糞な連中よね、本当」

コニールは生粋のゲリラだ。
生まれた時からゲリラである事を余儀なくされ、日々生きるために覚えた事は『戦い方』だった。
そんなコニールだからこそ戦場の空気は肌で解る――相手の腰が引けている事も。
市街地を低空飛行で駆け抜けるコニールに対して、ピースアストレイ達はネットワイヤー以外の戦闘オプションを取れないでいた。
出撃した後、コニールは真っ直ぐにシンのいる場所へは向かわなかった。
そんな事をすればどんな馬鹿でも防衛線を張る。
だからコニールはまずは霍乱のために市街地を飛び回っていた。
スピードを殺さずビルとビルの間すら駆け抜けるコニールの操縦テクニックは屈指だ。
モビルスーツの操縦こそ出来ないが、大概の戦闘機であれば満遍なく動かせる。
何度か旋回して、ピースアストレイが集まってくるのを確認するとコニールは再び旋回した。
官邸方向――最も防備が厚い方向だ。

「少し付き合ってもらうわよ」

薄く笑い、コニール。
表情は悪戯っ子のそれである。
いきなり速度を上げて、後続を引き離しにかかる。後続のピースアストレイが射出したネットワイヤーが空しく宙に撒き散らされていく。
前方に展開したピースアストレイは動かず、ネットワイヤーを射出して来るが。

「そんなのに捕まるほど、コニール様は安くないわよ!」

コニールは機体を振り回した。文字通り、無理やり百八十度ターンさせたのだ。
スラスター方向に自由度のあるフォースユニットならではの荒業だ。
当然パイロットにも負担が掛かるが、歯を食いしばりコニールは耐える。

「いっけぇぇ!」

フォースユニットのスラスター出力が全てに勝った。重力もネットワイヤーも全て吹き飛ばし、  フォース=スプレンダーは中空に躍り出る。
ピースアストレイを後方に置き去り、コニールは改めて旋回した。シンの待つ方向に向けて。




あっという間に室内は煙で満たされた。室内の温度も上昇し続け、呼吸する事すら辛くなってきていく。
シンは部屋から脱出するため、何とか扉を開こうと悪戦苦闘していた。

「畜生、メイリンの奴!」

ロックが解除できない。
壁を殴りつけるが、びくともしない。
通常こうした際に行なわれるはずのオートロック解除も、先回りされてシステムを丸ごと変更されているらしく、操作そのものを受け付けてくれない。

《無駄だ、っていってるのに。まあ聞くような性格じゃないでしょうけど》

周囲の熱さとは裏腹に、涼しい声でメイリン。

《それにこの部屋から脱出できた所でどうするの? 
ここは地上二十二階、地表まで約百メートルってところかしら。凄いわね、飛び降りて生きてられるの? 
さすがはザフトレッドのトップエース様って事かしら?》

「うるさいっ!」

《……そうね、今のペースで扉を開けて行ったとして。五分後にこの部屋を脱出する。
その後、地表までの扉の数がざっと四十枚。最短で三時間半って所かしら? 
もっとも、その遥か前に酸素は尽きるでしょうけどね》

《シン、挑発に乗るな。お前の動揺を誘い、注意を逸らす作戦だ》

レイが諭す。シンとしてもそれは解っているのだが。

《私は冷静に状況を分析してあげているだけ、よ。感謝されてもいい位。
……そうね、貴方はいいわ。殺しても死にそうもないから。
でも、そっちの女の子はどうかしら?》

「…………!」

シンはきびすを返す。そこに蹲ったままのソラが居た。
煙をまともに吸い込み、動く事すらままならなくなっている。
今は何とか床付近の空気を吸って呼吸を取り戻しつつあるが、それだっていつまで持つか。

《ソラ、そうだ。そのまま呼吸を……そうだ、それでいい》

レイがソラの傍に居てくれてよかった――そうシンは思うが、しかしこのままにしておく訳にいかない。
バスルームに少しだけ残っていた水に上着を浸すと、それをソラに被せさせる。
こんな事で熱を遮断できる訳もないが、無いよりマシだ。
シンはソラの顔を覗き込む。
生気のない瞳――それは今までシンが何度も見てきた『死に恐怖する者の瞳』。
ソラの口がぱくぱくと動いた。
息も絶え絶えの、助けを求める事すら出来ない声で、しかしソラは確かにこう言った。

――助けて。

ドクン、と鼓動が聞こえる。
何かがシンの奥底で蠢くのが解る。さっきまでの絶望感が嘘の様に、心がクリアになっていく。
それがトリガーになったかのように、シンにある種の覚悟が生まれていた。

(何を恐れる事がある。お前はその為に……てたんだぞ)

シンの中で、誰かが囁く。しかし敢えてそれを無視し、シンはソラの肩を持つと抱き寄せ、こう言った。

「安心しろ。必ず助けてやる」

今更、歩みを止める事は出来ない。
今更、生き方を変える事なんか出来やしない。
もう、自分の心を裏切るのはイヤだ。

怯えた視線がそこにあった。しかし、どこか恍惚とした色を湛えて。
シンはもうメイリンのアナウンスを聞かず、動き出した。
解ったのだ――本能的に、生きる方法が。

シンは爆発物を取り出した。信管によって作動させるタイプで、熱程度では反応しない。
非常時用に少量だけ持っていたものだが、この程度の役には立つ。シンはそれを……。




……そうだと思う。私はこの時、心を決めたんだ。
この人の行く末を見届けたいと、思ったんだ。
心まで透けそうな紅い、澄んだ瞳を見た時から。
きっと、それは……。




「……どうやら、死体を確認するだけの任務になりそうですね」

治安警察のジープの運転席で、燃え上がる団地をぼんやりと見ながらオスカー=サザーランドはいかにも退屈そうに大欠伸をする。
部下達はいつでも突入できるように装甲服を着用していたが、どうにも出番は無さそうだった。
燃え上がる炎は何者をも焼き焦がす。
それはコーディネイターだとて例外ではないのだ。

「いくらなんでもこれじゃ、どうにも出来ないでしょう」

それはオスカーの私見だが、この場にいる総意でもあったろう。ただ一人を除いては。
助手席に座る『異論者』は端末に向かいずっと何事か打ち込み続けている。
どうやら何事かをシミュレートしているようだが……。
しばらくしてエルスティン=ライヒはオスカーの方を見やると言う。

「結論出ました。戦闘機のランディングギアを団地屋上の手すりに引っ掛ければ、おそらく止まれます。その手なら脱出は可能です」
「……さいで。それが出来るならモビルスーツは素手で撃退できますね」
「ライブラリには『行なわれたらしい記録』がありますが?」
「ギネスブックに興味はないですよ。やるとやらない、出来ると出来ないは意味合いが全くちがいますから」

仮にも現場監督であるこの二人がここまでだらけているのは問題といえば問題なのだが、かといって事態がどうこうなるとも思えない展開である。
まして、逮捕対象であるシン=アスカは今だ自室から移動できていないのだ。
蒸し焼きを逃れているとしても、屋上までだって防火扉は何枚もある。
脱出できる可能性は限りなくゼロに近いのだ。

不意に、通信機が鳴り出す。すぐにエルスティンが応答した。

「対象戦闘機、ピースアストレイを引き離してこちらに向かってきます」
「やれやれ、エイガーのおやっさんもヤキが回ったかな。ピースアストレイじゃしょうがないけどね」

幾分投げやりにオスカー。
という事は、相手方はまだ逃走を諦めてはいない。

「ライフル一丁で戦闘機相手にどれ程の事が出来るか、試してみますか」
「『豆鉄砲』という事ですね、わかります。存分にどうぞ」

エルスティンがさっさと助手席を降りて、運転席のドアを開ける。どうやら運転してくれるらしい。オスカーはいよいよ溜息を吐きたくなってきていた。




――シン達のいる部屋の窓が吹き飛んだのは、そんな時だった。




《……はぁ!? アンタ何するですって!?》

ようやくコニールと通信が繋がって、二言目はこれだった。
開いた窓から強風と、下に展開した治安警察部隊からの銃撃にめげず身を乗り出しつつ、シンが叫ぶ。
隣のソラは更なる展開に困惑するばかりだ。

「だから、飛び降りるって言ったんだよ!」
《どこに!》
「フォース=スプレンダーの上だ!」
《アンタ馬鹿ぁ!? どこの世界に飛んでる戦闘機に飛び乗る奴がいるのよ!》
「ホバリング出来ないのかよ!」
《出来ないって言われてるでしょ!》

シンは数瞬考え込む。が、すぐに思いなおすとソラの顔を見、決然とした様に言った。

「今更他の手段なんかあるか! 出来るだけスピードを落としてくれ、後はこっちで何とかする!」
《もう、どうなっても知らないわよ!》

シンはソラに再び向き直ると言う。

「安心しろ、飛び降りろなんて言わない。ホバリングできなくても垂直にすればいいんだ。なに、やればなんとかなるもんだ」
「はぁ……」

一体どういう自信だろうか。歴戦の自負から来るものか、はたまた単なる自信過剰か。
とはいえソラはシンの表情を見て、信じられると思っていた。

(……そう、あの時の表情。この人は……)




一方その頃、オロファト市外道路をひた走る一台のバイクがあった。
真紅のバイク、アスラン=ザラである。
カウルは半分ほど割れて吹き飛んでいたが、アスランは全く構わずに走り続けていた。
どうしても、ジッとしていられなかったのだ。

(シン、どこにいる。もうお前が戦う理由なんかどこにも無いはずだぞ)

その思いだけが、アスランをを駆り立てる。官邸の警護は腹心の部下達に任せ、自分はこうしてツーリングに勤しむのは護衛部隊指揮官としてどうかとも思うが、かといって自分の思いに蓋を出来るような人間でもない。それで少しでも痕跡があればと、シンを見失った地点を重点的に走り回っていたのである。
とはいえ、もう燃料も少ない。諦めて帰ろうと思った時に、それが聞こえた。

「モビルアーマー……未確認戦闘機だと!?」

音を聞けば、アスランには解る。味方機か、そうでないか。
間違いなく聞いた事のないスラスター音だった。飛来音の方角を確かめると、アスランはそちらにバイクを向けた。
それは全く直感的な行動だったが、アスランには予感めいたものがあった。その先にシンがいると。
燃え上がる団地が見えてきた時、予感は確信に変わり、いよいよアスランはスロットルを絞っていった。




――その時が近付く。

《スピード、これ以上落ちないわよ》
「上等だ。……レイ、ソラを頼むぞ」
《わかった、出来る限り何とかしてやる。無茶をするなよ、シン》

視界の端に戦闘機――フォース=スプレンダーが映る。
シンが意を決して飛び降りようとして、その瞬間。

《そうそうやらせる訳にいかないでしょう!》

まだ生きている館内アナウンスが大音声で叫んだ。
同時に窓の外にいた治安部隊が何かを撃ち上げる。シンはそれが何なのか瞬時に気付き、コニールに向かって叫んでいた。

「コニール、フラッシュグレネードだ!」

真っ直ぐにこっちに向かっていたコニールに避ける手段があるはずも無い。
それが解っていても、シンには叫ぶ以外の手段はなかった。




――光が、団地から発散される。




「キャアッ!」

コニールは咄嗟に目を閉じて防御はしたが、しかし。

(モニターに焼き付きが! これじゃ、操縦できない!)

低空飛行、ましてや障害物の多々ある場所である。続行は自殺行為に近い。
コニールは上昇しようとして――シンの大声が飛んでくる。

《そのまま来い! 俺の言う通りに飛べばいい!》
「アホかーーっ!」

いくらなんでも、という意見である。さすがのコニールも怒鳴り返す。しかしシンは引かなかった。

《いいか、俺が飛び乗ったら上昇してエンジンを切るんだぞ!》

言うだけ言って、コニールの反撃にも構わずに――シンは飛んだ。
二十二階の窓から、である。
コンマという秒間の中でそれを認識したコニールは腹を括っていた。
何が何でもシンを死なせたくない、それはコニールの本心だった。




懐かしい機体だな、とシンは思った。
目に映るその機影が段々と大きくなり、そして――機体上部に身体を打ち付けられる。
余りの衝撃に身体が跳ね、意識が飛び掛けるが、シンは耐えた。
懸命に腕を伸ばし、尾翼近くでようやく身体を固定する。

(何とかコクピットまで行け……るか!?)

風圧で身体が引きちぎられそうだ。
速度を限界まで落としているとはいえ、物は戦闘機である。
並みの人間では耐え切れない風圧に耐え切っているのは鍛え上げた身体の賜物だろうか。
何とか身体を引き寄せ、風圧に対峙する。
ふと、フォース=スプレンダーが上昇を開始した。
シンの言う通りに、コニールが動かしてくれているのだ。感謝しつつ暴風から渾身の力で、身体を支えるシン。
歯軋りの音が頭に響く位、シンは全身の力を総動員していた。
何秒位だろうか。シンの視界はあっという間に大空になっていた。
遠くにはオロファトの街並みも見える。こちらに飛来してくるモビルスーツの機影も。風圧が段々と弱まっていって、シンはフォース=スプレンダーのエンジンが停止していっているのだと理解できた。
キャノピーが開き、コニールが身を乗り出して何か叫んだ時、シンは走り出していた。
一瞬だけ停止した機体を駆け上がる様に、すぐ次に来る重力に逆らう様に。
暴風が復活する。背中に風圧を受けて、シンは飛んでいた。

「シーン!」
「手を伸ばせっ!」

永遠の様な一瞬――そう言えばいいのだろうか。コーディネイターならではの境地をシンは最大限に使って、コニールの手にしっかりとしがみ付いた。
次の瞬間、フォース=スプレンダーごと地面に引っ張られている感触が来る。
コニールの苦悶の顔、そして手の温かみを感じてシンは再び体中の力を総動員させた。ここで諦める訳には、いかないのだ。

「うおおおおっ!」

キャノピーの端に手の平が触れる。次の瞬間には上半身をコクピットの中に放り込む事が出来た。その体勢のまま、シンは機体を再起動させる。スラスターに火が点り、推力が発生し始めるが、シンは経験で『このままでは墜落する』と理解していた。
ならば、やる事は一つだ。機体の向きを変え、前向きに落ちる様にする。その勢いを借りてシンはフォース=スプレンダーの後部座席に何とか入り込む事が出来た。
錐揉み状態で降下するフォース=スプレンダー。
コニールの悲鳴が聞こえるが、シンは構わなかった。そのままスラスターの出力を上げ続け、少しでも推力を得るため、速度を上げていく。

(間に合うか――いや、間に合わせてみせる!)

キャノピーを閉じる暇もない。
が、なぜか『出来る』と判断していた。風の勢いがそう、教えてくれるのだろうか。
パイロットの本能がそうさせたのだろうか。
目の前に大地が迫り、いよいよ墜落する瞬間、推力が『来た』とシンは感じた。

「あ……が、れぇぇぇぇっ!」

操縦桿も折れよと、思い切り引く。
機体はよく反応して、一気に方向を変えた。
木々をへし折りつつ、フォース=スプレンダーは地表ギリギリを駆け抜け始める。地面に引っ張られているのが解り、シンは吼えた。

「飛べよっ! やれば出来る子だろ、お前は!」

シンの熱意が、あるいはフォース=スプレンダーが応えたのか。しばらくの地上滑空の後、フォース=スプレンダーは再び飛び上がった。
下方尾翼が幾つか吹っ飛んだが、フォース=スプレンダーは今だ健在だった。




――さて、その頃ソラは。
通信機の役目も兼ねる腕時計、レイから漏れ聞こえる声でシンがしっかり戦闘機、フォース=スプレンダーに飛び乗った事は解った。
それはソラにも喜ばしかったが、次に続いた言葉にはヒステリックに否定せざるを得なかった。

《よし、次はソラだ! 飛び降りろ、後はこっちで面倒見る!》
「……絶対いや!」

無理もない話である。《さもありなん》とは腕時計の弁。

「さっき飛び降りなくて済むって言ってたじゃないですか!」
《コツは掴んだ、大丈夫だ!》
《『コツ』で済むものなのか?》
《……もう何が起こっても驚かないわよ、アタシは》

そんな喧々諤々のやり取りの中、フォース=スプレンダーは再度旋回する。
一直線にソラに向かうために、だ。
状況は危険だ。迫る猛炎、轟く銃声――彼等が自分を助けようとしている事はソラにだって解るのだが、ほんの少し下を向くだけで得られる恐怖感は言語を絶している。
飛び出していける人間の方がおかしいのだ。
しかし状況はソラを追い詰めていく。

《火勢が弱まらん。脱出もままならず、助けも来れない。唯一の突破口は飛び出すだけ。どうする?》

どうするも何もない。

「わ、私はイヤですからね! 絶対、イヤです!」

首を大きく振ってソラは抵抗する。当然だが。
その時――転機が訪れた。
運命の一押しとでも言おうか、それがソラを前に大きく押しやった。
背後で起こった爆風が、ソラを虚空に押し出していた。熱によってシャッターが溶け、それにより空気が流入、爆発が起こったのだ。
言葉もなく、悲鳴もなく、ソラは大地に向かって落ちていく。

(あ……私、死ぬのかな)

走馬灯だろうか。ソラには世界がひどくゆっくりに感じられた。
今頃シノとハナは自分を探しているのだろうか。『ロンデニウム』店長に貰ったお土産を、二人はちゃんと食べてくれているだろうか。孤児院の子供達は、元気でやっているだろうか。
そんな事を考えながら、ソラは落ちていく。
風が凄まじい勢いで流れ、奇妙にふわりとした感触が辺りを包んでいた。

(人は、地に足が着かないと生きていけない。そりゃ、そうだよね……)

ソラは不思議と落ち着いていた。余りにも全てが、現実的ではなかったからかも知れない。夢心地になりながらソラは瞳を閉じて――

《させるかっ!》

その声が、ソラの瞳をこじ開ける。

《無茶よ!》
《やる! 行くぞ!》

ふと、ソラの視界がそれを捉えていた。
地表すれすれ、低空飛行で飛んでくるフォース=スプレンダーの姿を。そして両手を広げて真っ直ぐに自分を見据え、抱き止めようとしているシンの姿を。
地上まで僅か数メートル。全てがギリギリのラインだった。

(……諦めないんだ、この人は)

微笑ましくなる位、真っ直ぐに。馬鹿だなんだと言われようと、愚直なほどに。
夢でもない、希望でもない。
それが、彼以外解らない境地であろうと。
真っ直ぐにフォース=スプレンダーが突っ込んでくる。それをソラは微笑ましく感じ始めていた。
――その時、割り込む者が居た。

「待っていた甲斐がありました」

高台でライフルを構え、シンを狙う者がソラに見えた。

(駄目っ!)

逃げて――そう、ソラは叫んでいたと思う。暴風の中で、かき消されたとしても。
この人を死なせたくない、そう思っていたから。
しかし、シンは逃げなかった。そんなもの見てもいなかった。
ソラを助ける事以外、考えてもいなかった。

「やめてぇっ!」

オスカーが引き金を引くのが感じられる。ソラは絶叫するしか出来なかった。

その時――更に割り込む者があった。
ソラの背後、フォース=スプレンダーに向かい合う様に突っ込んできた真紅のバイク。
それに乗る者が先にオスカーの持つライフルを撃ち、弾き飛ばしていた。

「シンッ!」

シンとアスランの視線が交錯したかどうか。
次の瞬間シンはソラを抱き抱え、フォース=スプレンダーごと上昇していく。
アスランはバイクを急停止させると、飛び去っていくフォース=スプレンダーの姿を見送る様に目で追っていた。

「あいつ……」

アスランは知らず、微笑んでいた。
フォース=スプレンダーはどんどん上昇し、そして見えなくなる。
しかしアスランはそのまま、彼方にいる人影を見据える様にしていた。




オスカーは地面に落ちたライフル拾い後部座席に放ると、忌々しそうにジープのシートに身を投げ出す。
エルスティンがオスカーを覗き込む様に言う。

「いいんですか?」
「上官の旦那じゃ報告しても、もみ消されるのがオチでしょう。そこまで考えてるかは知りませんけどね。それにしても……」

オスカーはちらりと戦闘機の消えた彼方を見る。そしてそれを見送る者を。にや、と笑ってオスカーは言った。

「……面白くなってきましたね」

今更ピースアストレイが到着し始める。オスカーは溜息をついて、肩を竦めた。




こうして、私の『激動の運命』は始まりました。
「誰か強引な人が、空の彼方まで引っ張っていかなきゃ無理だよ」
……いつだっけ、私の言った通りに。
私を乗せたフォース=スプレンダーはそのまま上昇を続け、成層圏に近い所を飛んでいったそうです。
その時の光景を、私は一生忘れません。




「見てみな。滅多に見れるもんじゃない、生の『地球』さ」




――これから始まる運命の行く末と共に。
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