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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第一部「導かれし運命」

1-10

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『カテゴリーS』。それは、この世界最高の強者であるという称号。
モビルスーツという最高の戦闘兵器、それを誰よりも使いこなせる。
場合によっては一軍に匹敵する戦闘能力を叩き出す彼らの活躍は、
既に地球連合とZAFT間で起こった二度の大戦によって証明されています。
『カテゴリーS』――それは人の理解を遥かに超えた、超戦闘者達なのです。
 



 12月24日正午、統一地球圏連合国家首都オーブにあるラクス=クライン公邸――『通称、歌姫の館』。そこにあるテラスでアンドリュー=バルトフェルド情報管理省大臣は、館の主ラクス=クラインとテーブルを囲み、話し込んでいた。爽やかな木漏れ日、そして小鳥の囀り。しかし、彼等の会話内容は『平和』とは程遠いものだった。

 「クルセイダーズのミッションプランは以上です。どうやら治安警察は独自に東ユーラシア政府と取引を結んだ模様ですな。確かに治安維持レベルの内容、といえばそうですが……」
 「……そうですわね。これはライヒに後程確認を取ります。少々、跳ね過ぎですわ」
 「それが宜しいでしょう。また、現在この地域にメイリン殿が存在している可能性が高いという情報が入っております」
 「メイリンさんが? それは……まずいですわね」
 「そう思って、手の者を派遣しております。後数時間――現地時間の25日3:00には到着予定となります」
 「微妙な時間帯ですわね。急がせて下さい」
 「はっ。全力を尽くします」

 言ってバルトフェルドは立ち上がると会釈し、早足に立ち去る。事態は一刻を争う、しかしこの庭園で走るなどという事は許されない。何故なら。

 「バルトのおじちゃん、もうかえっちゃうの?」
 「はっはっは、おじさん仕事なんだよ。今度またキャンディを持ってきてやるからな」
 「えー? ほんと、おじさん」
 「本当だとも。おじさんは嘘はつかないぞー」

 バルトフェルドが早速、館のそこら中に居る子供達に捕まった。内心辟易する事もあるが、彼はおくびにも出さずに子供達に応対する。
 そう、万に一つも彼等を不安にさせる訳にはいかない――それが、この館のルールなのである。
 バルトフェルドが退出した後、入れ替わる様に庭園に青年が現れた。この館のもう1人の主、キラ=ヤマトである。

 「ラクス。もうバルトフェルドさんはお帰り?」
 「ええ。今日の紅茶はあまりお気に召さなかったようですわね。折角私が手ずから入れましたのに」
 「……だから、ラクス。コーヒーにしてあげなよ」
 「嫌ですわ。紅茶を楽しめてこそ、人生の楽しみがありますのよ」
 「無理強いはよくないと思うけどね……ん、これは?」

 ふと、テーブルの上に一枚の紙が置いてあった。それはメイリンが『護身用』にレコンキスタに積載させたモビルスーツ『イグ=ダスト』のスペックデータであった。捨てようと思ったが、何となく気になっていたので、先程もラクスは眺めていたのだ。
 何故か、引っかかるのだ。何故かも解らずに。

 「トライアルで『ストライク=ブレード』に負けた機体らしいですわ。メイリンさんはまた、珍しい機体を護身用にお選びになられた事。言っていただければ、ピースガーディアンから何名かお付けしたのに……」

 ラクスは悪戯っぽく、両手を後ろで組む。少し拗ねた様な仕草だ。しかしそんな妻の仕草に、キラは珍しく意識を移さない。食い入る様にスペックデータを凝視する。夫の珍しい様子に、彼女は首をかしげた。

 「メイリンが、これを? ……これは、とんでもない機体だよ。とても素人が扱える様なシステムじゃない。一体何だってこんなものを」
 「どういう事ですの?」
 「一般兵士が使う事を想定されるトライアルで、こんな機体が通る訳はない。これは、本当のエース専用機体だよ。DPSシステム、これが曲者だ」

 キラの目は真剣そのものだ。普段このような夫を見ないだけに、ラクスも不安になる。彼は熱心にスペックデータを見ていたが、しばらく経って顔を上げるとこう結論付けた。

 「簡単に言うよ。この機体は『バッテリー駆動でありながら、核動力機体に迫りうる』スペックを持っている。パイロット次第では、互角どころか圧倒的なアドバンテージを得る事すら可能だよ。でも何故、こんな機体を……」

 キラは考え込む。そんな夫の様子を見ながら、ラクスは何か確信していた。この一件に秘められた、陰謀めいた事態に。




 ――コーカサス州ガルナハン地区アリーの街、23:00。
 既に眠りについたソラとナージャを起こさない様にしながら、コニールとレイは怒っていた。

 「どうしてくれようかしら、アイツ。まさか任務中に夜遊びに行くとは……」
 《少々、お灸が必要だな。どうしてくれよう》

 こつこつ、とコニールの指がテーブルを叩く。イライラした思いを爆発させたくない彼女の精一杯の抵抗だった。
 不意に、ドアがノックされる。コニールはすぐにドアの傍に行き、覗き窓を開けて――怒鳴れなかった。見慣れぬひょろっとした男女の組み合わせに、彼女は不信の目を向ける。

 「……誰? あんた達」
 「誰、と言われましても……なんと説明したらいいか私にも、ねぇ」
 「わかりました。代わりに説明します。シン=アスカ様から伝言です。『故あって、治安警察情報部の人間と共闘する事になった。今からこの街にドム=クルセイダーズの浄化作戦が行なわれる。すぐに街から脱出してくれ』――以上です。必要であれば、私達が皆様の護衛も受持つ様に上司から命令されています。宜しいですか?」

 コニールは面食らっていた。余りの突拍子もない事態に、何秒か経っても理解できそうもなかった。だから、こう言うのがやっとだった。

 「と、とにかく詳しい話を聞かせてくれる?」

 ベッドでは「ふに?」とソラが目を擦りつつ起き上がっていた。




 アリーの街、同日23:30。
 すっかり人通りの無くなったメインストリートをメイリンの運転する車が駆け抜けていく。明らかなスピード違反だが、搭乗者二人が全く構う様子は無い。

 「後30分。既に部隊の展開が終わっている頃よ。シン、貴方達の展開戦力は?」
 「非戦闘区域に無茶言うなよ。せいぜいが要人護衛用のシグナス数機だ」
 「……相手は12機全てが核動力なのよ。そんなんじゃ持って数分よ?」
 「だからここは『非戦闘区域』だって言ってるだろ!? 仕掛けてくるお前等がおかしいんじゃないか!」
 「私じゃないわよ! そう言う貴方だって狙撃未遂なんてやってるじゃない、オーブは立派な非戦闘区域よ!」
 「それとこれとは話が別だろ!」

 カンッと乾いた音がして、ジュースの缶が壁にぶつかる。どうやら車が踏みつけ、弾いたらしい。
 シンとメイリンはお互い、顔を背ける。

 「私は貴方を許したわけじゃない。でも、ここで死ぬわけにはいかないの。だから精々貴方を利用させてもらうわ」
 「……勝手にしろ」

 シンとて異論は無い。罪滅ぼし、という訳でもない。そうであるならば安すぎる。彼自身、こんな事をした程度でメイリンに許しを請えるとは思えない。だが。

 (……こんな所でメイリンを死なせてたまるか。今度こそルナに顔向けが出来なくなっちまう)

 不意に、夜空に閃光が炸裂した。シンはそっちを見て、それが対空ミサイルが爆発したのだと瞬時に理解した。同時に、戦慄せざるを得なかった。

 「始まったぞ、くそっ!」




 夜空に爆光が閃く。その中を悠然と進む一団が居た。爆圧をそよ風の様に受け流し、彼等は進む。破壊と殺戮を撒き散らす為に。

 「マーズ、ヘルベルト。それぞれ3機づつ引き連れて暴れて来い。後はあたしに付いておいで」
 《了解。いいか野郎共、ヘルのチームに勝ったらこないだのカードの賭け金チャラだぞ!》
 《その代わり俺のチームが勝ったら、借金二倍になるって事も覚えとけよ。よーし、行くぞ!》

 12機のうち、3機の純白に配色されたドム=クルセイダーが部隊を統率していく。その3機がヒルダ、マーズ、ヘルベルトの搭乗機だった。12門のビームランチャーが火を吹く。大地が砕かれ、建物が燃やされ、人が吹き飛ばされた。

 「ぎゃあああっ!」
 「やだぁ! ママ、ママー!」
 「ビ、ビルが……倒れてくるぞぉぉっ!?」

 彼等の任務は『制圧』である。しかし、それはただの言葉遊びだ。彼等の正式な任務は常に『浄化』なのである。
 レジスタンス――テロリストは市民レベルで潜伏している事態が多い。それ故、本当にテロリズムを叩き潰すのであれば全てを破壊してしまった方が手っ取り早い事もあるのだ。
 それが、戦争なのである。
 燃え上がる街の中から、何機かのシグナスが出てきて迎撃しようとする。しかしそれはドム=クルセイダーズの加虐心を更に燃え上がらせただけだった。

 「ハハッ。そんな豆鉄砲でドムに挑むつもりかい?」

 マーズの機体が悠々と降り立ち、歩む。当然ビームの集中砲火が行なわれた。しかし、それを全く物ともせず、白いドムは歩み続ける。ビームが被弾する度、ドムの周囲に赤いバリア上のものが発生しているのが見えた。スクリーミングニンバス改――核搭載機でなければ動かせない程の、強力な防御装置である。

 「やれ、お前等」
 《いいんですか? 了解》

 何時の間にか後ろに付いていたドム達が、白いドムの合図で一斉にビームランチャーを構える。
 シグナスは、もはや敵うまいと判断してビームカービンを捨てた。
 その瞬間、ドム達は遠慮なく射撃を開始していた。降伏等許さない、それがドム達のルールであった。




 「……なんて道通らせるのよ!」
 「こっちの方が安全だろ!」

 メインストリートを使うのは危険だ。そう判断したシンは一計を案じた。アリーの街は浄水設備が割合普及しており、市内を大きく十時を描く様に地下下水道が構築されている。今シン達は、そこを通って移動しているのだ。
 そして、メイリンの車はそこを駆け抜け街の郊外に出る。

 「おい、機体はどこだよ!?」
 「もう少しよ! 運転変わって!」

 走りながら、メイリン。シンは慌ててハンドルを握り、メイリンは後部座席に移る。遠くに停泊しているミネルバ改級戦艦レコンキスタが見えた。

 「そのまま真っ直ぐ走って。今モビルスーツハッチを開くから、そこから侵入しましょう」
 「……ちょっと待て。いくら何でも気付かれるぞ」
 「貴方、私の特技を忘れてない?」

 言いながら、メイリンはノートパソコンを取り出した。

 「こんな時の為に、レコンキスタのシステムはいつでも掌握できる様にしておいたのよ」

 メイリンはくす、と微笑んだ。




 しかしそんなメイリンの動きなど、ヒルダの予想内であった。

 「ふん、やはり動いたのかい」

 ヒルダは自身の限界を知っていた。電子戦ではメイリンに比肩しうる者など居ない、まして自分が相手できる等とも思っていなかった。ヒルダの対策、それはレコンキスタのモビルスーツデッキの電圧が変わったら知らせるという、酷く原子的な外付けのシステムである。
 しかしそれ故に、メイリンの視界からは逃れた様だった。
 バッテリー駆動のモビルスーツは当然、出撃前にバッテリーチャージが行なわれる。それを抑えておけばいいのだ。

 「続け。レコンキスタに戻るよ」

 不意に言われたので他のパイロットは不信に思ったかも知れない。だが、不平など言う者は居ない。部下が全てを知る必要は無い、上司に全てを預ける――それもドム達のルールである。




 呆気なく思える程、レコンキスタ内部には易々と侵入できた。

 「シン、このマップの通りに行くわよ。隔壁を操作して警備兵を除外するわ。ついでにブリッジにはダミーデータを流しているから大丈夫よ」
 「……恐ろしい奴だよ、お前は」
 「博士が待ってるのよ、無駄口叩かない」
 「博士って?」
 「イグ=ダストの設計者よ。ほら、早く!」

 シンは拳銃を取り出す。しかしメイリンの言った通り、通路の隔壁が何枚か下ろされており、
シン達は敵兵に出会う事無く目的地に辿り着いた。

 「おお、遅いぞ! 今まで何をしておった。イグダストは何時でも出せるぞ!」
 「博士、ありがとう。こっちがシン、イグダストに乗ってもらうわ」
 「挨拶はいい。機体は?」
 「インパルスと同じドッキングシステムよ。コアスプレンダーに乗って、シン」
 「インパルスと同じ? ならこっちか」
 「頑張ってね。こっちで発進準備を進めるわ」
 「頼む」

 言ってシンは踵を返した。もう戦いは始まっている、一刻の猶予も無いのだ。そして、それが終われば間違いなくドム達はメイリンを殺すだろう。それは、何としても止めなければならない。
 シンがエレベーターに乗って姿を消すと、博士はぽつりと呟いた。

 「そうか、彼が『カテゴリーS』か。なら、ひょっとするかもしれんのう」




 遠くで雷鳴の様な爆音が響く。蹂躙の火の手が段々と近付いてくるのが解って、ソラはぎゅっとナージャを抱きしめる。 

 「まずいな、道路が既に破壊されてる」
 「地下水道に入って。車でも移動できるわ」
 「それしかないようですね、わかりました」

 コニール達は結局、オスカー達に従って移動を開始した。突拍子も無い話だがシンの名前が出て来た事や、治安警察側が『そこまでして騙す必要も無い』という事を加味したのだ。オスカーが車を運転し、コニールが指示を出す。

 「こっちには戦力がありません。襲われたら一溜まりもありませんよ」
 「豆鉄砲ならありますが?」
 「……謹んで遠慮します」

 ソラは祈っていた。懸命に祈っていた。

 (シンさん、シンさん……助けて。助けて、お願い! ナージャだけでも!)

 この子だけは、この子だけは守らなければならない。それは、ソラの誓いだった。




 シンは、素早くパイロットスーツを着ていた。機体の性能を充分に引き出す為には、必要な儀式だと思えたのだ。
 緑色に配色されたコアスプレンダーに飛び乗り、計器類をチェックする。いくつかは以前と変更されているようだが――いける。

 「こちらシン。いつでもいいぞ」
 《了解。いいシン、その機体に搭載されているDPSシステムは大幅にバッテリーを食うシステムだから、上手く使ってね。フルで使い続けると10分程度しかバッテリーが持たないわよ》
 「なんだよ、その無茶なシステムは」
 《貴方なら出来るわ。ZAFTのスーパーエース様?》
 「茶化すなよ」
 
 モニタにGUNDAMの文字が表示される。機体が一体となる感覚。それが、シンに届き始めた。

 《ハッチ開放。コアスプレンダー射出位置へ移動。チェストフライヤー、レッグフライヤーカタパルトへ移行》

 奇妙な感覚だった。聞きなれた声が、見慣れた光景が。時を移し、陣営を移して復活する日が来るとは。何となしに感慨に耽りながら、操縦桿を握り――

 ガシャァァ!!

 サブモニタに映ったメイリンの姿が、一瞬で消えた。シンは瞬時、見えた――巨大な手が、メイリンを掴んでいった光景が。 

 《キャアッ!?》
 「メイリンッ!」

 ドムのモノアイが閃く。シンは理解していた。奴等が、レコンキスタへ戻ってきたのだと。

 《シン、早く行って!》
 「しかし……!」
 《貴方が戦わなかったら、もう誰も救えないわ!》

 一瞬の焦燥――だが、シンは決した。

 「シン=アスカ。コアスプレンダー出るぞ!」



遠い昔、捨て去った記憶。遠い場所へ、捨ててきたもの。
人から要らぬと捨てられ、人の記憶に残らないもの。
それらの塵を1つづつ繋ぎ合わせ、奇跡が起こるのなら。
――イグダスト。




 「何故だ!」

 シンの前にもドムが1機来ていた。カタパルトに向かってビームランチャーを構え、撃つ。
 しかし、シンは構わなかった。何故か当たらないと、冷静に判断できていた。
 更に速度を上げ、ミサイルを放つ。出口のドム周辺で爆発が起こり、ほんの少し空間が出来た。
そこにコアスプレンダーを飛び込ませ、シンは大空に飛び出る。

 「何故、俺が生かされる! 何故、皆俺の前で死んでいく! 何故なんだ、何故!」

 マユ。俺は何度、君の姿を見直しただろう。
 ステラ。俺は何度、君との触れ合いを思い出しただろう。
 そして、ルナマリア。俺は何度、君に救われただろう。
 いつか、君達に俺は報える日が来るのか。来る訳がない――全てが、失われてしまっているのだから。俺の命なんていう、一番不要なものだけが残って。
 こんなにも手を伸ばして。こんなにも焦がれて。それなのに。
 
 (ううん、そうじゃない。そっちじゃないのよ、シン)

 不意に、声が聞こえた。それは、焦がれた声。欲しかった人の面影――ルナ。

 (わからない? 私は貴方の傍にずっといた。こんな風に、ほら)

 ルナの両手が、ルナが――背後から抱きしめてくれていた。決して触れ合えぬ場所に居ながら、シンの心を抱きしめる為に。

 「ルナ、俺は……!」
 (シン。貴方は間違っている。私はね……貴方が好き。世界の誰よりも、ううん、世界よりもずっと。誰にも変え難い位、貴方を愛してる。だから、生きて。誰よりも長く、生き抜いて。卑怯でも、歪でも構わない――それが、私の願い。私は貴方を生かすためなら、死ぬのも怖くなかった……自分でも不思議なんだけどね)

 シンは我知らず泣いていた。温もりが、無いはずの温もりがわかる。わかるのだ。

 「ルナ!」
 (ねえ、シン。貴方は変わらず優しいのね。自分の身を顧みず、何時だって危険に飛び込んでいく。誰のためでもない、皆の為に。だったら、私くらい貴方の為に死んだっていいじゃない。生きて、シン。誰の為でもない、私のために。
 貴方の剣は、私が用意した――誰よりも強い、剣を。世界なんか救わなくていい、生き抜くための剣を。愛してる、シン。誰よりも、ずっと貴方を……)

 それは、ルナの最期の機体となったインパルスのパーツも使われていたからかもしれない。或いは、人の幻想なだけなのかも知れない。だが――。
 それでも、それは人が造り出したものだ。人の思いが作り出した産物だ。
 ガイドビームが伸びた。チェストフライヤーが合体し、次いでレッグフライヤーが合体する。
 シンは、合体した瞬間体が溶けるのを感じていた。まるでルナマリアの体に入っていくかの様に。
人の殻が、パキンと割れる様に。
 イグダストの双眸が輝いた時、シンは自分の視界がクリアになったのを感じていた。




 「ククッ、ようやく捕まえたよ女狐。気分はどうだい?」
 「……最悪よ。これ以上ないっくらい」

 ヒルダのドムは、素早かった。レコンキスタのモビルスーツハッチが開いているのを確認した瞬間、サブモニタールームにメイリンたちが居るだろうと当たりを付け、そして襲ってきたのだ。 
 コクピットハッチを開き、ドムの手に拘束されたメイリンをヒルダは見下ろす。

 「全く、馬鹿な女だよ。『今回だけは許してやれ』って本国からお達しが来たから、命だけは助けてやるけどねぇ。さもなきゃ、あんたの姉貴みたいに千切り捨ててもよかったんだけどねぇ」
 「やっぱり、貴方が!」

 憎しみで人が殺せるならメイリンは何度、眼前の女を殺す事が出来ただろう。だが現実には、憎しみだけでは人は殺せない。そして目の前の女は憎しみなど雨の様に浴びてきた人間なのだ。

 「ふん、何も出来ないだろう? それがあんたの限界さ。限界を知らない奴は、長生きできないのさ――今しがた出て行った、あんたの切り札もね。
 全く馬鹿な話さ。核融合機体に、旧世代のバッテリー機体が敵う訳ないだろう? 出力も性能も段違いなのにねぇ」

 ヒルダは哄笑した。笑いが止まらなかった。メイリンが俯いたのが又、面白かった。
 しかし次の瞬間、ヒルダは黙った。メイリンが俯いていたのではない、くすくすと笑っているのがわかったのだ。

 「……何がおかしい?」

 メイリンは顔を上げた。にやりと笑みを浮かべて。

 「悪いわね。貴方は知らないのよ――こうなった時のシンの恐ろしさを。本当に追い込まれた時の、シンの恐ろしさを。私達ミネルバのクルーが皆諦めた時、ただ1人諦めなかったシンの恐ろしさを、味わうといいわ」
 「……何を言うかと思えば。お前の思い人など、私の部下で充分だ。3機のドム=クルセイダーが奴を追っているのだぞ。もう片が着いている頃だ」

 その時、ヒルダのコクピットから通信のコールが来た。「噂をすれば何とやらだ」とヒルダが呟く。しかし、その通信はヒルダの想定外のものだった。

 《あ、姉御! 何だアイツは! アイツ、アイツは……化け物だ! もう2機もやられた! 激しく動くわけでもない、ただ歩いてくるだけなのに……ヒイイイイッ!》

 ゴシャッと何かが潰れた音がした。それきり、通信が途切れる。

 「ほーらね。始まったわよ」

 メイリンの勝ち誇った様な笑いを見ながら、ヒルダは全隊に通達した。《集結せよ》、と。




 マーズはヒルダの命令を聞きながら、しかし不審なものに気付いた。

 「……なんだ、ありゃ?」

 ほとんど動くものの居なくなった、燃え上がるアリーの街。そこに奇妙な人影が居た。急ぐでもなく、逃げるでもなく、こっちに歩いてくるのだ。しかも、モビルスーツが。

 「気が狂ったか、それとも無人機か。まあ、死んでもらうぜ」

 マーズはさっと部下に合図した。1人が反応し、ビームランチャーを構え、放つ。その時、不思議な事が起こった――放たれたビームが、その歩み寄る機体の左手に吸い込まれる様に消えたのだ。

 「な、何だ?」

 部下が更に撃つ、撃つ、撃つ。しかしそれらは尽く『輝く左手』に吸い込まれていく。それはまるで蝿を追い払うかの様に、手を振るっているだけだ。
 マーズは気が付いた。その度、左手の輝きが増している事を。

 「……何だ、ありゃあ」

 マーズが呟く。ふと、その機体が足を止めた。すると左手の輝きが更に増し、巨大な球体が発生していた。マーズはそんな武器は知らない。いや、一度だけ見た。あれはメサイア攻防戦の時に……。

 「パルマフィオキーナ……?」

 ぽんっ、と球が放り投げられた。キャッチボールで上に放り投げるように。それはスローモーに弧を描き――弾けた!

 「なっ!?」

 エネルギー爆発が視界を覆った。咄嗟にマーズは機体のスラスターを制御し、後退する。しかし、部下は逃げ遅れていた。そっちをマーズが見た瞬間、更にマーズは信じられないものを見た。

 《マーズ隊長! こ、こいつ……こんな華奢な身体で……!》

 ドム=クルセイダーの出力は、当代屈指である。核動力に支えられた重装甲を維持するために、そのパワーも並みのモビルスーツとは比べ物にならない。組み合いなどしたら、最強のモビルスーツなのだ。
 ……それなのに。
 メキメキと関節が軋む。相手の機体ではない、ドム=クルセイダーの機体が、だ。次の瞬間、ドム=クルセイダーの右腕が引き裂かれていた。ビームで切り裂いたのではない、力尽くで引き抜かれたのだ。
 そのまま、相手のキックがドムの腹部に当たる。その瞬間にマーズは更に瞠目した。なんとドムがそのまま浮いた――吹き飛ばされたのだ。
 キックが当たった場所は胸部付近。その辺りがべこ、とひしゃげている――コクピットごと、潰されていた。

 
 《隊長! どうしました!?》
 《バーツ機が……よくもっ!》 

 少し離れて『作業』していた残り2機が、駆け付ける。すぐに2機はスクリーミングニンバスを起動、揃って突撃を開始した。ジェットストリームアタック――ドム=クルセイダーの必勝形態である。

 「待て、お前等!」

 何だ。この嫌な感じは。このザラっとした感覚は。冷や汗が止まらないこの感覚は。
 しかし、部下達は止まらなかった。彼等はわからなかったのだ――眼前に居るものが、既に理解を超えた存在だったという事が。
 相手の機体が、右腕を振った――右腕装甲に装備されていた対艦刀が外れて放り上げられ、右手が空中でそれを拾う。
  
 《そんなもので、何が出来る!》

 対艦刀の当たりなどで、ドムの突進は止められない。スクリーミングニンバス、更にソリドゥス=フルゴール。堂々と弾き返せるのだ。先に突進したドムが防御を固め、相手の対艦刀を受け止め――られなかった。
 如何に強固な防御だろうと、スクリーミングニンバスもソリドゥス=フルゴールも、依存するのは機体の出力である。対艦刀を受け止めたドムのパイロットは珍しいものを見た。それは一瞬でドムのパワーゲージが消失するという珍事である。要するに、対艦刀の振り下ろされるパワーが出鱈目過ぎて、瞬間的に核融合炉の出力が追い付かずダウンしたのだ。その結果、

 《え?》

 対艦刀が一気に振り下ろされる。頭から真っ向に切り落とされたドムは始めてかもしれない。思考が追い付く間もなく、そのドムは爆散する。後ろに付いていたドムは何とか止まろうとして――捕まった。爆炎などものともせず、ずっと立っていた敵の機体に。
 光る左腕、それが押し当てられた。ずむっと手が機体にねじ込まれ、引き抜かれる。それきり、敵はそのドムに興味をなくしたように背を向ける。そして次の瞬間、ドムは吹き飛んでいた。パルマフィオキーナに込められたエネルギーが駆け巡り、ドムをこれ以上ない位砕いていたのだ。
 そして再び、そいつは歩み始める。今度はマーズの方に。
 マーズは硬直していた――どうしていいかわからないからだ。

 (一体、なんだコイツは!? 俺は夢でも見ているのか!?)

 これまでドム=クルセイダーで世界中を駆け回ってきた。様々な戦場を、死線を越えてきた。しかしこれは、それまでのどの事態とも違っているのだ。
 ここまでの一方的な敗北は経験した事がない。蹂躙、とでも言おうか。
 そんなマーズの金縛りは、しかし最も信頼する上官が解消した。

 《マーズ、何をやっている! 『ジェットストリームアタック=スクラム』をやるよ!》
 「姉御! 了解!」

 ヒルダは残るヘルベルトの部隊を合流してマーズの元まで来たのだ。まだクルセイダーズは6機居る――いける。
 ジェットストリームアタック=スクラムとは要するに四面突撃の事である。防御力に物を言わせて、相手に四方八方から押しかかるのだ。単純だが、それだけに囲んでしまえば回避不能の攻撃である。
 クルセイダーズはリミッターを外す。スクリーミングニンバスがより攻撃的に起動し、触れるもの全てを焼き殺す恐怖の突進が始まるのだ。 
 あいも変わらず、敵のモビルスーツはのんびりとしたものだ。こちらが何をしても気にしていない、というか。

 「舐めやがって! 今度こそ終わりだ!」

 マーズが吼える。ドム達が敵の機体を囲み、そして――突進が始まった。

 「食らえ! 痕跡も残さず焼き尽くしてやる!」

 その時だ。その時、マーズは目が合った気がした。いや、見透かされた様な気がしたのだ。その時、誰よりも早くその機体に突撃していた事を。
 光る左手がマーズ機に伸ばされる。しかしマーズは勝ちを確信した。左手はバリアこそ突破したが胴体部に到達できず、マーズ機の右腕を握ったのみだった。これなら他機の突進を止められない。そう思ったのだ。
 しかし次の瞬間、マーズは今度こそ信じられない光景を見た。マーズ機が右腕ごと持ち上げられ、そして――視界が高速で動き出した。敵機がマーズ機を左手一本で滅茶苦茶に振り回す――そんな光景を想像しうる者は、クルセイダーズには誰も居なかった。

 (こ、こいつ! まさか俺の機体を『武器』に……!?)

 バランスが崩れた。高速で振り回されるドム=クルセイダーが全てのリズムを崩していた。巨大なハンマーと化したドムを避け切れず、或いは受け止められず。次々とドム=クルセイダーのパイロットが圧死していく。
 そして、マーズもそのうち死んでいた。振り回されすぎて、脳座礁を起こしていたのだ。
 ヘルベルトも死んでいた。惨たらしくマーズの機体に叩き潰されて。
 旋風が駆け抜け終わった後、残っていたのはもはや突撃に参加しなかったヒルダ機のみだった。




 ヒルダは、言葉もない。捕らえられ、コクピットに寝かされているメイリンも同じだ。

 「……な、何だいありゃ……」
 「イグダストよね。あれ……」

 いくら何でも――いくら何でも、だ。ここまで凄まじい事になるとは。

 「『カテゴリーS』の可能性……こういう事?」

 メイリンは思い出していた。かつて同僚だった時、シンに恐怖を抱いていた時の事を。あれは、本能的なものだと思っていた。
 そうだ。その通りなのだ。あんなものに恐怖を覚えない方がどうかしている。
 戦闘時間は既に10分を超えている。ということは。

 (シンは意図的に、機体の力をコントロールしている。必要な時だけ最強の力を出している。なんて、なんていう凄まじいパイロットなの……!?)

 メイリンは今更ながら戦慄していた。自分はとんでもない奴に、とんでもないモノを与えてしまったのではないかと。
 奴が――イグダストが近付いてくる。ヒルダは動転を隠そうともしない。

 《く、来るな! このコクピットにはメイリンが居るんだ! それ以上近付いたら……》

 外部音声で、ヒルダが怒鳴る。それに対して、静かにイグ=ダストは言った。

 《なるほど。ならコクピットだけ残せばいい、という事だな》

 出鱈目である。しかし、ヒルダは恐怖した。それ位の事はしかねない奴なのだ。
 静かにイグ=ダストが対艦刀を構える。ヒルダもビームハチェットを構えて――吹き飛ばされた。
パワーがあるという事は、当然瞬発力もある。目にも止まらぬ踏み込みから生み出される斬撃がドムの両腕を切り落としていた。
 イグダストは止まらない。まるで竜巻の様に対艦刀が振るわれる。
 両足も、頭部も、肩も、腰も。最後にコクピットに対艦刀が突き刺された。それは見事にヒルダだけを切り裂いており、メイリンには毛程の傷跡も無かった。




こうして、アリーの戦いは集結を迎えました。
一時的に地下水道に潜っていた私達は、無事にメイリンさんに助け出されて。
そして、私はメイリンさんの好意でオーブに戻れる事になりました。
……ナージャと共に。




 バルトフェルドが手配した高速艇に揺られながら、ソラは物思いに耽る。

 (シンさんに、ちゃんとお別れしたかったな……)

 シンは、イグダストから降りてこなかった。コニールが心配して駆け寄っていたが、どうなっていたのだろうか。本当はソラも駆け寄りたかったが……。

 「どうしたの? ソラさん」

 ふと、メイリンがソラの隣に座る。「あ、あの……」と何か言いたげなソラに、メイリンはぽつりと言った。

 「やめときなさい、シンは。とても貴方じゃ受け止めきれないわ」

 くすりと、笑いながら。見透かされた気分になって、ソラは紅潮する。

 「あ、貴方こそどうなんですか!?」

 これでは認めたも同じだ。ソラはますます真っ赤になる。そんなソラに、メイリンは微笑みながら言った。

 「そうね、結婚してなかったら考えたかな。でも……どうだろね」

 ちろりと舌を出して、メイリン。

 「姉さんには敵わないかも。姉さんの代わりはイヤ。多分、そういう事」
 「……え?」
 「何てね。そうやって一つ一つ諦めなきゃ、歩けもしないもの。でも、シンは諦めなかった――馬鹿なのよ。本物の馬鹿。だから、私も……」

 生きて欲しい。だから、イグ=ダストは残してきた。

 「さーて、この後大変よ。首になるかも。でも、それならそれで清々するわ。一つ一つ片付けて、早く家で寝たいものね」
 「はぁ」

 メイリンは明るく笑いながら、席を立って歩いていく。ソラはもう一度外を見た。コーカサスの大地が段々遠くなり、見えなくなっていく。
 なんとも言えない思いを抱きながら、ソラはずっとその光景を見つめていた。

 「……さよなら」
 「あー」

 膝の上のナージャが、微笑んでいた。
  
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