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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第二部「人を超えし者達」

2-3

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スペック、コンセプト、ニーズ……、
完成と共に運命を分けたイグダストとストライクブレード。
開発段階から互いに比較され、試されてきた2機。
時代が選ぶのはどちらなのか。
証明するには戦って勝利者となるしかありません。




 関節が、指が軋む。湧き上がる震えは、恐怖によるものか。
 ――否。そうではない。

 (遂に戦う……『ヤキン=ドゥーエを生き延びた者達』と!)

 シンは乾いた唇をちろりと舐める。そうだ、判っていた事だ。この男、イザーク=ジュールも統一地球圏連合軍に居るという事も。
 ザフトレッド内で語り継がれた『伝説の三人』の内の一人。
 かつて、地球に落下していくユニウスセブン上で見せた圧倒的なまでの技量は今でもはっきりと覚えている。
 当時のシンをして『勝ち目がない』と思わせた男。
 だが、今のシンは――むしろ。

 「シン=アスカ。イグダストだ!」

 血流が早まる。紅い鼓動が、全身を駆け巡る。咆哮が、咽の内に蓄えられていく。
 戦いたい。闘志が、湧き上がってくる。
 その先に居るアイツ――アイツ等に追い付き、越える為に。

 《シン=アスカ……知っている名前だ。ならば、もはや語るまい》

 ほんの少しだけ、イザークの声に悲しみが含まれた。だが、次の瞬間。 

 《ザフトレッドを背負った者の矜持、見せてもらおう!》

 もはや引く道も、帰る場所もなく。ザフトという光をなくした敗残の餓狼達。
 イグダストが紅く輝き、そしてストライクブレードが蒼く輝き――

 《「いざ、勝負だァァァァ!!」》

 シンとイザークの掛け声が、坑道内に木霊した!




 《どういう事だ、これは!》

 強襲揚陸艦ミネルバ改級、ジークフリードのマストブリッジ。
 モニタに大写しになった老人、統一地球圏連合軍西ユーラシア方面軍司令官レギン=グレイブのヒステリックな叫びをディアッカ=エルスマンは聞き流す。毎度の事だが「これが仕事だ、しゃーないな」と呟きながら、だが。

 「どういう事だ、と言われましても。イザーク=ジュール准将が盟友国の危機に、スクランブル出撃しただけの事ですよ」
 《見れば判るわ! 何故私に一言の相談も無く動いた、と聞いているんだ!》
 「はい、通信機器の故障で報告が遅れました。とはいえこれは現場の判断で、最悪のケースを想定して動いたという事でもあります。中継基地グリスベルを守る事は国益に利する事かと」

 しれっとディアッカ。当然レギンの怒りは収まる様子は無い。
 レギンは大きく、わざとらしく深呼吸をしてからディアッカを睨みつける。

 《よくよく、貴様等コーディネイターというのは鼻つまみ者だ。言う事は聞かず、プライドだけは人一倍。出世街道から落伍し、東ユーラシア常勤という閑職に回されているのも頷けるわ。私から報告はさせて貰う、覚悟しておれ!》
 「はっ。お待ちしております」

 ディアッカの言葉を最後まで聞く事無く、レギンは言いたい事だけ言って、通信を打ち切った。
 溜め息と共に、ディアッカは周囲のクルーに軽口を叩く。

 「ここより僻地の赴任先っていうのも聞いてみたいもんだねえ、どう思う?」

 周囲から苦笑が漏れる。それを確認してディアッカは微笑んでいた。最低限のモチベーションは確保しておかなければならない、それはディアッカの命題でもある。
 ナチュラルとコーディネイターが平等であるという思想は、ラクス=クラインが率先して民衆に浸透させていた。その結果、両人種の能力的格差の問題を抱えたまま同じラインで比較されるという事態が起きてしまった。当然ナチュラル達は面白く無く、裏工作や談合を最大限活用する事により、コーディネイター達を締め出したのだ。
 世渡りの出来る者達はまだマシ――まして、イザークの様な石頭とくれば。

 (しかしまあ、最前線が僻地っていうのは、平和だって事さ。本来は俺達の様なエースが、最前線に居なきゃいけないってのに……やだねぇ、腐敗っていうのは)

 実力は評価されているのだ。新型モビルスーツ、ストライクブレードを任される程には。他の連中が使いこなせるかどうか、という事もあるだろう。
 他人を蹴落とし、富を得ようとする。それは人類がどんな時でも変わらず行なってきた伝統ともいえる。そして、綻びはそこから生まれてくるのだ。誰もが大事だと思っているはずの、ゴランボイ地熱プラントにさえも。

 「イザーク、こんな所で死ぬなよ。俺達が生きた理由は、ここに無いはずだろう?」

 もっとも『それ』はどこにあるのだろう。モニタに映る、今まさに交錯せんとするイグダストとストライクブレードの姿を見ながら、ディアッカは嘆息した。




 「うおおおおおおっ!!」
 《はああああああっ!!》

 イグダストが、ストライクブレードが――大地を蹴る。
 脚部が上体を押し出し、上体が捻りを加え、肩が拳を打ち出す。互いに打ち出した拳――それらが同時にヒットし。
 信じ難いほどの火花が散る!

 「ぐあっ!!」
 《ぬうっ!?》

 イグダストが押し勝った。ストライクブレードの方が吹き飛ばされる。ストライクブレードは天井に打ち上げられ、その後地面に叩き付けられた。バーストモード時のパワーなら充分に有り得る事だ。
 だがシンはそのまま、イグダストをストライクブレードの方に油断無く構えさせる。頬を汗が伝う――手応えが違うと、本能が告げていた。
 ……そして、それはその通りだった。
 土埃の中、ゆっくりと影が蠢く。それはぎりぎりと立ち上がり、砂塵を流れるに任せて、だらりと両の手を下げたままこちらに歩いてくる。
 特にダメージが有る様子はない。ということは。

 《さすがに兄弟機、当然の様にフェイズシフト装甲か》
 「ああ」
 
 Aiレイが断言し、シンも頷く。物理攻撃を相転移しダメージを無効化するシステム、フェイズシフト。そうでなければイグダストのパワーには耐え切れない。

 《いいパンチだ。フェイズシフト装甲で無ければ、勝負は着いていたろうな。もっとも、エネルギーの三分の一は吹き飛んだがな》

 イザークの声に動揺はない。淡々と、でもない。むしろ褒め称えるかの様に――昂揚するかのように。

 「いいのかい、そんな事ペラペラと喋ってさ」

 シンが挑発する。しかしイザークの声音は変わらない。

 《構わんさ。一度、貴様の機体には殴られてみたかった。デュートリオンフェイズシフトシステムがどれ程の物か、確かめておきたかったからな》
 「……随分な余裕だな。後パンチ2発しか耐え切れないって事だぞ?」

 シンは不味いな、と自分でも思っていた。イザークが余りに余裕を持っていたからだ。
 まるで「お前には何時でも勝てる」と言われている――そんな気分だ。

 《貴様こそ、大した余裕さ。この俺に『後2発も』パンチが当てられる――そう思えるんだからな!》

 言うが早いか、ストライクブレードが動いた。両の手はだらりと下げたまま、一気に踏み込んでくる!

 「舐めるなっ!」

 シンはイグダストをコンパクトに動かした。左右のワンツーパンチで迎撃する。が、それはするするとストライクブレードに避けられ、一気に眼前まで飛び込まれた。

 《甘いな》

 触れ合う様な距離――そこからストライクブレードの上体が斜めに沈む。直後、上から裏拳が振り下ろされてきた。超接近戦から飛び込む様に倒れ込み、スラスターで制御しながら真横回転でのバックブロー。生身の人間ではあり得ない、モビルスーツならではの格闘戦術だ。イグダストは距離を取ろうとして重心を後ろに傾けていた瞬間だったので、避ける事すら出来ず。右腕でガードするのが精一杯だった。

 「くっ……のおっ!」

 シンもスラスターを制御し、イグダストを回転させる。パワーで踏ん張ろうにも重心がずれていてはそれも無理。ならば慣性制御で立て直すしかない。
 しかしイザークが――ストライクブレードがそんな隙を逃す訳がない!

 《パワーなら貴様の方が上だ。ならば俺は――》

 やっとの事でイグダストは四つん這いの様な姿勢を経由し、立て直す。しかし既に体制を立て直していたストライクブレードが距離を詰めてきていた。

 《――十数発、まとめてくれてやればいい!》

 ストライクブレードの猛攻、腹部への蹴りからスタートの――連続攻撃!
 イグダストの左腹部、右肩、右足、そして顔面へ。見事なまでの対角線への打撃だ。シンは辛くもこれをガードしていくが。
 打撃の雨が――止まらない、止められない!

 「馬鹿なっ!? いくらなんでも早すぎるだろ!?」

 打撃速度が更に上がる。シンとイグダストは防ぐので精一杯だ。こんなにも実力差があったのかと、シンは唸る。だが、そんな訳は無い――そんな訳は無いのだ。

 《シン、落ち着け! おそらく奴の機体は……!》

 Aiレイの叱咤が飛ぶ。しかしシンの焦りが、右拳と共に打ち出された時――防御は限界に来ていた。
 右拳の流れを助長するようにイグダストの左肩が押され、右腕が予想よりも打ち出される。そこをストライクブレードが掴んでいた。

 (背負い投げ!?)

 正確には一本背負いである。イグダストはストライクブレードの腰に跳ね上げられ、見事に宙を舞った。刹那の判断で、シンはスラスターを全開にする。腕を決められたまま叩き付けられ、押さえ込まれれば勝機は無くなるからだ。
 何とか振り解く――が、地面への激突は避けられなかった。イグダストが大地に叩き付けられ、土煙が舞う。
 したたかに打ち付けられるが、シンは歯を食いしばって耐えていた。次の連撃に備え、立ち上がった時――しかし、ストライクブレードは動いていなかった。
 故障だろうか? いや、そんなはずはない。つい先程まであれだけ動いていた機体が、そうそう故障するとは思えない。

 《シン。おそらく奴の機体はイグダストと同じシステムだ。そして――速度を上げる様に調整されている》
 「……そんな事、出来るのか?」

 Aiレイが断言する。シンは半信半疑だが。

 《気が付いた様だな。フェアでないから、教えてやろう。俺のストライクブレードは貴様と同じ様なフェイズシフトシステムの改良型を搭載している。しかし、貴様の機体の様に無茶なパワーを具現化できる様な馬鹿なシステムではない。俺の機体は『関節の負荷を限りなくゼロに近づける事で得られる』スピードを得るために調整されている。こと白兵・格闘に関して言えば、俺のストライクブレードは最速だ!》
 
 高らかに宣言するイザーク。どうやら動かなかったのはわざわざ説明するためだったらしい。
 舐められたもんだ、とは思う。しかし嘘を言っているとも思えない。シンとしても、察せざるを得なかった。

 「……厄介だな、こりゃ。『天敵』な訳だ」

 イグダストの最大の売りは、その有り余るパワーだ。しかしそのパワーも、発動出来なければ――当てられなければ、意味はない。もしもイグダストの攻撃を無効化、もしくは発動前に倒しきる様な相手が居るのなら、それはイグダストにとって最大級の『天敵』という事になる。
 シンは生唾を飲み込んでいた。絶望は出来ない――したくない。この機体を信じ、託してくれたアイツの為にも。

 (ルナ、教えてくれ。俺はどうすればいい?)

 再びストライクブレードがゆら、と動き出す。瞬間、シンもフットペダルを踏み込んでいた。
 押し負ける訳にはいかないのだ。その気持ちがシンを動かしていた。




 イグダストとストライクブレードの戦闘映像――それを見据えながら、ダニエル=ハスキル少将は呟く。

 「どうやら奴のグリスベル到達は防げそうですな。しかし……」

 苦々しげにハスキルは首を振る。会議室に座る軍部の幹部達も一様に厳しい表情だ。

 「統一地球圏連合、西ユーラシアに大きな借りを作ってしまった。おそらく奴等の事だ、ゴランボイ地熱プラントの経営に関して、大幅な譲歩を要求してくるに違いない」
 「それだけならまだいい。今はまだ少数の『統一地球圏連合東ユーラシア派遣軍』、これの大規模増派の理由にされればたまったものではない。『防衛』という大義名分を与えてしまった事になる」

 幹部達は一様に項垂れる。現状維持は不可能、となれば『被害を最小にするか』を論じなければならない。身売りや切り売りをして生きなければならない悲しさが、東ユーラシアでは日常の風景だったのだ。
 そして幹部達が項垂れる理由は、もう一つある。

 「コーディネイター、『人を越えし者』か。なるほど、奴等は人ではない。もっと凶悪な何者か、だ。我が軍の精鋭が束で掛かっても、果たして勝てるかどうか……」

 ゴル=ダルクス中将が吐き捨てる様に言う。現場叩き上げのダルクスは粗暴な振る舞いの目立つ男だが、馬鹿ではない。殊に相手の強さを見定める事に関しては英明な男だ。
 そんなダルクスの言い様――それはその場に居る幹部達にとって、認めなければならない事実に違いない。

 「こうなるとイザーク准将が居てくれた事、そして我々に友好的であった事に感謝しなければなりませんな」

 しれっとハスキル。別にイザークが友好的であったとは、ハスキルは思っていない。彼が誰に対しても懐疑的であるとは思っているが。
 ただ、ハスキルはイザークの本質の一つを見抜いていた。戦いに餓えている――死に場所を探しているという、イザークの魂の叫びを。
 同時にハスキルはコーディネイターを哀れだと思っていた。自分達ナチュラルには為し得ぬ力と技を得るための代償として失った「モノ」。人を越えたが為に、どんな責苦を負わされたのか、と。

 (『人を超えてしまった者』は、もはや『人』には戻れない。彼等の不幸は、生まれながらにそれを背負わされてしまった事にある。イザーク=ジュール。君の居場所は既に無く、そして誰も君を必要としない。それを認められないからこその強さ、か。愚かで――哀れな、超越者よ……)

 モニタの向こうでは、激戦が続く。ハスキルはそれを見ながら、イザークの行く末を案じていた。




 拳を一体何度、放っただろう。蹴りを何回、お見舞いしただろう。
 しかし――イザークは感嘆する。

 「いいぞ! いいぞ、貴様! それでこそ潰しがいがある!」

 何度死角から拳を放っても、何度対角線から蹴りを見舞っても。イグダストは恐るべき回避性能を見せ付けていた。いや、性能ではない。パイロットの実力――というより、執念だろうか。

 《言ってろ、ロートル! アンタの時代はとっくに終わってるんだよ!》
 「ほざけっ!」

 拳を交えていれば相手の挙動が怪しくなり、疲弊している事位わかる。だが、イグダスト――シンは恐るべき食い下がり様を見せていた。スピードで一枚落ちる以上、全てが後手に回るという圧倒的不利な状況にも関わらず、だ。
 確かにイグダストのパワーは圧倒的だ。ストライクブレードとて攻撃を食らえば、耐え切れないだろう。しかしその事がシンを、イグダストを支えているのではない――イザークはそう感じている。

 (コイツ……『何が何でも俺には負けない』という意地がある。どんな事をしても、隙あらば俺の喉笛を食いちぎろうとしている。面白い、面白いぞ貴様!)

 それは何なのか。そこまでして生きたい理由が、勝ちたい理由があるというのか。
 負けの見えている戦いで何故そこまで前進し、戦おうというのか。
 知りたい――それはイザークの無意識。イザークはその感情を『コイツと戦いたい』という気持ちに置き換え、自身を納得させる。
 プライドとコンプレックスの塊――それは自身でも感じている事だ。

 《シン、エネルギー残量あと僅かだ。全開稼動限界まで後二分》
 《んな事大声で言うな! 奴に聞かれるだろ!》
 「……不本意ながら聞こえている。が、安心しろ、俺は貴様の前から退きはせん。二分間、最後まで付き合ってやろう!」

 呆れつつ、イザーク。
 再び拳が交錯する。カウンター気味にストライクブレードは正拳を放ち、イグダストの拳を受け流しつつ顔面を狙う。
 イグダストも負けてはいない。顔を捻り拳を受け流し――その勢いで全身を回転させ、浴びせ蹴りを敢行する。

 《フライングニールキックだ!》
 「そんな大技、通すか!」

 素早くサイドステップし、蹴りの軌道から体を逸らすストライクブレード。しかし、シンの狙いはそれではない。

 《いくぞ! 俺にしかできない事だってあるんだ!》

 そんな気持ちは、イザークもかつて持っていたのだろうか?
 何者にも負けまいと。何者にも縛られないと。そして己の信念の為に、一命を賭す覚悟を。
 イグダストが分離する。回転中の不安定な体制からのパージアタック――攻撃する側もされる側もわからない方向に吹っ飛んで行きかねない破天荒な攻撃である。
 そして、それはその通りになった。
 分離された上半身とコアスプレンダーは揃って地面に向かって打ち出され、下半身は回転の余韻を残したまま上方向に吹っ飛んでいく。さすがのイザークも予想の付かない事態である。

 《こ・こ・だぁっ!》
 「何!?」

 失敗だろうと、イザークは思った。というよりこれで成功する方が不思議だろう。
 しかしこの状態の中で、ただ一人シンだけは『勝った』と思っていた。
 大地に叩きつけられるイグダストの上半身。その時、イグダストのパワーが最大限発動される。

 《腕でだって、飛ぶ事は出来る!》

 イグダストは逆立ちの要領で思い切り地面を両手で叩き――ストライクブレードに吹っ飛んでくる!
 イザークの予想を超えるスピードが、イグダストのパワーによって発現される!

 「何だと!?」

 イザークは最大限の反応をした。両の手でしっかりとその攻撃をガードし――そして。
 瞬間的にストライクブレードが吹き飛ばされる。

 「ぐああああっ!!」

 爆風で吹き飛ばされる様な、先程も体感した感触。ストライクブレードのエネルギーゲージが一気にデンジャーラインまで減少した。慌ててこれ以上のダメージを避けるべく姿勢制御に努めるイザーク。それがまたいけなかった。
 イザークは瞠目していた。この男は――シン=アスカという男は、何一つ諦めていなかったのだと。

 《避けられるもんなら!》

 再び、イグダストの滅茶苦茶なパワーが発動していた。それはまた、イザークが目を疑う光景。常識では測れない光景であった。
 イグダストが突っ込んでくる。上半身と下半身が分離したまま――足首をその手に持ち、ハンマーの様に振り回しながら!

 「自分のボディを武器にするだと!?」

 言いながらイザークは気付いていた。その事自体は間違いではないのだ、と。
 姿勢を立て直したばかりのストライクブレードは、避ける事は不可能だった。イザークの咄嗟の対応は最良のものなのだ。だが、それは残っていたエネルギーが消える事を意味していた。
 両腕を伸ばし、振り下ろされてきた下半身のハンマーを受け流すストライクブレード。しかし、さすがのフェイズシフト装甲も限界に達しようとしていた。
 イザークに出来た事。それは両腕を犠牲にして後方に跳躍する事だった。間一髪、エネルギーが切れて両腕が叩き潰される。が、ストライクブレードはハンマーの軌道から逃れる事が出来ていた。
 しかし――イザークは察せざるを得なかった。自分が「負けた」のだと。




 しかし「負けた」と思っていたのは、イザークだけではなかった。

 《バーストモード、カウントオーバー。もう身動きすら出来ん……目標も未達成。奴等の勝ちだ、シン》
 「……の、様だな。ちくしょう……」

 イグダストの外装から、色が消えていく。それはフェイズシフト装甲のパワーが尽きた合図。エネルギーが切れた証明であった。イグダストの両腕が上体を支えようとして――それすら出来なかった。大地に倒れ臥す、イグダスト。
 イグダストの存在が無い限り、どうやってもグリスベル中継基地までは到達は不可能。この瞬間シンの、リヴァイブの作戦目標は達成できない事が確定した。



勝利者の居ない戦い。
イグダストとストライクブレードの第一戦は、その様な幕引きとなりました。
試合に負けて、勝負に勝ったストライクブレード。試合に勝って、勝負に負けたイグダスト。
それはまるでトライアル試験の奇妙な焼き直しであったのかも知れません。
……しかし彼等の運命はそこで終わりませんでした。
彼等は再度、戦場で相対する事となります。後2回――己の存在を賭けて。



 「……勝ったのか、我々は?」
 
 場がしん、と静まり返る。誰もダルクスの問いに答えようとはしない。否――答え様が無いのだろうか。
 戦略レベルでは勝利、戦術レベルでは敗北。そして政略レベルでは敗北という惨状では。
 そして何より――東ユーラシア政府の軍幹部が揃って『何も出来なかった』現状では。

 「いいや。やはり『敗北』ですよ、我々の」

 離席していたハスキルの入室するなりの一言に、幹部達が色めき立つ。しかし次のハスキルの言に、全員の顔色が更に青白くなった。

 「既にこの状況を西ユーラシア、ひいては統一地球圏連合も知っています。イグダストとストライクブレードの戦闘映像――これが、インターネットの動画サイトにリアルタイムでアップロードされていたんですよ。これで我々は、各方面への政治的な折衝を取らざるを得なくなりました」
 「な、何だと!?」
 「非常に刺激的な映像です。特にこのイグダストという機体――信じ難い戦闘能力というのは、映像を見れば直ぐにわかります。先程正式な外交チャンネルで緊急電文が届きました。『ゴランボイ地熱プラントでの戦闘行為を停止するために、あらゆる手段を用いるべきだ』とのお達しですよ」

 ダルクスは青ざめていたが、また再び真っ赤になって怒鳴りつける。

 「おのれ、統一連合め! 内政干渉も大概にしろ!」
 「建前上ゴランボイ地熱プラントは『民間企業』ですので、それには当たりませんな」
 「言われんでもわかっとる!」

 ぬぬぬ、とダルクスは唸る。しかし暫くして深呼吸して気持ちを落ち着けるとこう指示を出した。

 「よしわかった。とにかく戦闘を終結させればいいのなら、リヴァイブとやらの申し出を受ければいい。コーカサス地域へのエネルギー供給は復旧してやる――ロマ=ギリアムか、覚えておれ!」
 「わかりました。イグダストはどうします?」
 「もちろん捕らえろ。散々調べつくした後、五寸刻みにしてやるわ」
 「わかりました。では直ちに」

 ようやく幹部達は席から立ち上がる。しかし彼等の顔は一様に暗く、とても勝利者の顔には見えなかった。




 《……現在の情勢推移は以上だ。とりあえず帰って来いよ、イザーク。俺達の勝ちだ》

 モニタに映るディアッカの顔は、笑っては居ない。親友が敗北感に打ちのめされているのを敏感に察知したのか。

 「ディアッカ、これが勝利と言えるのか! これでは俺はただの道化だ!」
 《そんな事はない。お前が居なかったらグリスベル中継基地は更なる混乱に……》
 「はっきり言え、ディアッカ! 『俺は負けた』と!」
 《……言える訳、ないだろ》

 だん、とモニタを拳で殴るイザーク。悔しさが体を、瞳をわなわなと震わせていた。

 「不本意だ! この様な不完全燃焼……!」

 相手のエネルギー切れという、無様な勝利。イザークのプライドに賭けて、そんなものが勝利である訳が無い。
 そんなイザークの視界の端に、ルタンドの姿が映る。イグダストに蹴散らされた連中がやっと辿り着いたのか。

 《イザーク=ジュール准将、お疲れ様でした。後のコイツの始末は我々に任せて下さい》
 「貴様等……!」

 イザークは苛々とした思いを隠そうともしない。ぎろりと睨まれ、思わずルタンド達は怯む。しかし、じりじりとルタンド達はイグダストを囲み始め――その時。

 《て、敵襲! モビルアーマーが……うわっ!》

 イグダストの歩んだ道、それを通って何かがこの場所に向かってくる。それは1機のモビルアーマーと1機のモビルスーツ。フォーススプレンダーという名の戦闘機と、紫色のシグナス――コニール=アルメタとシホ=ハーネンフースのコンビだ。
 それはあっという間にこの場所までやって来て――。

 《この人を帰してもらいます。断れば、ここで自爆します。戦禍を広げたい方は、その選択をなさって下さい》

 朗々と、シホ。そもそもこの二人がここまで来れたのも、これ以上戦闘行為をしたくない東ユーラシア政府の立場が大きく関与している。今の情勢で『その選択』が出来る者が居るはずが無い。

 「シホか。お前、まだ戦っていたのか……」
 《その台詞、貴方にだけは言われたくありません》

 にべも無くシホ。ストライクブレードを一瞥すると、直ぐにイグダストを担ぎ上げる。ふと、側面にある大型シャッターが開き始めた。どうやら東ユーラシア政府上層部の『さっさと出て行け』という意図らしい。
 紫のシグナスがイグダストの上半身と下半身を抱え、フォーススプレンダーに飛び乗る。狭い坑道内で何とか旋回したフォーススプレンダーは、一気に空に飛び出していた。
 外は満天の星空――既に夜だった。




 ヨーロッパに向かう民間旅客機。そのファーストクラスの一席に揺られながら、メイリン=ホークが呟く。

 「……まったくあの馬鹿は。少しは見ているこっちの身にもなりなさいよ」

 メイリンの手元にあるノートパソコンには、他でもないゴランボイ地熱プラント坑道内が映っていた。それも一箇所ではない、ほぼ全ての監視カメラの映像だ。
 そう。インターネットにイグダストの映像をアップロードしたのは他でもない、メイリンだった。
 目的は色々ある。今回の件を東ユーラシア政府に握り潰されない様に、そして統一地球圏連合が今後有利な立場で交渉に臨む為に。そして最大の理由は――。

 「こんな所で死んでもらったら、こっちが困るのよ。少しは踏ん張りなさいよ、シン」

 ふと目をやれば、遠くにヨーロッパの明かりが見えてくる。目指すドイツのベルリン空港までは後数時間、ノートパソコンを閉じるとメイリンは仮眠する事にした。地上に降りれば、やる事は山積みだ。少しでも今のうちに体力を回復させておきたかった。




 この男の腕に抱かれるのは、初めてではない。しかし、これ程まで安堵出来た事はなかったとシノ=タカヤは思うのだ。
 暗闇にうっすらと浮かぶ、白い腕。汗ばんだ胸板に頬を添える――自然に、笑みが漏れる。

 「やっと一緒になれたね、セシル」

 いつもはポニーテールだった黒髪を流れるに任せ、シノは愛しそうにセシル=マリディアの腕の中に埋もれる。セシルもまた、愛しそうにシノの髪を撫でていく。

 「ああ……シノ。愛してる」
 「私もよ」

 互いに一糸も纏わぬ姿を晒し、愛し合う。人類が何千年も前から行なってきた普遍の交わり。『巣穴』を作るために確かな愛情を感じたい、一つになりたいという気持ちは本能なのかもしれない。場所が例えヨーロッパの片田舎にある安宿だったとしても、シノにとっては愛しい時間であった。
 だから、なのだろう。セシルがその事を言い出した時、随分と突拍子も無いと感じたのは。

 「――シノ。僕の弟に会って欲しいんだ。僕の最後の家族、カシム=マリディアに。そして、君にも知ってもらいたいんだ。カシムが『スーパーコーディネイター』と呼ばれる『救世主』なんだって事を」
 「スーパーコーディネイター……?」

 怪訝な顔のシノ。しかしそんなシノに、セシルは優しく笑いかけるのみだった。



シノは、『スーパーコーディネイター』という存在が居る事を知りませんでした。
この世界で知っている人間の方が珍しいかもしれません。
カシム=マリディア。
もしも彼女が『彼』の噂話だけでも耳にしていれば――彼女だけではなく、私の運命も変わっていたかも知れません。
彼の存在が、全ての事象を変えていったのです。
そう、終局へ向かって――。
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