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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第二部「人を超えし者達」

2-1

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思い返せば。
それは「私」という人間が、固定されていく過程だったのかな。
白いキャンパスだった私の心に、イラストが描かれていく。
生きる意味。目指すもの。そして、守る為に。
三度。人生の中で、私は三度その館を訪れました。
ラクスさまの私邸、『歌姫の館』へ――。

 オーブ連合首長国。
 現在、統一地球連合国家盟主に君臨する国家だが、その直轄領そのものはソロモン諸島に存在するヤラファス島、オノゴロ島、アカツキ島、カグヤ島のみとなる。
 通常『オーブ』と呼称されるのは首都オロファトの存在するヤラファス島――オーブ本島なのだが、この四島の中で一般人が立ち入らなくなった、または立ち入れなくなった場所がある。
 一つは数々の主戦場になったせいで、平和公園や基地施設があるのみとなったオノゴロ島。
 もう一つはその昔から風光明媚な場所であり、保養所などが立ち並んでいたアカツキ島である。
 さて、オノゴロ島に『人が立ち入らなくなった』のはわかる。では何故アカツキ島に『人が立ち入れなくなった』のだろうか。
 その理由は至極簡単。島そのものがある要人の館へと改築されたからだ。
 オーブ軍からも、統一地球圏連合軍からも独立した超法規的集団『歌姫の騎士団ピースガーディアン』の盟主となる夫婦。キラ=ヤマトとラクス=クライン。
 彼らの地上における居城『歌姫の館』――それが、現在のアカツキ島の姿なのである。




 アカツキ島に立ち入るのは、ソラが幼い頃に疎開して以来のことだ。
 幼き記憶ではアカツキ島は自然の豊富な、或いは厳しい場所だったのを覚えている。
 自然とは、本来厳しいものだ。
 ガルナハンは心まで凍り付きそうな冷たい風が吹きすさぶ場所だった。だが、それが本来の自然の姿なのである。
 しかし、今のアカツキ島は何かが違っていた。

 (ガルナハンの寒さを経験しているから、ここがこんなにも暖かく感じるのかな)
 
 不思議なほど、暖かい。いくら温暖なオーブであっても、冬は寒いものだ。建物の中や、アーケードなどは暖房設備があるから、温度調節がなされていても不思議ではない。しかし、今居る場所はその様な人工物の中では無い。木立が生い茂るただの山道なのである。 

  (違う。暖かいんだ、この場所全体が。アカツキ島――『歌姫の館』そのものが)

 ソラは知らない。この歌姫の館がアカツキ島の自然を壊さぬよう、しかし実は技術の粋を集めた建造物なのだという事を。
 それとは悟られぬ様、幾重にも張られた防犯設備。そして、侵入者用の機動設備。更には、そこに住まう住人が快適に生活出来る様な温度設定設備等々……。
 温かな木漏れ日、小鳥の歌声、頬を優しく撫でる風。それら全てが管理された『楽園』。それこそが――。

 「これが、歌姫の館……」

 とうとうソラは、ナージャと共に羽織ってきたコートを脱ぎ、手に掛ける。
 楽しそうにあちこちを見回すナージャをあやしながら更に進むと、急に開けた場所に出た。
 広大な、美しい庭園。そして白い、美しい館。
 ――そして、『その人』がそこに居た。
 彼女は広々とした庭に設えられていた白いダイニングテーブルに、優美に腰掛けていた。
 まるで人形の様な、本の中から抜け出てきた様な現実感の無い美貌――モニタ越し以外では決して見ることは無かったであろう人物。
 その人物にして歌姫の館の女主人、ラクス=クラインはゆるやかな動作で立ち上がると、音楽的な声音で語り出した。

 「貴女がソラ=ヒダカさんですわね。お呼び立てして申し訳ありません、貴女とどうしてもお話をしたかったもので……」
 「あー」

 ソラはごくりと唾を飲み込む。そしてソラの腕の中で、ナージャは『なーに?』というかの様にソラに代わって返事をしていた。




 生まれた時から、見ているものがある。
 成長する度、見直すものがある。それは即ち、自分の姿――鏡に写る、自分の姿。
 洗面所にある大型の鏡に写る自分の姿を見ながら、メイリンは思う。

 (私、見てくれは結構マシだと思ってたんだけどなぁ……)

 泣き腫らした瞳、隈の出来た目じり。頬がこけているのも錯覚ではないだろう。
 視界を落とせば、そこに何度も読み返した紙があった。その上には後生大事にしていた結婚指輪――書類には『離婚受理届』と記載されていた。
 メイリンは蛇口を捻る。勢い良く水を流し、溢れ出る嗚咽を押し殺す。今だけは、誰にも泣いているのを聞かれたくなかった。

 「自分で決めたんでしょ? もう、アスランには迷惑を掛けられないって……!」

 それでも。それでも、一縷の可能性だけは捨てられなかった。『夫が自分を必要としている』可能性だけは。
 離婚受理届とは、離婚申立をした際、相手側が『受理を認可』した際に、申立人に送付されるものである。つまり、アスランも離婚を許可したのだ。
 仕方が無いと、何度自分に言い聞かせただろう。これが今、自分に出来る『アスランの為』だと、何度言い聞かせただろう。
 絶叫――したかった。懸命に水の中に顔を突っ込み、押し殺す。
 涙が水に溶けていく。叫びも、慟哭も。

 「っぷはっ! はぁ、はぁ、はぁ……」

 命の危機が、理性に勝った。意気も絶え絶えになりながら、メイリンは眼前の女性を凝視する――まるで敵の様に。

 「あなたが悪いのよ! あなたが!」
 
 メイリンは感情に任せて、紙と指輪を乱暴にダストシュートに放り込む。きいん、と小さな金属の音が響いて消えた。

 「あなたが、あなたが、あなたが……!」

 流れる水が、全てを押し流してくれるのなら――しかし、それは望むべくも無い。
 大きく息をつくと、メイリンは懐からもう一つのお守りを取り出した。それは姉、ルナマリアの遺品でもあるサバイバルナイフ。それをメイリンは抜き放ち、しばらく呆然と眺める。
 そして――

 「サヨナラ」

 ――ブチッ

 何かが、切られた。




 歌姫の館、キラの私室にて。

 「……そう。メイリンが?」
 「ああ、先日書面が届いていたよ」

 アスランは、手にしていた酒盃をあおる。かなり強い酒だったので、それは喉を通る時に多少の痛みを伴ったが、それも丁度良いとアスランは思っていた。
 キラはそんなアスランを心配そうに見ながら、こちらは静かに杯を傾ける。

 「ちゃんと話したの?」
 「『もう貴方には迷惑を掛けられない』の一点張りだ。ガルナハンで何をしたのか、一言も話さなかったよ」
 「そう……」

 実の所、キラにはもう既に大体の情報が届いている。アスランだとて、大概の情報は掴んでいるだろう。ただ、アスランは知りたかったのだ――彼女から聞く、彼女の気持ちを。

 「別に俺は、あいつの為に職を辞してもよかったんだ。そう言ってくれれば!」
 「…………」

 それはアスランの本心だろう。そして、それをさせたくなかったメイリンの真意。
 すれ違い――お互いに『頼って欲しい』という気持ちの一方通行。二人をよく知っているキラだからこそ伝わってくる感情。
 ただ、それを口に出して言う事はキラはしなかった。有り体に言えば、キラにとってアスランは大事な人間で、メイリンはそれほどでもないという事だ。

 (僕も大概、腹黒いな。もっとも男女の機微って、そういうものになってしまうんだけど……)

 ただ、今は親友の愚痴に付き合ってあげたい。それはキラの本心だった。
 空になったアスランの杯に、酒を注ぐ。そして、言った。

 「飲もうよ、アスラン。僕等にもそういう時間が必要だよ」
 「ああ、今日は付き合えよキラ」
 「お手柔らかに」

 目が据わっているアスランを微笑んで受け流しつつ、キラは思っていた。結構アスランって説教臭いんだよなぁ、と。


思い出すと、「ああ、聞き上手なんだなぁ」って。
不思議な位、ラクスさまって『ラクスさま』っていうイメージじゃなくて。
もっと身近な、それでいて遠い……なんだろう。
そう――『絵本に出てくるお姫様』かな。
すごく、ふわふわなイメージ。でもその中に、針金の様に支柱が込められている。
初対面でも、すぐにわかりました。
ああ、この人『好奇心旺盛』なんだなぁって。

 「ふんふん、それで?」
 「ええ? そんなことがあったのですか……」
 「あら、まあ……」

 ソラは、自分でも饒舌だと思える位喋っていた。ガルナハンで起きた事、見た事、聞いた事。自分がこんなに喋るタイプの人間だと思ったのは、ここ十年程で初めての経験だった。
 ソラの腕の中では話に飽きたのか、ナージャはすやすやと眠っている。それを微笑ましいと感じつつ、ソラはラクスに入れてもらった紅茶で喉を潤した。喉はかなり渇いていたらしく、紅茶の苦味がはっきりと感じられる。
 そんな様子を見たからだろうか、ラクスが切り出す。

 「それにしても、不思議ですわ」
 「何がでしょうか?」

 それまでとは違う声音だ。自然、ソラも聞く体勢になる。

 「普通に考えて、ガルナハンでの経験はどれも過酷なものであった筈です。なのに、ソラさんはまるで楽しい遠足が終わってしまったかの様。そこが不思議なのです」
 
 ラクスの言葉に、ソラは考える。
 考えても、考えても。ガルナハンでの出来事は過酷な事態だった筈だ。全ての事象が、命懸けの体験だった筈だ。なのに。

 (私は、ガルナハンを懐かしがっている?)

 それは、ソラ自身でも不思議な事だった。いや、今の今までラクスに言われるまで気付きもしなかった『不思議な事』なのだ。
 何故だろう、どうしてだろう。自分はついこの間まで平和なオーブで暮していた、平凡な女学生であった筈なのに。
 ソラ自身、不思議に思える。何故なんだろう、と。
 そんなソラの疑問に救いを差し伸べたのも、またラクスだった。

 「良い方々と、巡り合われたんですわね」

 微笑みながら、ラクス。ソラは何故か赤面した。

 「どうしてわかるんですか?」
 「わかった訳ではありませんわ。どちらかといえば当てずっぽう。でも、半分は確信していましたわ――今までのソラさんのお顔を拝見して。そして、今のそのお顔を拝見して」
 「ず、ずるいですよっ」

 ソラはますます赤面する。ラクスは顔中を綻ばせて笑った。

 「ごめんなさい。どうしても立場上、お顔を拝見する事に慣れてしまって。でも、ソラさんのお顔は素敵ですわ。何だか、そう――今の空を映しているよう。この蒼穹の空を……」

 言われてソラは、空を見上げた。言われて気付く、雲ひとつ無い蒼穹の空。見事なまでに青く澄み切った空を見上げながら、しかしソラは別の事を考え出していた。

 (シンさん、みんな。今頃どうしているんだろう……)

 遠く、ガルナハンにこの空は繋がっている。ソラは自然、その事に心を馳せていく。
 ラクスは何故か、そんなソラの顔を嬉しそうに――そして寂しそうに眺めていた。


ニューイヤーウォー。『新年戦争』と後世に呼ばれる地熱プラントを巡る攻防戦。
ローゼンクロイツやリヴァイブを初めとするレジスタンス連合、そして東ユーラシア政府軍。
更には統一地球圏連合地上主力軍までもが参戦したその戦争は、壮絶なものとなりました。
大地が震え、空が裂かれ、海が割られ……平和と対極の地獄絵図。
人のエゴがそれを造り出した。それは間違いありません。
人の思いが、人の願いが、人の望みが。全ての事象が人の思惟なのです。

各軍の中で、もっとも規模が小さいレジスタンス連合は常に窮地に追いやられていました。
しかし同時に、政府軍、連合軍の将兵達に一つの『伝説』が流布し始めます。
『緑の悪魔に近寄るな』――触れただけで死ぬという、伝説が。


 「与太話でしょ、ンなもん」
 《信じるかどうかは、お前の勝手さ。俺は忠告したぜ、じゃあな》
 「へいへい。補給兵はビビリが基本かい。せいぜいウサギの様におっかなびっくり動くこったな」
 《前線兵士さんよ、覚えておきな。戦場じゃ臆病で丁度いいのよ》

 片手を振って、マークは補給兵を送り出す。モビルスーツのハッチを閉じて、エネルギー残量や弾薬量を確認――ゲージがフルになっているのを見て、満足そうに部下に呟く。

 「やれやれ、補給の連中はビビリが多くて困るぜ。あんなんじゃ前線に出れないぜ?」
 《だから補給班担当なんですよ、連中は。適材適所、いい事じゃないですか》

 視界の端に、補給隊のトラックが動き出すのが見える。前線には出来るだけ居たくない、とでもいうかの様に彼等の姿は必死に見えた。

 「死ぬのがそんなに怖いかね。俺は、何もしないで死ぬ方が恐ろしいがねぇ」

 マークは呟く。貧乏商家の三男に生まれたマークは、裸一貫で家を飛び出た人間だ。何か大きなことをしてやろうと思い、『軍神』キラ=ヤマトに憧れ、モビルスーツ乗りで一旗上げようと発起した人間だ。今回の戦争は、東ユーラシア政府軍においても重要な位置付けをされている。彼にとっては大きなチャンスなのだ。

 《どうせ、家を継いだって貧乏暮らしでのんびり死ぬだけですよ。それなら一旗上げなきゃ、そうでしょ隊長?》
 「違いないさ。なあ、お前等!」
 《《異議なしッ!》》 

 マークの中隊は三個小隊からなる、中隊と呼ぶには後一個小隊足りない寄せ集め中隊だ。それでも、彼はその部隊を誇りに思っていた。裸一貫で頑張ってきた彼にとって、その中隊は財産そのものであり、帰る家でもあったからだ。
 過去は振り返らず前に進むのみ。それぞれにデコレーションされたルタンド達は彼等の意地と反骨の象徴かもしれない。彼等は進む、戦場へ向かって。
 そして日が沈み、夕闇の帳が下りる頃――それは唐突に現れた。

 《隊長、高速戦闘機3機接近中! 対空防衛!》
 「ロナウド、ルーニー前に出ろ、スプレッドを食らわせてやれ! 全機霍乱準備!」

 レドームを装備したルタンドを駆る部下から警告が飛ぶ。素早くマークは激を飛ばした。

 「へっ。たかが3機程度で、俺達をどうにか出来るかよ」

 マークは不適に笑う。それは歴戦を戦い抜いた兵士だからこその笑い。命の遣り取りに慣れた者の愉悦。平和な世界では生きられない者の微笑みだった。




 《シン、前方に敵部隊発見。全部で9機か》
 
 3機の戦闘機、その先頭を突っ切る小さな緑色の戦闘機。そこに座す男がぽつりと言う。

 「このまま前進させる訳にはいかないな、スレイプニールにぶつかる。大尉達に連絡してくれ、『先に突撃しておく』ってな」
 《一応言っておくが、過信はするなよ》
 「わかってるよ。ただ……」

 男――シンは左手の平をしげしげと眺める。そこにあった何かを探しているのか、それとも。
 次の瞬間、ぎゅっと左手を握り締めて言う。

 「……悪いが、八つ当たりをさせてもらうぞ」

 シンはコンソールを操作する。後方のチェストフライヤー、レッグフライヤーに信号を送る――合体せよ、と。




 《敵戦闘機、これは……合体! モビルスーツに変形しました!》
 「1機駆けだと? 舐められたもんだ」

 マークは呆れていた。どうやら眼前の敵は自殺願望者だったのか、と。まあそういう事もあるかも知れない、と気を取り直――そうとして。

 「ふん、そういう事か。早速『伝説』がやって来たかい!」

 雪景色や岩肌が多い地域で緑色に装飾されたモビルスーツなど、そうは居ない。馬鹿か、目立ちたがり屋か、それとも。
 ともあれ、やる事は――決まっている。

 「温情は抜きだ、フクロにしてやれ!」

 号令一過、緑色のモビルスーツに砲撃が開始される。ビームが、ミサイルが、バズーカが、スプレッドショットが。
 大地が爆ぜ、敵モビルスーツが激震する。だが――何かがおかしい。まるでこちらの攻撃が通じていない様な、全てが避けられ、或いは弾き落とされているかの様な。
 手応え。それが、感じられないのだ。まるで相手が幻影かの様に。
 それがシンというパイロットの圧倒的な技量によるものだと、彼等の誰が気付けるだろうか。それ殆どが緑色のモビルスーツ、イグダストの左腕に発生している光る球体『パルマフィオキーナ』に吸い込まれ、或いは弾かれている事に誰が気付けただろうか。
 ふわりと、光球が中空に投じられ――爆ぜる。

 《うわっ!》
 「白兵戦、来るぞ!」

 マークの全細胞が囁く、『逃げろ』と。だが、出来ない相談だ。咄嗟に叫んだ言葉に、マークの歴史が込められていた。


 《イグダスト『バーストモード』スタンバイ。カウント30にセット》
 「接触時にテイクオフ。トリガーは任せる」
 《わかった。好きに動け、フォローはしてやる》


 視界が遮断されたのは瞬間だった。だが、その瞬間で距離はあっという間に詰められていた。
 マークの経験が無ければ、そして信頼が無ければ、部下は抜刀していなかったろう。
 鼻先にイグダストが出現し、すぐに対応できたルタンド。それはそのまま、強さの証明だった。
 だが――相手が悪すぎた。

 《VR(ブイアール)》

 それは戦闘機が飛び上がる時の合言葉。スピードを上げていく時の掛け声。或いは、止めようの無いスピード領域へ行く際の覚悟の咆哮。
 イグダストが踏み出す。それに対し、ビームサーベルを振り被るルタンド。

 《V1(ブイワン)》

 Aiレイが静かにカウントしていく。その度に、イグダストの全身に力が駆け巡る。紅い光、デュートリオンの鼓動が響く。
 ビームサーベルが振り下ろされ――

 《V2(ブイツー)。バーストモード、テイクオフ》

 イグダストのツインアイがライトグリーンから、紅蓮に染まる。瞬間、イグダストが正に解き放たれた。まるで重力から、常識から、或いは世界の規範から。
 行き場の無い怒りが、機体そのものを動かしている――そう思えるほど。

 「おおおっ!」

 右の打ち上げ掌底――それがとんでもないスピードとパワーでルタンドを跳ね上げた。80トンはあろうかというルタンドを軽々と、イグダストの身長も軽く上回る位の高度まで『くの字』に弾き飛ばしていた。
 イグダストの関節が軋みを上げて咆哮する。機体限界を遥かに越えた膂力がデュートリオンフェイズシフトにより無理やり発生される。紅蓮の瞳が、怒りの炎を撒き散らしているかのようにも見えた。
 イグダストが弧を描く。右足を軸に回転、跳躍して――左のローリングソバットが更にルタンドを横方向に物凄い勢いで吹き飛ばした。
 マークは思わず「嘘だろ?」と呟いていた。
 自分に向かってルタンドが飛んでくる――スラスターで飛んでくるのではない。ただのキックで弾丸の様にモビルスーツが吹っ飛んでくる様など、どんな戦場でも見たことは無い。経験や知識、そういったものが彼をその瞬間硬直させた。

 「がっ!」

 凄まじい衝撃だった。今までの戦場で味わったことの無い類の恐怖。蹂躙という名の災厄。それを知らなかった自分は、『戦場を知った気になっていた』だけだったのか。

 《隊長!》
 《隊長ォー!》

 部下達が口々に悲鳴を上げる。逃げろと、マークは叫ぼうとした。だが、口から言葉が発せられない。したたかに打った背中への衝撃が、彼の意思を遮断してしまっていた。
 イグダストは止まらない。凄まじいパワーが爪先に込められ、大地を蹴る。抉るように地表が削られ、踏み込む。地を這う、野生の獣を思わせる跳躍だった。
 右手の対艦刀『スワッシュバックラー』が放り上げられ、右手にすっぽりと握られる。視線の先に、ルタンドが4機。怯えた目をした、獲物の相だった。

 《ヒィィッ! 来るな、来るなァァァー!》

 滅茶苦茶なビームの乱射、激昂した突撃、意味の無いバックステップ――それらの行動が、イグダストの発生させた爆風に掻き消された。
 2回、イグダストが対艦刀を振るう。それで充分だった。ペーパーナイフが容易く紙を切り裂く様に。よく磨がれた包丁がするりと野菜を切り落とす様に。
 装甲やシールドが、正に紙屑と化した。ルタンドの右手や頭部、或いは肩や足が切断される。何者も遮る事の出来ない斬撃、なんと恐ろしい事か。
 敵機が爆発するよりも早く、イグダストは動く。軽やかに、力強さを内に秘め。スラスターすら使わないただのステップが、圧倒的なスピードを示していた。
 残るルタンドは3機――イグダストの強さに恐れを感じたのか一歩、また一歩と後退る。それを責める事は、おそらく誰も出来ないだろう。

 《残カウント10》

 Aiレイの冷静な声。シンは頷いた。イグダストの左腕が肩口のビームブーメラン『アーケインエッジ』を掴み、投げる。
 残るルタンド達は襲来するブーメランをよく見て回避しようとする。つくづく、それは訓練された兵士の性。それがいけなかった。
 ブーメランが閃光弾の様に瞬間的に輝く。そこまで考えられた兵士は、1人だけだった。

 《ウワッ!?》

 1機はそのまま、ビームブーメランを頭部に食らった。
 もう1機は、眩んだ視界が回復する前にイグダストが無造作に投じた対艦刀に貫かれる。
 そして、最後のルタンドは。

 「悪いが、逃がす気分じゃない」

 逃げようと――しかし、時既に遅し。
 最後に思ったのは、なんだったろう。割合真面目に生きた様な、そうでなかった様な。そんなつまらない、しかし大事な事を考えたのかもしれない。
 スレイヤーウィップが伸びる。やはり滅茶苦茶なパワーで引き寄せられ、そして。

 「変わらないのなら――俺が、世界を変えてやる!」

 握られていた左掌が開かれ、再び光が集う。防衛用ではない、攻撃の為に。
 パルマフィオキーナ。掌部ビーム砲という種類の、特殊兵装。エネルギーパワーがそのまま威力となるこの武装は、イグダストの強大なエネルギー効率によって戦艦すら穿つ武装と化す。モビルスーツがそんなものを食らったら、一体どうなるのか。
 光球に秘められた螺旋状エネルギー。それが最大限発揮され、空中でルタンドは引き裂かれた。光球内で渦巻くエネルギーの余波で、ルタンドはバラバラにされつつ、更に回転させられる羽目になった。
 バラバラになったルタンドが爆散し、残骸となって大地に突き刺さった時。

 《タッチダウン。バーストモード、カウントオーバー》

 紅蓮の瞳が、ライトグリーンに戻る。全身から放熱し、ようやくイグダストは『地に足を付ける様に着地』していた。


 

 「失礼します。メイリン=ホーク、入室します」
 「許可する。入りたまえ、メイリン情報部課長」

 相変らずの抑揚の無い言葉だ。とはいえそれは今のメイリンには今はありがたい事だった。
 事務的にでも自分を押さえ込みたかった。もっとも、対峙する人物はその様な事例など関係なく抑揚は無いのだが。
 治安警察長官、ゲルハルト=ライヒはデスクに座ったままメイリンを招き入れる。その側には治安警察省治安警察隊隊長ハインツ=ドーベルが控えていた。
 弾劾裁判には打って付けのメンツね、とメイリンは心の中で呟く。

 (国家反逆罪――良くて拘留、悪ければ銃殺。もうアスランには会えないもの。あの人をもう、悲しませたくない……)

 ガルナハン、アリーの街でメイリンは壮絶な事をしでかした。生き残る為とはいえ、テロリストに最新兵器を与えてしまっている。たった1機のモビルスーツだが、軍の最高機密といえる最新鋭の機体。それの情報漏洩――即時射殺クラスの大罪だ。
 メイリンは直立不動でライヒの言を待つ。

 「気分転換かね?」
 「……お答えしかねますが、その様に取っていただければ幸いです」

 こつこつと人差し指でデスクを叩きながら、ライヒ。今のメイリンには大きな変化があった。背中まで伸びていた長い髪が、首筋で切り添えられている。まるで、彼女の姉がそうしていた様に。
 メイリンはそうしようと思って切った訳ではない。思いを断ち切る為に切った――それなのに。

 (ああ、私はやっぱり……姉さんみたいになりたかったのかな)

 鏡に写る自分の姿。それを見て、得心する事もある。自分が相当なシスターコンプレックスを持っていたのだと。そんな矮小な自分を改めて確認しながら、メイリンは不思議と落ち着いていた。

 (馬鹿みたい。本当、馬鹿だったんだ……私は)

 姉の姿をして、落ち着く。どれだけ自分にとって姉は特別だったのか。そして、越えたい目標であり続けたのか。
 夢見た事。
 走り続けた自分。
 そして、どうにもならない現実。
 アスランと別れた事、それはとても悲しい。だが、それらの事柄は更にメイリンに衝撃を与えていた。

 (結局私は、どこでどうしたら良かったのか。最初から間違えていた……)

 アスランを好きだったのは本当。愛していたのも本当。
 けど『私』が本当に求めていたものはなんだったの?
 アスランからの愛? アスランへの愛? ううん、それだけじゃない。それだけじゃなかった。
 父さんや母さん、姉さん。みんな……みんな、大好きだった。
 今更後悔しても戻れない、軍属以前の本当に好きだった日々。その場所にアスランも居て欲しかった。
 だから、だろう。自分が今、眼前で拳銃を向けられたとしても。

 「……肝が据わっているな」
 「どうでもいい、と思い始めただけです」
 「ふむ」

 ドーベルが手の中で拳銃を弄び、ホルスターに納めようとして――
 バァン!
 手錬の早撃ちだった。銃撃が頬を霞め、壁に穿たれる。だが、メイリンは静かに彼等を見据えたままだ。

 「余計な手続きは結構です。ご自由になさって下さい」

 頬にうっすらと一筋の血が滲む。しかしメイリンに気にする風はない。ドーベルは感嘆して、今度こそ拳銃をホルスターに納めた。

 「いいですなぁ。この女、腹に据えたものがありますよ」
 「決まり、か」

 男達が目配せをする。ライヒはメイリンに向き直ると、言った。

 「メイリン=ホーク情報部部長。現時刻を持ってヨーロッパ支部転属を命ずる。辞令は追って沙汰する、準備でき次第現地に飛んでくれたまえ」
 「……はい?」

 メイリンは何度か瞬きをして――ようやく事態を理解すると、叫んでいた。

 「ちょ、ちょっと待ってください! 私は情報漏洩の嫌疑で査問されるのが筋です! それに部長って……出世じゃないですか! 承服しかねます!」
 「ああ、イグダストの事を言っているのならそれは問わん。何故ならアレの存在は、私の意思によるところもある。君を断罪するのなら、私も連座となる。そこまでする気はない」

 しれっとライヒ。メイリンは口をぱくぱくとして。

 「いくらなんでも、無罪放免って事は無いでしょう! 軍規はどうするんですか!?」
 「真面目だね、君は。あの四人の知り合いとも思えん」
 「そういう話じゃなくて、ですね!」

 メイリンはなおも食い下がる。しかし、ライヒはにやりと笑いを浮かべて言った。

 「いいではないか。死ぬ気だったんだろう? なら、私の為に働いてもらいたい。『カテゴリーS』シン=アスカの事を調べるために、君の存在はどうやら必要不可欠な様だからな。ヨーロッパ支部は彼の居る場所からは最短の場所。情勢を伺うにはいい距離だ。君にとっても悪い話ではあるまい? もちろん、相応の報酬は支払おう。昇進もその一つだ。地位がある方が面倒くさい手続きをすっ飛ばして動けることも多いだろう? 『合法的』にな」
 「……はい」

 何故だろう。『シン』の名前が出た途端、心が沸き上がる。
 不思議な縁が、あるのだろうか。諦めたはずの道が、まだ続いていくのだろうか。
 彼はまだ、生きているのだろうか――いや、生きているはずだ。あのイグダストと共に在る限り。
 
 「とはいえ、メイリン君。君に確認しておきたい事がある。いやなに、大したことではない。新型ミネルバ級『レコンキスタ』の件なのだが。実はあの後、レコンキスタが容易くテロリストグループに占拠されてね。いや、どうもレーダーや防衛機構がまともに動かなかったらしい。心当たりがあるかね?」
 「……すいません。プログラムのハッキング解除しておくのを忘れてました」

 ドーベルはポツリと呟いた。「始末書で誤魔化せるかな」と。


一度別れた道は、そうそう交わる事は無い。
運命によっての別れは、再び交わるまでに相応の犠牲を伴う。
その事を私は、この事件によって思い知ることになります。
ヨーロッパの惨劇。私の冒険が再び始まります。


 「すっかり暗くなってしまいましたね」
 「そうですね。何時の間に……」
 「楽しい時とは、過ぎるのが早いですわね」
 
 ラクスが楽しそうに言う。ソラもくす、と笑うことが出来た。

 「ソラさん、ところで今夜はどうなさいますの? よろしければお泊りになられてはいかが?」
 「いいんですか?」
 「もちろんですわ。お部屋なら使い切れない程ありますのよ、すぐに用意をさせますわ。そうそう、それならお食事の仕度もさせないと……」

 女主人らしく、ラクスが矢継ぎ早に使用人に指示を出す。そんなラクスに、ソラが願い出た。

 「あ、あのラクスさま。お願いがあるのですが」
 「なんでしょう? 必要なものなら何なりとおっしゃってくださいね」
 「あ、いえそうじゃなくて。家に電話したいなぁって……」

 ラクスがぽん、と掌を打つ。
 
 「ああ。そういえばそうでしたわね。私が許可しないと情報部が納得しないとか。全く、面倒な手続きですこと……少々お待ちになって下さいね」

 ラクスがいくつかコンソールを動かすと、空間にモニタが浮かぶ。余りの財力の違いにソラは唖然としながらも、間もなくモニタに写るはずのシノとハナの笑顔を想像する。

 (シーちゃん、ハーちゃん、驚くかな? まさか私がラクスさまの館から電話をしてくるなんて思っていないだろうし)

 くすくすと、笑みが込み上げてくる。そんなソラの様子を見ながら、ラクスが「ごゆっくりなさってくださいね」と言い、背を向けて歩き出した時。
 ――悲鳴が聞こえてきた。

 「ど、どういうことなの!?」
 《わからへんわ! ソラが居なくなった後、今度はシノが居なくなったんや!》


モニタに映る親友の顔は、憔悴し切っていました。
ラクスさまが戻ってきたのが、すぐにわかりました。
……私の顔色は多分、真っ青だったのでしょう。
『一度別れた道』。再び会う時、それが幸福であるとは限らない。
その事を私は、これから向かうヨーロッパの地で思い知るのでした……。



『MOBILE SUIT GUNDAM SEED Revival』

~第二章 人を超えし者達~
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