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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-8

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遠い昔、人は手を伸ばす。
何かを欲して、何かを得る為。
夢を、希望を、欲望をその手に掴む為に。
思い、焦がれ、或いは絶望して。
それが決して届かぬ高みであったとしても。
それが決して掴めぬ存在であったとしても。
人はただ、手を伸ばす。それしか人には出来ないから。



 腰に重りが付いているかの様に、全身から力が抜けて沈んでいく。
 力無く両腕はだらりと、しかし水圧や浮力の関係で天に差し上げられる。両足も膝が曲がっているが、やはりふわりと浮かぶ様に。
 それは人型の巨像の様だった。

 《水圧上昇中。現在水深50メートル》

 その巨像の中で声が響く。
 周囲を見ると、オーブ近海に見られる美しいサンゴ礁や色彩豊かな魚の群れが見えた。しかしそれらはあっという間にはるか高みにいってしまう。巨像は、どんどん沈んでいるからだ。

 《現在水深100メートル》

 夢のような世界は過ぎ去り、だんだんと世界は暗黒に包まれていく。異形の魚が住まうエリアに、そしてその先の深遠の世界に。
 何時の間にか巨像の周囲は光の射さない無明の世界になっていった。
 そこから更に堕ちていく。それは、『彼女』にとって感慨深い事だった。

 (私は今、暗闇の世界に堕ちても仕方の無いことをしている。でも、駄目。もう駄目なの。もう耐え切れない……)

 想いのままに生きていけるのなら。願いのままに生きれるのなら、どんなに幸せなのだろう。けれど現実は違う。そんな事が出来るものが、果たしてどれ位いるのだろうか。
 夢と現実の狭間を行き来する事が、どれ程辛い事か。

 巨像は、遂に目指す水底へと辿り着いていた。泥が巨像を包み込む様に拡散し、それはささやかに巨像の上に降り注ぐ。まるで、そこが安住の地であるかの様に。

 (想いは、何時だって1つじゃない。夢も、希望も。あれもこれもっていうのは、子供の悩みだってわかってる。それでも……)

 ――堪え切れない想いが、あるから。
 だから人は願い焦がれて、生きていくのだろうか。

 《海底に到着。この場所なら、存分に駆動実験が出来るぞ。メインバッテリー残量確認、クリア。DPS(デュートリオン=フェイズ=シフト)スタンバイ》

 巨像の瞳に光が点る。身長18メートルはある、モビルスーツという名の機動兵器――その兵器のコクピットで、1人の女性が何かと決別しようとしていた。

 (アスラン、貴方を愛してる。それは嘘じゃない。でも、私は……許す事が出来ない)

 設定を変更、省電力モードから駆動モードへと移行。機体が唸りを上げ、いよいよそれは目覚めようとしている。

 (あの女。私の姉を殺したあの女だけは!)

 女性、メイリン=ザラの瞳が決然と見開かれる。その瞳には迷いは無く、後悔も無く。

 「DPS始動。イグダスト駆動開始!」
 《DPS始動クリア。イグダスト駆動します》

 イグダストと呼ばれた巨像が咆哮を上げる。体表に光が宿り、それは色となった。力強く脚部が泥を踏みしめ、両手が上体を支える。次の瞬間には、イグダストは立ち上がっていた。
 無明の闇の中、数奇な運命を生きた巨像は静かに歩き出す。再び、戦う為に。



コーカサスの大自然は、とても美しいものでした。
遥かに続く山脈、そして大平原。荒ぶる砂塵、そして満天の星空。
けれど、それに夢を感じてはいけないのだ、とも思いました。
人は、それを奪い合う様に生きて行かなければならなかったからです。
『当然の幸せ』――そんな、私には当たり前の事でさえ。




 ソラが独房から出され、スレイプニール中央に位置する居住ブロックに移されたのはその日の事だった。

 「独房よりこっちの方が安全だからね」

 以前からソラの独房に何度となく尋問――というよりは限りなく『遊びに訪問』――に来ていた仮面の男はそう言って、さっさとソラを独房から連れ出した。警備に当たっていた兵士が一応止めたが、「まあまあ、いいから」という素振りでそれを抑える。
 その時、ソラは始めて知った。目の前にいる仮面の男がリヴァイブのリーダーにしてこの戦艦の最高権力者、ロマ=ギリアムであるという事が。
 長々とした挨拶の後、ソラはロマに連れられて居住ブロックに足を踏み入れる。そこで、ソラは戦闘艦に不釣合いな光景を目撃した。見渡す限り子供、子供、少しの老人――それは映画の中に登場する戦闘艦には決してない光景であり、オーブであれば、オロファトの老人ホーム兼保育園でならよく見かける光景だった。

 「はい、血圧は正常値です。これからも落ち着いた呼吸に努めてください」
 「ありがとうよ、センセイ。あんたのお陰でこの老体もまだまだ現役じゃて」
 「センセイ、おくすりちゃんとのんだよ!」
 「はい、いい子ね。あら? リーダー、またブリッジをサボって……あらあら?」

 子供と老人に囲まれる様に仕事をしていた医者らしき女性がリーダーを見、次いでソラを見て、眼を真ん丸にした。
 リーダー、ロマは溜息と共にぽりぽりと頭を掻くと、ばつが悪そうにこう言った。

 「……人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ。たとえ、本当の事でも」
 「あら、あらあらあら。まー、まだこんなに可愛い子を隠してらっしゃったんですか?」

 すすす、と人垣をすり抜けて『センセイ』と呼ばれた翠髪の女性はソラの顔数センチのところまでやって来て、覗き込む様にソラをまじまじと見つめる。
 慌てて(?)、ソラはロマの後ろに隠れる様に逃げ込んだ。ロマは更に溜息を付く。

 「更に人聞きの悪い事を。いいかねセンセイ、彼女は……」
 「ソラ=ヒダカ。オーブからシン君が奪ってきた『薄幸のヒロイン』ちゃんですわね」

 ロマを遮る様に、センセイ。三度ロマは溜息を付いた。

 「……知ってるじゃないか」
 「それはもう。貴方が寝言で彼女の名前を繰り返していましたから」
 「センセイッ!」

 顔を真っ赤にして――仮面のせいでわかり辛いが――怒鳴るロマ、その様子を見て、朗らかに笑うセンセイ。それはどう見ても男女の関係が数ヶ月は続いた様子だった。付け加えるなら、完全に女性側が主導権を握っている状態である。

 「ありゃりゃ、こらロマ坊は浮気は出来んわな」
 「リーダーがセンセイを泣かしてるー」

 外野は好き勝手に囃し立てる。「泣きたいのはこっちだよ」と呟くロマ。ソラは身の置き所が見つからず、ただ呆気に取られて状況の推移を見守るだけだ。その様子を見て取ったのか、ロマはおほん、とわざとらしく咳払いをして。

 「えーとセンセイ、つまりだね……」
 「『独房が後部甲板に近いから、被弾する可能性がある。それで被弾しても生存率の高い居住区に連れて来たんだよ』――でしょう?」

 ロマはぱくぱくと口を開くだけで、しばしの後「そうだよ」と認めた。ばつが悪そうにロマは頭を掻く。それを見て満足そうにセンセイは微笑み、しかしすぐに振り返ると「ターニャ、来て頂戴!」と声を上げた。



忘れられない出会い。
初めて会った同い年の彼女。
炎の様に赤い髪、そして瞳。顔に大きく刻まれた十字傷。
――ターニャ。彼女の事を、私は決して忘れない。




 『働かざるもの、食うべからず』という言葉は真実なんだろう、そうソラは思う。居住区に居る人間で動ける者は例外無く仕事を持っていた――もちろん、出来る範囲内で。

 「つーわけで、あたし達の仕事は厨房だから。頑張ろうね」
 「はあ」

 配膳されたカートを押しながら、ソラはターニャの後を付いて行く。食堂を出て、士官室を回り、そしてモビルスーツ整備ブロックへ。
 ふと廊下の窓を見やると、今正にシグナスがカタパルトに据え付けられ、射出される所だった。

 「大尉機だわ。哨戒かな?」

 ドォンッという肺腑に響く重低音。カタパルトが動き、モビルスーツが押し出されて行く。独房でも見た光景だが、こんな近くで見たのは初めてだ。

 「やっぱり戦闘、するんですか?」

 ソラがぽつりと呟く。ターニャは振り向くと、あっけらかんと肩を竦めて言う。

 「まあそりゃあね。そうしないと食っていけないし」
 「……そうなんでしょうけど」

 ソラには、やはり馴染めない。しかしそんなソラの思いを打ち消すかの様に、シグナス達は次々と出撃していく。
 空はあくまで青く、美しい。それすらもソラを居た堪れなくさせていた。




 とはいえ、そんなソラの思いは次の瞬間にあっさりと霧散した。

 「え? 違うよ。大尉達は『コーカサスの夜明け』と交渉に行ったんだよ」
 「「交渉?」」

 声を揃えて、ソラとターニャ。目の前に座るスレイプニールモビルスーツ班メインメカニック、サイ=アーガイルは配膳されたおにぎりをぺろりと平らげながら言う。

 「タイムリミットだよ。スレイプニールがアリーに近付いてるっていうのは、東ユーラシア政府にも察知されてる。で、政府軍は『コーカサスの夜明け』と『リヴァイブ』の区別なんて付けないって事さ」
 「……それで交渉の余地が生まれるって事ね」

 或いはスレイプニール側が東ユーラシア政府にわざと情報を流していたのかも知れない。これでスレイプニールが政府軍と交戦すれば、『コーカサスの夜明け』に対しての東ユーラシア政府からの庇護は無くなる。リヴァイブは別の組織だと言い張っても「自分の縄張りも守れないのか」で終わりだ。

 「元々『コーカサスの夜明け』は反政府側だからね。大尉達の説得に乗る可能性は高いよ」

 お茶を啜りながら、サイ。ターニャが呆れた様に言う。

 「ややこしいわね。男ってどうしてそう陰謀が好きなの?」
 「そりゃ、家を守らなきゃいけないからね。必死にもなるよ」
 「……ありがたい話だわ」

 そんなサイとターニャのやり取りを聞きながら、しかしソラは嬉しかった。なんだか戦争をしなくてすむ、と聞いただけで心が浮き立つ。自分でも何故なんだろうと思いながら。

 「まあしかし、安心は出来ないよ。大尉達三人が居ない間に襲われたらシンとコニールしかいないわけだし……そういえばターニャ、お子さん元気?」
 「元気よ。こないだ1歳になったばっかり」
 「そうか、もうそんなになるのか。後でシゲトにお祝いを持って行かせるよ」

 ふと、ソラは違和感を覚えた。それは別に悪いものではない。しかし、引っかかるものだ。そしてターニャの次の台詞で、お茶を飲んでいたソラは吹きだした。

 「もう出産して1年か、早いわね。でも14歳で出産するのって早くない?」
 「まあ昔は結構あったらしいけどね……どうしたの、君?」

 げほごほと気管に入ったお茶でむせながら、しかし次の瞬間叫んでいた。 

 「じゅ、14で出産って!? ど、どういうことですか!?」
 「どう、と言われても……」

 困った様にターニャ。ソラとて困ってはいる――どうしたらいいかわからない、という風に。何しろ、今ソラは15歳で、ターニャと同い年なのだ。なのに片方は一児の母なんて事があるのか。
 とはいえ。

 「あ、そうか。オーブじゃこんな事は考えられないよな。でも、こっちじゃままある事なんだよ」

 というサイの言い分にカルチャーショックを受けつつも、ソラは納得しなければならなかった。




 もちろん、ソラとて完全に納得した訳ではなかった。その日の仕事を終え、ターニャの実子を見るまでは。

 「紹介するわ、あたしの娘ナージャよ」

 ソラとターニャに割り当てられた部屋。その真ん中ですやすやと眠る赤ん坊を嬉しそうに抱っこしながらターニャが言う。それで目が覚めたのか、ナージャはくしゃくしゃと笑いながら、母親の頬を叩いたり顔をこすり付けたりする。
 ソラは何か言おうと思った。質問を投げかけたいとも思ったし、気の利いた事を言おうともした。けれど、上手く言葉に出来ない。もごもごと言いかけて、ようやく言葉に出来たのはこれだった。

 「……怖くなかった?」

 ソラは真っ赤になった。うまく聞く事すら出来ない気恥ずかしさもあって。
 俯いたソラの頬を、しかし小さな手がそっと触れてきた。

 「怖かったよ。でも、それ以上に……嬉しかったわ」

 何時の間にか、ターニャが傍に来ていた。そして小さな手を伸ばして、ソラに触れようとするナージャが居る。好奇心を瞳に湛えて、命の輝きを全身で表しながら。
 その手を自分の手で包み込む様に触れ、ソラはようやく言う事が出来た。

 「よろしく、ナージャ」




 満月の夜だった。雲1つない、月明かりが全てを照らし出す様な。その中を1機のモビルスーツが疾駆していた。『コーカサスの夜明け』の実質上の大将が駆る真紅のシグナス、レグルス=ガルの機体である。

 「耄碌した老人に、右往左往しか出来ない馬鹿者共が……」

 レグルスは『コーカサスの夜明け』の中でも古株で、最も長く政府軍と戦ってきた古強者だ。その彼が、何故東ユーラシア政府の懐柔策を呑んだのか。それは彼自身の体感でわかっていたのだ――『この戦力では、奴等に勝てない』と。
 勝てない戦はしてはならない。それがレグルスの信仰であり、信条だ。彼にしてみれば、リヴァイブの言い様は『特攻精神』に他ならない。それでは駄目なのだ。

 「勝てぬ勝負をして何になる。守るべきものを守らなければ、生きる意味もない!」

 『コーカサスの夜明け』も揺らいでいる。おそらくはリヴァイブの強硬路線に同調するだろう。もはやレグルスの取るべき道は1つだった。
 シグナスに装備されていた索敵用のサーチウィザードが獲物を発見する。半ば賭けだったが、レグルスは勝利した様だった。
 大尉達に気付かれず、再度『コーカサスの夜明け』を掌握する為に――レグルスはスレイプニールに向かってただ1機、移動を開始した。




 《敵機接近、敵機接近、パイロットは至急ハンガーへ。繰り返します。パイロットは至急ハンガーへ……》
 「ったく、こんな時に!」

 ベッドから飛び起きると、その場に放り出していたズボンと上着をひったくる様に着て、シンは部屋から飛び出す。

 《こんな時だから来たんだろう。相手は1機、という事は突撃してくるぞ》
 「何もわざわざ、帰る場所を失くさなくたって……!」
 《主義主張、というのはそういうものだ。いいか、今この艦を守れるのはお前1人だ、シン》
 「わかってる!」

 シンは最短ルートを駆け抜け、シグナスのコクピットに飛び込む。既にアイドリングは済まされていたらしく、すぐに起動できた。

 《コニール=アルメタ、先行して迎撃に当たります。さっさと来なさい、シン!》
 
 言うが早いか、フォース=スプレンダーが飛び出す。それを追うようにシグナスも射出された。

 「シン=アスカ。シグナス出るぞ!」




 望遠モニタに、紅いシグナスが移る。ホバーで最大戦速をキープしながら、シンはビームカービンを構え、撃つ。紅いシグナスも回避しながら、こちらにビームカービンを撃ち始めた。
 もはや、話す舌などない。お互いに最大戦速で回避しつつ、攻撃を続ける。

 「腐ってもエースか。射撃が厳しい!」
 《シグナス=レッドは鬼神の証、か。さすがは『コーカサスの夜明け』で一時代を築いただけはある》
 「褒めてる場合か!」
 《ちょっと、漫才なら後でしなさいよ!》

 フォース=スプレンダーからも火線が伸びる。とはいえ元々対地戦闘機ではないので、アクセント程度にしかならないので、これも易々と回避される。シンは決断した。

 「切り込んで止める。援護頼む!」

 シンはビームカービンを捨て、ビームサーベルを構える。それを見て紅いシグナスもビームサーベルを構えた。

 「おおおっ!」

 腰溜めにサーベルを構え、シンが突撃する!
 紅いシグナスのサーベルが振り下ろされ、二つのサーベルが激しく交錯した。

 《邪魔をするな、若造!》
 「年を食っただけの奴が、偉そうに!」
 《ほざくなッ!》

 肩と肩がぶつかり、2機のシグナスが離れる。が、シンは手応えを感じていた。

 「いける!」

 これなら勝てる、そうシンの経験が確信していた。白兵戦なら、シンに一日の長があると。
 低くサーベルを構え、再びシンは突撃する。紅いシグナスは再び振り下ろしてきた。しかし、それはシンの思う壺だった。急激にバランスを変えスラスターで無理やり推力を作り、サーベルの軌跡を変える。

 《なんとっ!》

 シンのサーベルが紅いシグナスの片腕を切り飛ばす。保持されていたサーベルが動力を失い、虚空に消えた。
 勝った、とシンは思った。しかし次の瞬間ぞくっとしたものが来る。
 紅いシグナスの右足が輝いた――そう思った瞬間、シンのシグナスの片足が切り飛ばされていた。




 「シンッ!」

 離れた上空から見ていたコニールには何が行なわれたかよく判った。紅いシグナスは足にサーベルを装備できるように改造されていたのだ。そして、その必殺兵器を攻撃を食らった瞬間のカウンター、即ちシンが目視出来づらい位置で振り切ってきたのだ。むしろあの状況下で片足で済んだシンを褒めるべきだろう。

 「このっ!」

 コニールはビーム砲を乱射するが、紅いシグナスは後退してそれを避ける。お陰で、シン機に止めが刺されるのだけは防げた。だが――。

 「……まさか、フライトシールド?」

 紅いシグナスが来た道に放置していたもの。その中にあったのだ、高速移動用バーニアを持つ巨大なシールド状ユニットが。
 ――そう、紅いシグナスの狙いはこれだったのだ。

 「ふん、俺の狙いは一つ。ロマ=ギリアム、貴様の首だ!」

 コニールが旋回する間も、シンが身を起こす間も無かった。次の瞬間、紅いシグナスがフライトシールドで闇夜に飛び上がっていた。真っ直ぐに、スレイプニールに向かって。




 「防衛ライン、突破! 敵モビルスーツ、来ます!」
 「防空戦用意、迎撃ミサイル『ディスパール』発射準備! 各砲座は個別射撃を許可する!」
 「了解! ディスパール発射準備まで後5秒。対空砲座担当は各自持ち場に着け!」

 スレイプニール副長、ヨアヒム=ラドルが矢継ぎ早に指示を出す。ラドルはやおら振り返ると、そこに居るスレイプニール艦長にしてリヴァイブのリーダー、ロマ=ギリアムに言った。

 「敵モビルスーツは間違いなく艦橋を狙ってきます。万一の事もあります、居住ブロックへお戻り下さい」

 居住ブロックは基本的に、そう狙われない位置だ。反対に艦橋は敵モビルスーツにとっては最も狙いたい位置だろう。まして、今回最も狙われているのはロマ個人だからだ。しかし、ロマは首を振って断固たる口調で言った。

 「いや、駄目だ。レグルスが単機で来たという事は、僕を討ち取るのが目的だ。ならば、僕が引くわけには行かない。居住区の人達を巻き添えにしては、僕等の目的すら失われてしまう」
 「……わかりました」

 一歩も引かない姿勢のロマに、しかしラドルは帽子を被りなおすと決然とこう言った。

 「ならば尚の事、敵機の蹂躙を許す訳にはいかん! 総員、気合を入れろ! 我等のリーダーを守るのは我等であると見せ付けるのだ!」

 スレイプニール中に警報が鳴り響く。ディスパールの射出音に負ける事無く。
 そして、紅いシグナスからの火線が夜空を彩り始めた。
 


何度も思い出す。「この子をお願いね」と言って、走っていったターニャの姿を。
対空砲の担当も兼ねていた彼女の運命を。
……何度も、何度も。どうしていいかわからない位。
その時の私は、ナージャをあやす事しか出来なくて……。




 ビームカービンの斉射がスレイプニールに命中し、爆発を起こす。

 「くそっ、煩わしい対空砲め!」

 ここまで近付いたが、さりとてスレイプニールも必死である。近付かせない様に対空砲のリズムを組み立て、懸命に紅いシグナスの足を止める。だが、それだけで何時までも止められるものでもない。

 「これでも食らえっ!」

 レグルスはフライトシールドにもう一度火を点すと、それを手近な対空砲に向かって突っ込ませる。それは見事命中し、黒煙が上がる。それで対空弾幕の密度が弱まった。

 「よしっ。道化師め、引導を渡してくれるわ!」

 レグルスはシグナスをジャンプさせて、スレイプニールの艦橋目指して弾幕の中に飛び込む。眼前にミサイルが撃ち出させてくるが、ビームカービンでそれを撃ち落しつつ、突き進む。そして目指す艦橋に取り付いた時、目指す者がそこに居る事に気が付いた。
 ロマは動じる事無く艦橋の窓から紅いシグナスを見据える。それを見て、レグルスはほくそ笑んだ。ビームカービンを捨て、ビームサーベルを引き抜く。

 「俺の勝ちだ、道化師め!」

 ビームサーベルを振り抜こうと――その瞬間、レグルスは信じられないものを見た。ロマがこちらから目を逸らし、驚いた顔をしたのだ。レグルスは釣られてそちらを見てしまい――見てしまった。ロマの最後の賭けに、レグルスは負けてしまった。
 ロマの振り向いた間逆の方向、そこからフォース=スプレンダーに捕まって、そのままの勢いでシンのシグナスが突撃してきていた。

 「何!?」
 「うおおおおおおおっ!」
 
 避ける間は無かった。そしてシンは全てを賭けてレグルスのシグナスを潰す、という意地があった。対してレグルスは『勝った』という安堵があった。勝敗はその時点で決していたと言っていいだろう。
 ビームサーベルは打ち合わされた。だが、勢いを乗せたシグナスの肘が紅いシグナスのコクピットに突き刺さる。一瞬の内に金属の壁に潰され、レグルスは断末魔すらなく絶命していた。




――私が全てを知ったのは、次の日の事でした。

「近付いちゃいかん。あんな……むごい姿を、娘に見せちゃいかんのだ」

私を止めたおじいさんは、そう言いました。
黒く焼け焦げた廊下。鉄とゴムが焼けた様な臭い。
そして、ぐしゃぐしゃになった砲台の様なもの。
私は――私は。

「まんまー、まんまー」

小さな手が、虚空に伸びる。そこに居るはずの、居たはずの人を探して。
私に出来る事は、ありませんでした。
ただ悔しくて、辛くて、哀しくて。
ナージャの温もりが私を救ってくれました。


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