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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-7

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 ――運命というものは必ず『爪痕』を残していく。
 何かを得れば、必ず何かを失う。それは正であれ逆であれ、同じ事だ。

 「ソラが……?」
 「……そんな、嘘やろ?」

 必ず時間までに帰ってきていた親友の姿が見えなければ、心配もする。まして夜が更けても帰ってこなければ「何かあったのだ」と動揺もする。
 夜が明けて、心労の余り一睡もせずに親友の帰りを待ちわびていた彼女達に届けられた一報は、以下のようなものだった。

 「事実です。ソラ=ヒダカさんは昨夜の市外団地火災に巻き込まれ、行方不明となりました」

 その感情を表さない物言いは彼女達にとって救いであったのかもしれない。
 しかし、その事実は彼女達をうちのめすに充分なものだった。
 力なくその場に崩れ落ちたシノの身体を、ハナは支えるように――だが、共に崩れ落ちた。
 彼女達に出来た事は、それだけだった。




 「こんなものを密輸とはいえ輸入出来た……あの混乱も起こるべくして起きたって事ね」

 メイリン=ザラは呆れていた。よりにもよって首都オロファト、オーブ港にここまで堂々と侵入していたとは。九月十一日のあの晩、燃え上がった倉庫から押収されたモビルスーツの残骸――『
ZGMF―X56S/α フォースインパルス』――をまじまじと見上げながら、メイリンはつくづくと嘆息した。

 「面目次第もございません。この度の失態、このエイガー=グレゴリーの不明にあります」

 エイガーは大きな身体を折り曲げるように平伏する。ぎりぎりと音がするのは、筋肉の軋みだけではないだろう。怒りによって握り締められた拳が、震えていた。
 そんなエイガーに振り向き、諭すようにメイリンは言う。

 「オーブ港の警備体制は現地警察が指揮していたそうね。この『シキタリ』だらけのオロファトで、貴方はよくやったわエイガー。少なくとも私は貴方を責める気にはなれない。オーブは『平和』になり過ぎたのよ……かつての混乱など忘れ去れる程に。下がって休みなさいエイガー。私は貴方を査問する気は無いわ」
 「はっ。では失礼します」

 びしりと敬礼し、エイガーは退出する。その声には悔しげな響きがあったが、メイリンは考えない事にした。今更何を言っても仕方ないからだ。
 それよりも、眼前のモビルスーツだ。

 (姉さんが最後に搭乗したモビルスーツ、インパルス。貴方はその瞳で一体何を見て、そして何を成してきたと言うの……?)

 これだけの戦火を潜り抜けてなお、インパルスの頭部は健在だった。
 誰も居なくなった押収品の倉庫で、メイリンはインパルスの瞳を飽きもせず、ただじっと見据えていた。




弾道飛行。そうした手段を使って、私達を乗せたフォース=スプレンダーは、
オーブから遠く離れた大地『コーカサス』へとやってきました。
ここで起こった全ての出来事を、私は一生忘れる事は無いでしょう。
険しく、厳しい大地。それを知り、共に歩み続ける人々を。
――そして、初めての『別れ』を。




 閉じた瞳の奥で、何を思うのか。
 否、何も思わない様にしているのだとシンは考える。

 (俺は、雑念が多すぎる。戦場にそんなものを持ち込む訳にはいかない……)

 せり上がっていく大型エレベータ、そこに直立するモビルスーツ『シグナス』。そのコクピットでシンはただ、心を落ち着かせていた。

 (戦場――そこでは、何もいらない。憂いも、迷いも、悲しみも。ただ、人が人を殺す場所……『守るべきもの』を守るために、任務を遂行する場所)

 シグナスを乗せたエレベータは更に上がる。陸上戦艦スレイプニールには甲板上にモビルスーツ射出用カタパルトが設置されており、エレベータ上のモビルスーツはそのままカタパルトに連結、射出される事になる。スレイプニールは単独で動く事を元々考慮されていたらしく、少しでも艦内スペースを使える様に設計されていた。
 シンのシグナスは白を基調に青く塗装されていた。これから冬を向かえ、乾いた大地にも少ないながら雪が降る。白は充分な迷彩色なのだ。とはいえ、それに青を混ぜては効果の程は少なくなるのだが、シンはそれで良いと考えていた。

 (俺は目立ってもいい。その方が、なんというか気楽だ。それにこの色は……)

 かつて命を預けた機体達。インパルス、デスティニー……それらを思わせる色。それはシン自身をして『守って貰える』と感じさせていた。
 自信。
 それはシンをかつての大戦を終結まで生き残らせたという運命がそう思わせるのか。
 ガシン、という金属音がしてエレベータが止まる。シンはゆっくりと瞳を開くと、外の光景に一瞬心を奪われた。降り始めた雪が、少しづつ積もり始めていたのだ。

 《シン、射出体制完了。どう?》
 「いつでもいい」

 感情を感じさせないオペレーターの言い様に、ぶっきらぼうにシンも答える。昨日今日の付き合いではないが、どこか壁を作る様な言い方だ。
 人の死を見過ぎてきたから、だろうか。シンとて今更、感傷に浸りたいとは思わない。
 機体状態、進路、カタパルト作動――全てクリア。モニターの点灯を受けて、シンは気合を入れる様に言った。

 「シン=アスカ。シグナス出る!」

 降りしきる雪の中、シンの乗るシグナスが中空に躍り出る。スラスターを響かせて空を駆けながら、シンはコーカサスの大地を見下ろしていた。
 何処までも続いていく地平は、シンに何かを諦めさせていた。




 シンの駆るシグナスが発進していく様は、ソラにも見えた。
 ソラがいる場所はスレイプニール内の営倉。一応のテーブルとベッドのみがある、事実上の独房だ。とはいえこれは仕方の無い処置だった。リヴァイブとて軍隊――体制サイドからは”テロリスト”と呼ばれる集団であるのだから。
 艦内アナウンスはもちろん営倉には入らない様にはなっている。とはいえ、カタパルト射出は騒がしく、ソラにもよく聞こえていた。
 
 (戦争、するんだ……)

 この様な発進は、ソラがこのスレイプニールに着艦してからほぼ毎日の事だった。日々、どこかに出撃して行っては、帰ってくる。無傷な時もあれば、どこか壊れて帰ってくる事もある。
 その、繰り返し。

 (私は、日常って繰り返していくものだと思ってた。ううん、そういうものだって。ここだってそれは変わらない、けど……)

 誰かは『繰り返されない』。
 その事はソラを思いの他、打ちのめしていた。
 雪原に消えていったシグナスの姿を、ソラはいつまでも追いかけていた。



コーカサス州ガルナハンを巡る情勢は混迷の一途を辿っていました。
東ユーラシア共和国政府の所有する大規模施設『ゴランボイ地熱プラント』、
それは東西ユーラシア間の火種となり得るには充分過ぎるものでした。
そこから溢れ出るエネルギー資源は膨大なもので、
エネルギー危機に瀕していた世界の数少ないオアシスだったのです。
そして当時、東ユーラシア政府は思い切った施策を打ち出しました。
国内向けエネルギー供給を最低限にし、余剰エネルギーを国外輸出し始めたのです。
当時の国際情勢、また東ユーラシア共和国の軍閥化が招いたこの事態に、
東ユーラシア国内は猛反発。国内は完全な内乱状態となりました。
この事態に東ユーラシア共和国政府は一計を案じます。
それは『自らに従うものにのみ、エネルギーを供給する』というものでした。
東ユーラシア共和国内の勢力はこの時点で大きく二つに分かれる事になりました。
一つ目は『政府に反旗を翻し、ゴランボイ地熱プラントを奪還する者達』。
もう一つは『政府軍に結託し、周囲に武威を行う事によりエネルギー供給の恩恵に与る者達』。
誰もが、戦う事を余儀なくされた――東ユーラシア、ひいてはガルナハンの置かれた状況とは、
その様なものだったのです。
私が行動を共にしたレジスタンス組織『リヴァイブ』は、
ゴランボイ地熱プラントを奪回せんと結成された新しい軍事組織でした。
 コーカサス州ガルナハンを中心に活動していたレジスタンス組織『コーカサスの夜明け』。
 その組織が大きく二分し、大勢が東ユーラシア共和国政府側に組したのがつい最近。
 残存勢力となった者達を纏め上げ、リヴァイブとして再結成した仮面の紳士ロマ=ギリアムが、
最初に提唱した、最後の命令はこれでした。

「我々リヴァイブはガルナハン人民のため、ゴランボイ地熱プラントを奪回する!」



 《シン、熱源感知3、方位1-3-5だ。接触まで後600メートル》

 AIレイが事務的にレーダーを読み取り、シンに伝える。ぼんやりしていた訳ではないが、シンは思惟を振り払い、切り替える。

 「了解。山岳超えとは大変な斥候だな」

 シンはシグナスを駆りながら言う。スレイプニールは他の組織――概ねコーカサスの夜明けの面々とだが――との接触を極力避けるために山岳超えルートで当面の目的地アリーに向かっていた。
 アリーには同じくゴランボイ地熱プラントを奪回せんとするローゼンクロイツが合流しつつある。まずは彼らに合流する事がリヴァイブの急務だった。

 《シン、解っているな。まずは相手側に一発は殴られろよ》

 これはAIレイではない、他機からの通信だった。
 リヴァイブが所有するモビルスーツはシグナス4機、それぞれに《大尉》《中尉》《少尉》というコードが付けられている。それはそのままパイロット達のコードネームだ。
 今の通信は大尉からのもので、彼はシン達モビルスーツパイロットを束ねている。年長という事もあるが、大尉はガルナハンで最も戦ってきた戦士だったからだ。彼らの中ではシンは一番の新参者、という事になる。

 「面倒っすね。撃たれて穏便にっていうスタンスも」
 《仕方ねぇ、弱小が生きていくにゃそういう苦労があるって事さ》

 リヴァイブの戦力は陸上戦艦1隻、モビルスーツ4機とそれなりにはある。しかし元となったコーカサスの夜明けをあまり刺激したくないというのも、補給に事欠く組織の実情だった。リヴァイブの様な反対勢力が堂々と存在できているのも、ガルナハンで大手を振っていたコーカサスの夜明け自体の混乱を象徴しているとも言えるが。
 ともあれ、敵を増やすのは得策ではない――それは、大尉の進言だった。
 今後味方になる可能性もあるし、何より昨日の友を撃ちたくない心理も無い訳ではないだろう。
 だが。

 《ま、一発撃たせりゃ義理は果たした。後は即ぶちのめせ。別に生かしてやる筋もねぇしな》

 割り切りというものは、戦場では大事である。
 かっかっか、と豪快に笑う大尉の声を聞きながら、シンは呆れていた。

 《そりゃそうだ、殴られ損にゃなりたくねーしな》
 《世間様ではよく言われるじゃないですか、正当防衛ってね》

 他のパイロットである少尉、中尉も通信に参加してくる。どれも声が弾んでいるのがさすが、というべきか。
 戦争大好き不良中年軍団とはよく言ったものである。

 「はいはい、わかりましたよ」

 シンは苦笑しながら、しかし肩の力が抜けるのを感じていた。
 適度のリラックスこそ戦場において必要なものだ。それを彼らは事も無げに作り出す。
 その事に感謝しながら、シンはZAFT時代には味わえなかった感触だと考えていた。

 (戦争慣れ、か……。あの男なら、何て言うかな)

 思い起こすは『正義』の二文字。
 赤い機体を駆り、シンの前に立ち塞がる者。
 シンは軽く頭を振り、その思惟を振り払う。思いに捉われている場合ではないからだ。

 《中尉、シンの援護に入れ。シンは数瞬引きつけりゃいいぞ》

 シンが前面に出て、退散。攻撃されたら即座に中尉が狙撃を行い、大尉と少尉、そしてシンが殲滅する。いつものパターンだ。
 シンとしては別に、一人で殲滅する事が出来ない訳でもないのだが。

 「チームワークは大事にしないとな、なあレイ?」

 そのシンの軽口に、レイはぽつりと言った。

 《明日は大雨かも知れんな》




 会敵は、思ったより早かった。
 シンはシグナスを沈み込ませ、更に加速を掛ける。速度を上げて相手の射撃を避ける為だ。
 視認――機体はザクウォーリア改修型3機。1機がオルトロス高エネルギー超射程砲を備えていた。
 敵機もこちらを目視、ジグザグに動きながら射撃を開始する。

 「攻撃開始確認、ザクウォーリア3機だ。1機ガナータイプ」
 《対戦艦用と考えて間違いないだろう、ソイツは確実に屠るぞ》
 《狙撃体制完了、じゃあちゃっちゃと始めますか》
 《んじゃ、俺様特攻~!》

 大尉、中尉、少尉がそれぞれに言う。相変わらずの軽口に呆れながら、意外に正確な射撃をシンは避け、或いはシールドで防ぐ。

 (腕っこき、か。しかし数はこちらが上、勝たせて貰えそうだ)

 シンは無理をせず、ビームカービンで集団付近を狙い打つ。当てる射撃ではない、散開させるための射撃だ。
 狙い通り、ザクウォーリア隊は散開する。後は各個撃破するだけだ。
 中尉の狙撃が始まり、1機が火線に貫かれる。次いで大尉の支援射撃が、少尉の突撃が始まる。シンも支援射撃を行なおうとして、

 《シン、防御!》

 レイの鋭い叱咤で、シンは気が付いた――オルトロスがこちらに照準を向けている!

 (……俺は!)

 シンは自身を怒鳴りつける。戦場で何故、油断をするのか。戦場で何故、思いに捉われてしまうのか。
 いや、考えようとしているのか。何度も何度も振り払っても消えないその『思い』を。



 ――手を伸ばそうとして。



 回避は無理、ならばシールドで防ぐしかない。紅い光が煌き、シンの視界がオルトロスの放つ光の奔流に包まれる。眼前のシールドだけが命綱だった。

 「このっ!」

 スロットル出力を上げ、シグナスを奔流に負けじと押し出すシン。甲斐あって、シグナスは弾き飛ばされずにオルトロスの奔流を駆け抜けた。
 その時だ――また見えた、あの映像が。
 手をこちらに差し伸べている、あの光景が。



 『……大丈夫、シン。私が……』



 シンは知らず、吼えていた。

 「うおおおおおっ!」

 自分は何故、ここに居るのだろう。自分は何故、戦い続けているのだろう。
 思いも心もわからず、ただ『何か』に突き動かされる様に。
 ただ、これだけは言える――今、見たいものは『この先』にあるのだと。
 戦いの先に、殺し合いの先に、命のやり取りの先に。

 《シン!?》

 急に突撃を開始したシンのシグナスの動きに、少尉が警鐘を鳴らす。だが、シンは止まらなかった。
 止まれなかった。

 「そんなに戦争がしたいのか!」

 1機のザクウォーリアがシンに向かってビームカービンを連射しつつ突っ込んでくる。オルトロスを射出した機はその間に長距離砲を捨て、ビームトマホークを抜いた。
 中尉も大尉も動揺した一瞬、全ての敵意がシンに向かう。しかしシンは構わなかった。
 そんなものが、自分を止められると思っているのか。
 そんなもので自分を止められるのならば、むしろ止めてくれと――そう、慟哭していたのかもしれない。
 シンのシグナスはビームサーベルを抜き放つ。そしてそのまま、ビームカービンを乱射するザクウォーリアに突撃していく。

 「それなら、俺は……」

 何発目かのビームは、シン機の頭部を破壊する射線だった。シンはそれをビームサーベルで打ち落としつつ、更に突き進む。
 シグナスのショルダーチャージがザクウォーリアを捉える。シンはそのまま抱え上げる様にザクウォーリアを投げ捨て、最初に砲撃してきたビームトマホークを構える機体に突っ込んでいく。

 「戦い続けてやる!」

 それは、嘘だと。
 それは、本心じゃないと叫んでいる自分がいる。
 けれど、それは限りなく本心なのだと慟哭している自分もいる。
 ただ、シンは手を伸ばしていくだけで――何も握ることなく。

 「邪魔をするなァァッ!」

 振り下ろされたビームトマホークと、ビームサーベルがかち合う。だが、シンの動きは止まらなかった。
 左足が跳ね上がる――サマーソルトキックだ。
 顎を打ち上げられたザクウォーリアは後ろに仰け反る。

 《俺の出番取るんじゃねぇ、シン!》

 更にその機体に少尉機のショルダータックルがお見舞いされる。
 地響きを立てて、ザクウォーリアが大地に伏した。
 その瞬間、この遭遇戦の勝敗は決していた。大破1機、鹵獲2機、損害なし……文句無い大勝利であった。




 「……ええ、そうです。出来ますか?」

 カラン、という音がグラスから響く。ピンク色のカクテルが注がれたワイングラスの中で、澄んだ透明の氷がグラスが傾けられる度に心地良い音色を奏でる。
 ナイトガウン姿のメイリンは、しかしそれに心を奪われる事無く、ただ電話とモニタに映る映像に集中していた。

 《わしを誰だと思ってる、やるからには完璧に仕上げるさ。解せない命令ではあるが、な》
 「よろしく、博士。貴方の研究が認められる最後のチャンスだと思ってくださいね――では」

 メイリンは通話を一方的に切る。メイリンにとっては苦手な、出来れば話したくないタイプだったからだろうか。
 否、後ろめたさからだろうか。

 (でもね、もしも……だったのなら)

 メイリンは大きく伸びをする。その時、玄関のチャイムが鳴った。先程連絡があったのだ、久々に夫であるアスランが自宅に帰ってくると。
 ノートパソコンのデータを削除し、電源を切るとメイリンは玄関へ向かった。その時にはメイリンは、今の作業の事をおくびにも出さず、笑顔で主人を出迎えていた。




 コクピットを降りるなり、シンは大尉から思い切り殴られた。

 「殴られた理由は解るな?」
 「……まあ、何となく」

 ふてぶてしく、シン。
 自分が悪いのはシンにもわかる。だからといって素直にも謝れない。
 だから当然、シンはもう1発殴られた。歯軋りをしながら、しかしシンは起き上がる。決然と大尉を見据え、両手を後ろに組んで。

 「いい度胸だ。コイツで最後だ!」

 最後のアッパーは、効いた。シンはしばらく自力で立ち上がる事が出来なかった。
 宙に浮くのが、自分でも良く解った。
 そして、自分が『何かが駄目なのだ』と、改めて思っていた。




 「……少し、やりすぎではないですか?」

 中尉が大尉に話しかける。後ろではコニールと少尉が慌ててシンに駆け寄っていた。

 「どこがだ。大体殴られたがったのはアイツだぜ……迷いがどうにも吹っ切れないって面しやがって」
 「それは、解ります」

 シンの悩みなど、大人達には容易く察する事が出来ていた。
 しかし、だからこそ解るのだ――それはシン当人が自力で超えなければならないものなのだ、と。
 大尉はタバコを取り出すと、上手そうに吸う。それは大尉なりの切り替えなのだと中尉は察した。

 「あー、リーダーに伝えてくれ。鹵獲は2機、捕虜は1人だってな」
 「……了解しました。付き合いますが?」

 捕虜2人――それは出撃した者なら誰でも解る。
 大尉が言っているのは『これから1人居なくなる』という事なのだ。つまり、大尉は1人を拷問に掛ける気なのである。

 「いや、いい。1人の方が気楽だからな」

 誰も、気が進む事ではない。けれど、少しでもこの艦が存続できるのなら。
 生きて、死ぬ。それだけが何と難しい事か。
 大人には大人のやる事がある――大尉の背中は、そう語っていた。




 「星が、綺麗……」

 ソラは、美しい星空に心奪われていた。
 オーブの星空は、これほど美しくは無い。空気が澄んでいるから、とか自然が豊かだから、だとかそんな瑣末な理由だけではない。もっと大事な何かが、この空からは感じられる。
 それゆえの満天の星空。
 小さな小窓から見上げるのが勿体無い、素直にそう思える様な。

 (シーちゃん、ハーちゃん……私、何をやってるんだろう……)

 あの人に、この大地に連れてこられて。
 そして、ここで何日も過ごして。
 けれど、不思議な事にソラは落ち込む様な気分にはなれなかった。驚きの連続で、そうした感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。

 「あ、流星群」

 この地方では、よく見られる光景だった。
 空気が綺麗な事と、たくさんの戦争があった事――それらは美しい風景を作り出す土壌となっていた。
 ソラは当初、『オーブに帰りたい』と願っていた。
 しかし、今は。

 「あの人が帰ってきます様に……」

 出撃していくシグナスの背中が、打ち出されるカタパルトの衝撃が。
 はたまた、傷だらけで帰ってくるシグナスがそうさせたのか。
 自然、ソラはそう思うようになっていた。



 
 
 
 
 
 
 
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