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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第二部「人を超えし者達」

2-2

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後日、ラクスさまと話した事があります。
「ああ、私って運が無いんだな」って。


「ど、どういうことなの!?」
《わからへんわ! ソラが居なくなった後、今度はシノが居なくなったんや!》




ラクスさまはこう仰いました。
「あら、ソラさん。それは少し誤解されていらっしゃいます。
確かに貴方の遭遇された事態は大変なものでした。
でも、私はこう思うのですわ」


「どうされたのですか!?」

ラクスが慌てて戻ってくる。ソラはどうしていいかわからず、ラクスに縋りついた。
そんなソラをラクスは優しく抱きしめる。

「ラクスさま、ラクスさま!」
「お可哀相に。次から次へと……」




『貴女の人生は決して平穏ではありませんでした。
けれど、その度に貴女には常に”光”が示されていました。
――そう、不思議な位。
それは非常に幸運な事なのではないでしょうか』


ラクスはさすがに困惑していた。
泣き出すソラとハナにかける言葉を探しつつ、どうやって事態を収拾しようかと考えていた矢先に。

「なんだ、騒がしいな。どうしたんだい?」
「……ラクス。できればもう少し静かにしてくれないかな」

別室で語らっていたはずのアスランとキラが、ソラの泣き声に引き寄せられて入室してくる。
キラの方は完全に酔っているらしく、アスランに支えられてようやく歩いている有様だ。

「キラ、それにアスランも」

ラクスはソラを宥めつつソファに座らせる。キラとアスランも大きめのソファに座らせ、モニタの女性に向き直る。

「ええと、ハナさん、で宜しいですか?」
《え、はい。ハナ=ミシマいいます》
「今から使いを出しますので、貴女もこちらにいらして下さい。それから……」

ラクスは矢継ぎ早に指示を出そうとして――ここで頭を抱えた。

もう一人の来客が、ドアを開けて部屋に入ってきたのだ。
先触れもなく歌姫の館にやって来る事が出来て、そしてまた誰にも止められずここまで歩んでこれる。そして現在の問題とは別の問題を抱えた人物が。

「わ、悪いな。何となく顔を出そうと思って……忙しかったか?」

カガリ=ユラ=アスハ。オーブ連合首長国の最高権力者である女性が、お土産の果物を片手に持って、きょとんとした顔でそこに立っていた。




「この四人が一堂に会する――そうは無い事ですのよ」
そう、ラクスさまはくすくす笑いながら仰ってました。


コーカサス州ガルナハンの空を、かつてレコンキスタと呼ばれていたミネルバ級戦艦が進む。今の名前は『スレイプニールⅡ』――レジスタンス組織リヴァイブが所有する艦艇となっていた。

「いやはや、今度ばかりは神様に祈りたい気分だね」

スレイプニールⅡのマストブリッジに据え付けられた艦長席にご満悦に座りながら、ロマ=ギリアム。その呟きにラドルが返す。

「まさか最新鋭の戦艦が、多少の損害が有るとはいえ実戦配備レベルで奪取出来るなど。更に最新鋭モビルスーツまで……幸運という言葉では表せない僥倖でしょうな」

実際、リヴァイブは幸運だった。大尉達が戦闘中のシンを援護するために慌ててアリーの街へ向かったら、目の前に『動けず、抵抗も出来ない戦艦』が有ったのだから。随伴モビルスーツと思われる機体もイグダストの活躍により残骸と化していた。大尉達三機は冗談抜きに容易く戦艦を占拠したのである。少尉に言わせれば「落そうと思った美女が全裸で俺を待っていた」状態だろうか。
更に、シンが持ち帰ったイグダスト――最新鋭中の最新鋭モビルスーツ。こんな幸運は、おそらく一生に二度とないだろう。

「この天佑は、無駄にする訳にはいかない」

ロマは決然と言う。彼はこの二つの幸運を最大限に生かすべく、計画を立案していた。
成功すれば東ユーラシア共和国政府にも、統一地球圏連合にも、ましてやレジスタンス連合にも――全ての陣営にリヴァイブという存在を知らしめ、一大勢力として世界中にその名を馳せるだろう。

リヴァイブの総力を挙げてコーカサス州ガルナハンを守る――失敗は許されない。

戦略の遂行のためにロマが立案したそれは誰も予想をしなかった奇想天外な作戦であった。
決行前、ブリーフィングでその作戦内容を聞いたリヴァイブのメンバーは誰も反対せず――というより、呆気に取られていた。

「可能かどうかって聞かれりゃ、やるしか無ぇ。しかしまあ……何だ。いい作戦だと思うが、作戦名だけはなんとか何ねぇのか?」
「……いい名前だと思うんだけどなぁ。『オペレーション-セーフティ=ファースト(安全第一作戦)』って」
スレイプニールⅡは飛翔する。一路、オペレーション-セーフティ=ファースト のスタート地点である西ユーラシア国境付近へ。




ゴランボイ地熱プラント。
今や東ユーラシア共和国政府に留まらず、西ユーラシア、ひいては統一地球圏連合の
大規模エネルギー供給源となったこの施設は、当時の人々にとっての生命線でした。
その為、東ユーラシア共和国政府はゴランボイ地熱プラント関連施設全てを非戦闘区域として周知し、
厳重に管理をしていました。
レジスタンス組織に対しても『防衛施設サムクァイエット基地を占拠出来るのならば一切の権限を放棄する』と
明文化するに至りました。
どんな理由、情勢であれ、ゴランボイ地熱プラントを失うことは出来ない――それは当時の人々にとって
共通の認識であり、良心だったのかもしれません。
ゴランボイ地熱プラント施設及び各地にエネルギーを供給するための長大なパイプラインの建設事業には、
あらゆる国家・団体が協力し、
当時最高の防衛壁であったラミネート装甲による要塞、
パイプラインを保全するための長大な坑道が完成する事となりました。
それらの防衛設備により、ゴランボイ地熱プラントはブレイク=ザ=ワールドの難を逃れたと言えるでしょう。

リヴァイブのリーダー、ロマ=ギリアムの提案した作戦。
それは、この全長数百キロにも及ぶラミネートの坑道を利用するものでした……。



「工事依頼? この季節にか?」

リヴァイブが動き出す数日前。
ゴランボイ地熱プラント公社、事務取締役ヨハン=ベールは首を傾げた。
ゴランボイ地熱プラントは東ユーラシア共和国政府が占有する大規模施設だ。しかし公式には『ゴランボイ地熱プラント公社』という社団法人が政府系企業として設立されており、その企業が運用・運営するという形式を採用している。国営のままでは利権が大き過ぎ、またエネルギーを輸出しているという観点からも国営企業では動き辛いというのがその理由だ。
さて民間企業という立場上普通に窓口が存在し、対外対応もする事になっている。通常その窓口は国家が管理しているので、一市民に開かれる事は無い。だが、一点だけ例外が存在する。

「西ユーラシア国境付近のラミネート坑道に破損箇所が発見された模様です。今後の事もあるので、修理をしておきたいとの事です」

事務官に渡された仕様書をヨハンは流し読みする。それにはこう書いてあった。

『工事仕様書。
西ユーラシア国境付近において、ラミネート坑道に最大二十メートルの劣化箇所が発見された。冬ではあるが、エネルギー供給に関する問題は少しでも取り除いておきたいため、今回の工事を願い出る。
工事内容は
1.劣化箇所の問題を解決するため、重機(作業用モビルスーツ)一機を使う。
2.その後エネルギーラインの確認を行い、今後の安全確認を行なった後、破損箇所を施工する。
――株式会社リヴァイブ取締役、ロマ=ギリアム』

「……仕様書はもう少し具体的に書け、と伝えておけ。とはいえ今年は厳寒、西ユーラシア側が少しでも安全を取りたい気持ちも判らんでもない。よろしい、許可しよう」
「はっ。了解しました」

この時、ヨハンは知る由も無い。たった1機のモビルスーツがとんでもない性能を誇り、この地域のパワーバランスをひっくり返すべく動き始めていた事を。
そして、リヴァイブのリーダー、ロマ=ギリアムの捻じ曲がった思考回路を。
この決定を機にヨハンの人生はあっという間に転落していくのだが、それはまた別の話である。




《VR(ブイアール)》

Aiレイが静かに告げる。シンはもう一度深呼吸をして、ロマから聞いたミッションプランを思い出していた。

(如何にラミネートの坑道が強大だろうと、どこかに綻びはあるものさ。それは東ユーラシア政府の監視が届き辛い場所――即ち、国境線付近。実は僕は、ラミネートの綻びを既に見付けているんだ。それは僕がこの地方にやってきたその日の事。巨大なコロニーの外壁がラミネートの坑道に突き刺さっているのを僕は見ながら、この地域にやってきたんだよ。当時の『コーカサスの夜明け』もこの問題には熱心で、何箇所かは僕名義で修繕依頼を提出しているんだ。その時もこの場所の修繕計画自体はあったんだけれど、コロニーの残骸は結構な大きさで並みの重機では手も足も出せなかったんだ。大型の重機を持ち出すプランもあったようだけど、予算的な問題でそれも頓挫。最終的には特殊な粘着剤でコロニー残骸とラミネート装甲を接着し、それ以上の崩壊を防ぐ形で事態を収拾した――それが、僕の見つけた『綻び』さ)

「相変らずうちのリーダー、何でもやってるよな。その内クリーニング屋の過去とか出てくるんじゃないか?」
《ピザ屋なら有るかも知れんな。V1(ブイワン)。心の準備はいいな、シン》

イグダストの計器類をもう一度ざっと見渡し、シンは確信する――いける。
果たしてそれがイグダストに出来るのか、シンには解らない。だが、イグダストは間違いなくベストな状態だ。
これで無理なら、無理なんだ――そう確信していたのだ。

《V2(ブイツー)。バーストモード、テイクオフ》
「やれって言うなら、やってやるさ!」

コロニーの残骸は巨大だ。だが場所によっては削れて細く、小さくなっている箇所も有る。イグダストはそこを抱えるように掴み、力任せに――持ち上げ始める!

《パワーウェイトレシオ、更にアップ。シン、気合を入れろ》
「俺が力んで何とかなるのかよ!」

シンが毒付く。が、操縦桿が引き戻されそうになり、慌てて力を込めて引き絞る。エネルギーゲージが凶悪な勢いで減少していくのを見て、シンは叫んでいた。

「やれば出来る子だろう、お前は! ルナは射撃は下手だったが、料理は上手かったんだぞ!」
《それは初耳だ。そしてそれがこの状況の打開になるのか、判断の付かない所だな》
「だから冷静に分析するな!」

改めて述べるまでもないが、イグダストのパワーゲインは当代屈指である。それは同クラスのモビルスーツをも越え、専用に作られた巨大な重機レベルに匹敵する。そのイグダストのパワーに何時までも持ちこたえられるか――たとえコロニーの外壁だとしても。
ミシミシと軋みを上げて、それが動き出す。巨大な構造物と化していたコロニー外壁とラミネート壁が引き剥がされ始め――そして。

「見たか、レイ! 無茶して引っ張れば、コロニーだって抜けるんだよ!」

ズシン、とちょっとした地震が起こった。そしてラミネート壁に守られたパイプラインが視界に飛び込んでくる。
その先にはゴランボイ地熱プラントが、エネルギー送電施設の中継点が有るはずだ。シンが、スレイプニールⅡの面々が喝采していた時、Aiレイはぽつりと呟いていた。

《イグダストを操縦する上で、国語の勉強だけは必須かも知れんな》




真紅の光条がスレイプニールⅡからイグダストに射出される。デュートリオン送電システムの光――イグダストのエネルギーリチャージシステムだ。

《イグダストのエネルギー、リチャージ完了。予備バッテリーにも充電完了だ。存分に暴れられるぞ、シン》

Aiレイが珍しく楽しそうに言う。シンも沸き立つものがある――それはそうだろう。これから世界を動かしにいくのだから。
そんなシンとレイに、サイが冷水を浴びせる。

《あまり無理はするなよ、シン。イグダストの内装武装には厳重な封印を施してある。武器は全て無い状態の徒手空拳状態。パンチやらキックやらで何とかしなきゃならなくなるはずだ――降伏しても、俺は絶対に責めない。死ぬんじゃないぞ、シン》

メインメカニックの言い様では無い。だが、それがサイ=アーガイルという人間だった。

「善処するよ。じゃあ行ってくる」

シンはイグダストを跳躍させると、ラミネート坑道の中に入っていく。イグダストのライトに照らし出された坑道内は広く、モビルスーツが悠々と歩ける様な道路も備え付けられていた。長く伸びているパイプラインを見渡せば、直ぐ壁に行き当たる。一定距離ごとに壁を設けて、坑道内の強化をしているのだ。
等間隔に非常灯も付いている。明かりの心配は無さそうだ。

《シン。こちらの動きはチェックされている筈だ。派手に行け》
「オーケー。イグダスト、バーストモードスタンバイ!」

真紅の輝きが坑道内に閃いた。




最初に気が付いたのは、ゴランボイ地熱プラント公社のオペレーターだった。

「西ユーラシア方面の坑道で異常発生。え……た、大変です! 西ユーラシア坑道内の区画壁が次々に破壊されています!」
「第284区画から第255、いえ250区画まで異常発生! 坑道内を何かが突破している模様!」

浮き足立つオペレーター達。そんなオペレーター達に初老の管理部長は場を静めるべく檄を飛ばす。

「慌てるな! まずは映像を出せ! そんなスピードで坑道内を移動できるものが有るものか! 区画壁とはいえ、分厚い鋼鉄の壁なのだぞ! 例え重機だとしてもそう簡単には……」

映し出された坑道の様子――誰もが面食らった。
初老の管理部長が言葉に詰まる位。オペレーター達が全員絶句する位。
イグダストは易々と、区画壁が発泡スチロール製だとしか思えない位。
パンチやキックといった攻撃動作すら使わず、ただのダッシュで壁を破壊しつつ進んでいく。
勢いは全く止まらず、壁が壁としての役目を果たす事すら叶わず。更にスピードを上げて、イグダストは走り続ける。

「……上層部に報告だ」

暫く絶句して、初老の管理部長が搾り出せた言葉はそれだけだった。




その事態はすぐさま東ユーラシア政府上層部に届けられた。とはいえ。

「……何かの冗談だと思いたいが、そうではない様ですな」

軍部の重鎮、ダニエル=ハスキル少将の苦々しい言い様が、その場に収拾された幹部連中の思いを代弁する。
なるほど、イグダストの存在を知らない者から見ればこの事態は『非常識』極まりない。しかしハスキルは苦々しい思いを噛み殺しながら考える。軍人たる者が、まして軍の重責を担う者が事態を投げ出す訳にはいかない。

「奴がこのまま坑道内部を突き進んだとして、想定される事態を考えなければなりませんな。さしあたってこのままの速度で進撃した場合、二時間後に西ユーラシアパイプラインの中継基地グリスベルに到達されますな」

淡々と、ハスキル。その言葉に禿頭のゴル=ダルクス中将が反応する。

「グリスベル!? まずいぞ、あそこには西ユーラシアへのエネルギーライン調整弁がある。そんな所にテロリストが到達した日には、この国はどうなるんだ!?」
「吹っ飛びますな。評判的にも、国家的にも」

エネルギーラインの調整は無論、ゴランボイ地熱プラントに設営された公社が一括で管理できる。しかしシステム上、有事の際に何箇所か有る中継基地で任意にエネルギーラインの閉鎖、解放が可能となっているのだ。これは余りにも長大なエネルギーラインを構築した結果、ライン上で何らかの事故が発生した際に即座に対応するための苦肉の策なのである。もちろん何らかの操作が行なわれたとしてもゴランボイにあるホストコンピュータでの変更操作は可能なのだが、その僅かなタイムロスであっても大損害に発展してしまうのが現在の東ユーラシア政府における台所事情なのである。
もしも西ユーラシアへのエネルギー送付に遅滞、もしくは停滞があった場合――相当に不味い。
他の士官からも意見が飛ぶ。

「エネルギーラインそのものを止めてはどうだろうか? 緊急時という事ならば……」
「そうなれば、国際社会における我々の立場が危うくなります。どんな情勢であれ、『緊急事態を捌けないのが我が国である』と声高に発表したいのですか?」

ハスキルの言は辛辣だが、正鵠だ。西ユーラシアの国々が依存している以上、エネルギーラインを止める事は出来ない。しかし、調整弁を弄くられた場合も事態は一緒だ。
ならば、やる事は一つだ。そうハスキルが決断した時、一報が入った。それは、リヴァイブと名乗るテロリストグループからのビデオメール――犯行声明だった。

《親愛なる東ユーラシア政府の皆様へ。
我々リヴァイブは騒乱を求めてはいません。我々が目指すのは、ガルナハンの大地の安息のみです。
我々は地熱プラント中継点グリスベルに致命的な障害を発見しました。ガルナハンへのエネルギーラインが何箇所か断線している様で、その為に該当箇所へのエネルギー送付が行なわれなくなっております。
東ユーラシア政府が国家として修復に直ぐに動けないのであれば、我々が変わって代行したいと考えます。
修復には我々所有モビルスーツ、イグダストが担当いたします。非武装の工作用モビルスーツですので、何らの問題もないと考えております。
厳しい冬を乗り越えるため、ガルナハンの人民のため。多大なる温情をお願い致します。
――リヴァイブ、ロマ=ギリアム》

「な・に・が『非武装』の『工作用』モビルスーツだ! 世界のどこを探してもアレより物騒なモビルスーツなぞあるものか!」

ダルクス中将が机を叩き、禿頭を真っ赤にして怒鳴り散らす。

「なるほど、『工作用』で押し切るか。ならばゴランボイ協約における『紛争、戦争行為の禁止』には当てはまらない、という訳ですな。なかなか良く出来た筋書きですな」
「貴様、どっちの味方だ!」

対照的に淡々とハスキル。顎鬚を掻きながら、ハスキルは言う。

「とはいえ、このままにしておく訳にはいきませんな。相手が『非武装モビルスーツなら無害』というのであれば、こちらも『非武装』で行けばいい。まずは数で押してみましょう。その後は……」

ハスキルは溜め息を付いた。あの男に頼らなければならないのか、と思いながら。




《シン、予備バッテリー終了。パージするぞ》
「了解。任せるよ」
《ここから先はイグダストのバッテリーのみだ。抜かるなよ、シン》
「わかってる」

背部に背負ったイグダストと対して変わらない大きさの、超大型のバッテリーパックが外される。通常のモビルスーツなら一月は持ちそうな大電力を、二時間で食い潰せるイグダストの大食漢ぶりに、呆れた様にシン。


「まあ大食漢だね、コイツは」
《その分、働いてもらわないとな…ん?熱源反応?シン、モビルスーツ群が向かって来るぞ》

Aiレイが注意を促す。レーダーに目をやると、モビルスーツが多数確認出来た。
目的の中継基地グリスベルまで、後僅か。東ユーラシア政府も形振り構わなくなって来たという所か。

「人海戦術かよ。一機相手にご苦労なこった」
《ふむ、どうやら非武装の様だ。こちらに倣ったか、はたまたエネルギーラインに損害を出せないのか。ともあれ、突破するぞ》
「ハイハイ。やってやるさ、畜生!」

ぱっと見て敵モビルスーツは30機位だろうか。全部捌くにはそれなりに時間が掛かる。が、時間をくれてやる余裕はない。ならば――

「イグダスト、バーストモードスタンバイ!」

再び、真紅の輝きが坑道内に閃いた。




一方、スレイプニールⅡ。
作戦行動はシンのイグダストのみだが、こちらがのんびりしている訳ではない。むしろ、緊迫しているのは自分達の方である。

「敵戦闘機、モビルスーツ更に増えました!」
「くっそー、こっちは攻撃できないからって好き放題撃ってくるぞ!」

オペレーターが悲鳴を上げる。ラドルは一喝した。

「怯むな! 山の稜線を盾にして避けるぞ。大尉達も迎撃は出来なくても、敵を引き付けてくれているのだぞ!」

そう、今のスレイプニールⅡは迎撃できない。シンが坑道内から出てくるまでは『民間企業』としての看板を外す訳にはいかない。こちらが攻撃行動を取る事で東ユーラシア政府軍がシンへの引き金を引かせやすくなってしまう――如何にイグダストとはいえ、ビームの集中砲火は捌き続けられる類の物ではないのだ。まして武装の無い状態で、である。
シンを守る為に攻撃は出来ない――それがスレイプニールⅡの置かれた現状なのである。

「コニールから連絡は!?」

ロマとて焦っていた。スレイプニールⅡが新鋭戦艦としても、こうも攻撃を食らい続ければ持ちこたえられる物ではない。

「まだです! いえ、あ……」

その時、ブリッジに影が差した。モビルスーツの機影が、ブリッジに降り注いできたのだ。3機のルタンドが降下してくる――スレイプニールⅡの上を取られていた。

「艦、急速旋回! 艦体で弾け!」

狭苦しい渓谷で、スレイプニールⅡが旋回する。ブリッジを目指して飛んできていたルタンドの1機が艦体に弾かれ、
失速する。が――残りの2機が突破してくる!

「クッ……これまでか!」

ラドルが唸る。ルタンドのセンサーアイが閃き、ビームライフルが構えられ――次の瞬間。
閃光と爆発。それが、ルタンドの方に発生していた。
遠距離からのビームライフルによる狙撃。それが、ルタンド2機を次々と撃ち落していたのだ。

《こちら、ホウセンカ。この地域は我々ホウセンカが占拠している。東ユーラシアの犬はさっさと立ち去れ!》

フォーススプレンダーに乗る紫に塗装されたシグナスが大音声を上げる。全方位通話――外部マイクもフルに使った、最も騒々しい通信方法だ。

「間に合ったか。感謝するよ、コニール」

傾いたマストブリッジに何とかしがみ付きながら、ロマ。そう、ロマはコニールにホウセンカ隊の捜索を命じていたのだ。そして、リヴァイブから独立して動いてくれ、とも。
リヴァイブと関係の無い組織ならば、戦闘をしても問題無い。インチキの様な理論だが、道理は通る。

《たった1機で、偉そうに!》

政府軍のルタンド隊が吼える。3機を失ったとはいえ、まだ10機は居るのだ。フォーススプレンダーとシグナスのみに、遅れを取る戦力ではない。

《何とか出来そう? シホ》

コニールがモニタ越しに聞いてくる。紫のシグナスを駆るパイロット、シホ=ハーネンフースはくす、と笑って言う。

「ホウセンカって花、知ってます? コニールさん」
《……美しい花って聞いているけど見たことは無いのよね》

紫のシグナスが跳躍した。中空に飛び出たシグナスが、敵モビルスーツ群と正対する。ルタンド群は一斉にシホのシグナスに襲い掛かってきた。
しかし――シホは再びくす、と笑っていた。

「ホウセンカはね、爆発するんです。我慢できなくて」

紫のシグナスには、大量のミサイルが据え付けられていた。ヘッジホッグウィザード――強襲用に多数のミサイルを装備する武装だ。
それら多数のミサイルが白煙を上げて、一斉に射出される!

《何!? 散れ!》

一斉にルタンド達は回避行動に移る。しかし、それはシホの予想通りの行動だった。ミサイルは囮。そこから発生する白煙こそが狙いだったのだ。
あっという間に渓谷中が白煙に包まれる。

《スモークディスチャージャーにしちゃ、大規模ね》
「一応、対艦用ですから。さてと、捌いて来ますね」
《一人で大丈夫なの?》

コニールの再度の問いにシホはもう一度、今度は照れくさそうに微笑んだ。

「これでも私、ザフトレッドだったんですよ」




《鎧袖一触、とはこの事だな》

戦闘ですらなかった。バーストモードを開放したイグダストは、再びひたすら突っ走っただけだった。しかし、それを止め得る者は一人として居なかった。シンはこう思っていた――装甲板すらぶち抜くイグダストのダッシュを普通の機体で止めるのは、走っているトラックを生身の人間が素手で止めようとする様なものだと。

《止ま……ってぶわっ!》

そして、それはその通りだった。ルタンドが宙に跳ね飛ばされ、蹴った脚部が圧し折られ、殴った拳が押し潰され、ルタンド達の戦意はあっという間に霧散していた。

《無理だーっ! こんなの、喧嘩にならねぇ! 赤子がヒグマに挑む様なもんだ!》
《『緑の悪魔』――なんて化け物だ!?》

イグダストは走る。装甲壁をぶち抜き、モビルスーツを跳ね飛ばし、ひたすらに走る。
レーダーに表示されているマップを見れば、目的地まであと数キロ――モビルスーツの速度なら、ましてイグダストの速度ならほんの数分で走破出来る距離である。

《エネルギー残量に問題は無い。敵影も無し、振り切ったようだ。バーストモード、タッチダウン》
「了解」

紅い閃光が消え、スピードが落ちる。しかし、この先の壁をぶち抜けば目的のグリスベルだ。そこまでは力を蓄えるべきだと、シンも自然に思っていた。




一度は天空の高みと奈落の底に分かれた兄弟機。
異なる運命を辿った2機が再び巡り合ったとき、ぶつかり合うのもまた運命なのかもしれません。

己の証明――それは導かれる様に。


不意に、イグダストが――シンが歩みを止めた。

《シン、どうした?》

不審に思ったAiレイが問いかける。が、シンは答えなかった。シンにもよく判らないのだ――だが。

「なんだ、この……ザラッとした感覚は」

うなじがちりちりと、焦げる様に感じる。殺気――そういう感触でいいのか。いや、違う。
殺すとか、殺さないとか、そういう感触じゃない。まるで鼠が猫に見つかった時の様な、どうしようもない天敵の感覚。シンのではない、イグダストの感覚。そういうものをシンはまるで我が事の様に感じていた。

《シン、敵影1機確認。照合確認、該当無し》

不意に、眼前にモビルスーツが現れていた。青と白を基調とした、流麗なフォルムのモビルスーツ。
特徴的な頭部の一本角――そのモビルスーツの名は。

《初めまして、だな。『緑の悪魔』よ。俺の名も知らずに死ぬのは無念だろう。良く覚えておけ、イザーク=ジュールとストライクブレードの名前を!》

外部音声で高らかに名乗る、イザークとストライクブレード。シンもまた、何かを弾き飛ばすように叫んでいた。

「シン=アスカ、イグダストだ!」

それは、不思議な状況だった。最新鋭機体が戦場で合い間見えた時、互いに武器を持たない素手同士。真に機体の優劣とパイロットの技量が試される状況。そして、これは演習ではない。生死を分かつ戦場なのだ。
再びイグダストが真紅の輝きを発する。対照的にストライクブレードは青く輝き始めた。
少しずつ、お互いが歩み寄っていく。一歩一歩、何かを確かめる様に。


そして――拳と拳が交わった!




「……なるほど、話はわかった。駆け落ち、というヤツだな」

ようやくその場に到達したハナ=ミシマの説明に、カガリは腕組みをしながら言う。
説明によると、シノ=タカヤが居なくなったのは一週間前。普段通りに登校のため自宅を出たと思いきや、そのまま学校に行かずに足取りが途絶えたという事だった。ハナ宛ての置き手紙にはこう書いてあった――『セシルと共にヨーロッパに行きます。幸せになるので心配しないで。落ち着いたら連絡します』と。
とはいえ、置いていかれたハナの心境はどの様なものだったろうか。ソラが行方不明になり、またもう一人の親友が行方不明になってしまったら。取り乱すのも止むを得ないだろう。
ソラといえば「良かった、直接命の危険があるわけじゃないんだ」と少しだけ安堵していたが。
ハナ自身もソラが生きていて、また今触れ合える距離に居る、という事でようやく安堵していた。
そんな少女達の微笑ましい遣り取りを見ながら、カガリは暫く腕組みをして考え込んでいたが――ややあって口を開く。

「ちょっと待て。捜索願などは提出したんだろう? 現在のシステム上であれば、少なくとも世界のどこに行った程度の事であれば直ぐにわかるはずだ。その辺はどうなっているんだ?」
「もちろん。捜索願は直ぐに提出させてもらったで……あ!いや、もらったんです。でも『判らない』って回答が返ってきて……うちだって何が何やら、狐に包まれた様な話で……」
「判らないだって? そんな事は無いだろう。少なくとも海路、空路を使うのならばオーブ市民なら全て登録される。それを逃れる事は不可能に近いはずだ、本当に出国してるのか?」
カガリは尚も食い下がる。しかし、ハナは首を左右に振って、「でも、判らなかったんや」と言うばかり。

オーブ国民であれば生体情報が登録されている。
交通機関や金融機関を始め、日々の生活の上でバイオメタリクス認証はそこらかしこで行なわれている。
当然履歴も残されているので国内で生活をしていれば、たとえ失踪をしたとしても捜査機関が特定の誰かの足取りを辿る事はそう難しいことではない。
それで「判らない」のならば、確かにオーブ国内には居ない事になる。その事を思い出し、カガリは唸る。
不意に、アスランが口を挟んだ。

「国外に出立しているのならば、正規ルートではないという事になるな。調査してみないと何とも言えないが……」

厳しい顔でアスラン。つい最近もオーブ当局にチェックされない方法でモビルスーツまで持ち込まれたばかりだ。警察・防衛関係に精通している彼にしてみれば苦々しい思いもあるだろう。

「待て、アスラン。不正規ルートって……そんなもの、オーブの一女生徒が使える様な代物なのか? システムトラブルっていう線は無いのか?」
「システムトラブル、という事は考え辛い。入港、出港時にそれぞれ三重のチェック体制を設けてある。それら全ての網を越えられる事は、まず有り得ない……だが、不正規ルートを使ったとして、そちらも考え辛いんだ。『駆け落ち』はそれなりの大事だが、不正規ルートまで使う必要性は無い。彼等の意志で動いている以上、国家が彼等を別れさせたり、ましてや捕らえる等という事は無い。まして、彼女は孤児だ。所在が判明したとしても、彼等を祝福する以上の人達は存在しないんだ――君達の様な友達思いの人達しか。何故なんだ……?」

顎に手を添えながら、アスラン。それを見ながら、カガリは苦笑する。

(考え事をする時のポーズ、変わってないんだな。相変らず……)

こんな時に、とは思う。けれど、素直に思えるのだ――自分はアスランが好きなんだな、と。
見ているだけで嬉しくなれる。そんな相手が居る事を幸運と感じるべきかどうか。それはカガリにとっても命題なのかも知れないが。
その時、それまで黙っていた少女が口を開いた。

「あの……不躾を承知でお願いします。何とかシーちゃんの居場所を探せないものでしょうか?」

室内の全員が、ソラに向き直る。そこに、さっきまで泣いていた少女は居なかった。変わりに決然と何かを見据えた少女がそこに居た。

「私にとってシノ=タカヤは家族同然の人間です。その彼女が好きになった相手とはいえ、まずは一目見て文句を言ってやらないと気が済みません」
「それなら、うちかてそうや! うちだって文句言うたるわ!」

ソラは怒っていた。ハナも怒っていた。シノの幸せを願うからこその、怒り。その彼女を託してもいい人間かどうか――それを見定めなければ、気が済まない。その気持ちはその場にいる全員が理解できるものだった。
カガリは暫くソラの顔をまじまじと眺めていたが、不意に笑みを浮かべる。

「よし、ソラ=ヒダカと言ったな。このカガリ=ユラ=アスハ、オーブ元首として市民の困窮をそのままにしておく訳にはいかない。来週私はヨーロッパで行なわれる記念式典に出席するのだが、少々早めに出立しても問題は無い。その際、そなた達も私と共に来るがいい。私が関係各所に働きかけてやろう」
「カガリ様!?」
「任せるがいい。そなた達の気持ちは良くわかる。全て私が良い様に取り計らってやろう、それに不正規ルートを使用したとすれば国家的な問題だ。どちらにせよ放ってはおけまい。まあ、まずは国内で再度の捜索をしてからだがな」

カガリはちら、とアスランの顔を見る。カガリの警護責任者も兼務する『紅の騎士』は、肩を竦めた。

「やれやれ、また警護計画の練り直しか。全くうちの上司は人使いが荒い」

しかしてアスランはこう思っていた。

(変わったな――以前なら「私自ら説得してみせる!」とか言い出していたのに。国家の重責――それをちゃんと理解してくれているという事か)

本当に理解しているのなら、これ位の事は部下に丸投げしても良さそうなものだが。とはいえ、そこまでアスランも求めるつもりは無い。
キラとラクスは――キラは狸寝入りをしていて、それはラクスも気が付いている――互いに目配せをして、くすくすと笑っていた。




再度の捜査の結果、シノはオーブ国内に居ない事が確定。
こうして私とハナはカガリ様と共に、ヨーロッパに向かう事になりました。

しかしこの時、まだ誰も気が付いていませんでした。シノが何に巻き込まれていたのか。
単なる『駆け落ち』に留まらない騒乱。
スーパーコーディネイターとは、一体何なのか。
人類が恐れたその存在が、少しづつ明らかになる――それは、そんな旅だったのです。
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