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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第二部「人を超えし者達」

2-4

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――スキャニング。




 統一地球圏連合の盟主国であるオーブは、四つの群島から成り立っている。
 群島はCE.79現在、ヤラファス島を起点に三つの大陸橋で結ばれている。オーブ市民は大陸橋を使う事によって、陸路での島間移動が出来るようになっているのだ。
 『歌姫の館』を後にしたソラ=ヒダカとハナ=ミシマは、一旦ヤラファス島はオロファト市内にある自分達の寄宿舎に戻り荷物をまとめると、カグヤ島にあるカグヤ国際空港に向かった。カグヤ国際空港は現在、ニ基のマスドライバー及び三基の滑走路を保持する、盟主国に相応しい規模の玄関口となっている。ここから世界のどこにでも行く事が出来る――それはオーブ市民にとって自慢の種であった。
 さて、ヤラファス~カグヤ間を繋ぐリニアバスに揺られながらソラ=ヒダカはしげしげと自分の右手を握ったり開いたりしていた。時折ぼんやりと中空を眺めたり、車窓からの景色を眺めたり。そんなソラを怪訝に思ったのだろう、ハナが問いかける。

 「なんや、ソラ。そんなに光栄だったんか? あの軍神キラさまと握手したっていうんが」
 「うーん。まあ、そうなんだけど……」

 隣に座るハナ=ミシマが茶化す。ソラは誤魔化すように微笑みながら返す。が、どうにも歯切れが悪い。
 それはハナがソラの幼馴染でなくても気が付きそうな不自然な様子だった。

 「どしたん? べっつに握手してもらっただけやん。光栄に思うんはいいけど、手ェ洗わないっていうのは勘弁やで」
 「そんな事しないよ。ただ……なんだろう」

 なんだろう、この違和感は。ただ、握手をしただけなのに――何故なんだろう。
 こんなにもキラ=ヤマトの存在を大きく感じてしまうのは。

 (好意――じゃない。好きとか嫌いとか、そういう感情じゃない。そうじゃなくて、もっとこう、なんていうか……)

 握手をして温もりを感じて、人柄を感じる。それは昔から人類が行なってきた作法の一つ。
 たったそれだけの事。たったそれだけの事ををしただけなのに、この『違和感』は一体何なのか。まるで心の奥底まで見透かされた様な、体の隅々まで調べられた様な――
 そんなソラの様子に飽きたのか、ハナが話題を変える。

 「しっかしまあ、ナージャも現金やな。あんなにソラに懐いとったんに、あないにニコニコ笑って『バイバイ』はないやろ」
 「仕方ないよ。私とラクスさまじゃ包容力が違うもん」

 ヨーロッパに旅立つにあたって、ナージャの保護は大事な問題だった。まさかヨーロッパに連れて行く訳にもいかない――そう考えた矢先に、ラクスが「では、私がお預かりいたしましょうか?」と言い出したのだ。
 世界に冠たる勢力となっているオーブ連合首長国率いる統一地球圏連合。その中に在籍してこそいるが、実際は完全に独立した最強の戦闘集団『歌姫の騎士団(ピースガーディアン)』。その盟主となるキラ=ヤマトとラクス=クラインの夫婦――この二人がナージャの身元を引き受けてくれたのである。正直に言って、これ以上の里親を探す事は不可能に近い。ソラとしても、まさか自分一人でナージャを育てられるとは思ってはいなかった。
 ……とはいえ、寂しくないと言えば嘘になる。

 「ナージャ。今度はシーちゃんと、ハーちゃんと三人で会いに行くからね」

 右手をぎゅっと握って、ソラは誓う。
 リニアバスはそろそろカグヤ島にある空港施設に到着しようとしていた。巨大なニ基のマスドライバーが天空に繋がる橋に見えて、ソラは我知らず気持ちが高揚していくのを感じていた。



 
 コーカサス地方、サムクァイエット基地。
 東ユーラシア政府軍の重要な拠点ですが、この基地は軍事基地以上に大きな意味を持っていました。
東西ユーラシア全域に供給されているエネルギー施設の中では最大規模のゴランボイ地熱プラント。

『サムクァイエット基地を占拠した陣営がゴランボイ地熱プラント経営権を取得する』

 この様な条文が出来た背景としては、世界的なエネルギー危機が表面化した結果と言ってもいいでしょう。
争いをしようとも、失ってはいけないもの。未来に世界を残していかなければならない。
それは人々の、というより種族の願い。
そうした願いに、応えた奇跡の条文――それは人の業故かも知れません。
 ゴランボイ地熱プラントを守るべく存在するサムクァイエット基地は東ユーラシア政府軍によって、
正に難攻不落の要害と成り果てていきました。
モビルスーツや戦艦の補給基地という側面はほぼ無く、むしろ地上に動かない巨大な戦艦が存在する。
それがサムクァイエット基地を見た時の率直な感想でしょう。

 かつてガルナハンの大地を守る為に設置された陽電子破城砲「ローエングリン」――それが2門。
全周囲をフォロー出来る様に構築されたその2門の砲台『アンフィスバエナ(眠らない双頭の蛇)』。

対空施設等は考えられうる限り設置され、駐留モビルスーツは裕に一個師団クラス。
正にそれは東ユーラシア政府軍の威信を賭けたその陣容でした。
 もっとも、サムクァイエット基地の本当の防御手段は『戦力』そのものではありません。

『これだけ揃えているのだから攻め込めば痛い目を見るぞ。
そして取り合えず生き延びるだけのエネルギーは供給してやるのだから欲張って攻めてくるんじゃない』

単純な抑止ですが、有効な威圧でした。
それ故に同基地への大規模な反乱は行なわれた事がなかったのです。
 ……既存の常識を覆す『代物』が現れるまでは。



 

 最初は、小さな川だった。
 しかしそれは次々と合流し、大きな川となり――そして大河となる。
 サムクァイエット基地に向かって進撃する巨人の群れは、上空から見るとその様にも見えた。

 「凄いわね、こんな大軍勢見た事も無いわよ。ホントにガルナハン中のグループが集まってきてるみたいね」

 上空で斥候に当たっているフォーススプレンダー、コニール=アルメタが言う。通信先であるスレイプニールⅡ艦橋に居るロマ=ギリアムが苦笑しながら返してきた。

 《まあ、全部が全部戦力になる訳じゃなさそうだけどね》
 「……まーね。ポンコツを通り越してクズ鉄みたいなのまであるわよ。げ、手が五つ付いてるのまで。何考えてんのかなぁ」
 《参加したいって気持ちは評価しなきゃいけないかな》
 「この壊滅覚悟の『15分間に全てを賭けた全方位突撃』作戦? 正気の沙汰じゃないわ」
 《これが一番合理的、と判断されたんだよ……不本意ながらね》

 サムクァイエット基地攻略策。それは『全軍をもって東西南北の四方向から攻め込み、二門のローエングリン砲の初撃を掻い潜り、第二弾チャージタイム15分以内にサムクァイエット基地に取り付き、占拠せよ』――見事なまでに『考えるな。突撃して何とかしろ』と読み代える事が出来る作戦内容である。

 「シンとイグダストが居るからって、どうにかなるもんなの?」
 《どちらかと言えば、破れかぶれなんだよ。確かにガルナハンの疲弊状況を考えると、大規模戦術に出ざるを得ない。何としてでも東ユーラシア政府にこっちを見てもらわなきゃならない。そういう事なんだ》
 「最悪、外交交渉で何とかするって? あのミハエルが?」
 《演説は上手いんじゃないかな。宗教家には向いてるよ》
 「胡散臭いわよ。口が上手い奴にロクな奴は居ないわ」
 《そう切り捨てないでくれよ……ん? 大尉かな?}

 モニタに大尉が映る。大尉は《準備は済んだ。いつでもいいぜ》とうっそりと言った。それを聞き、ロマは頷いた。

 《全軍に通達だ。『全軍突撃。夕食は400グラムのステーキ』とね》
 《……緊張感の欠片もありませんな。ま、ウチらしい。『全軍突撃。夕食は400グラムのステーキ』だ》
 
 ロマの号令を副官ヨアヒム=ラドルが復唱。リヴァイブが動き出す――相変らずの緊張感で、死地へ。

 「死ぬんじゃないわよ、シン」

 コニールは誰にも気付かれない様、小さく呟いた。




 リヴァイブが担当した西部エリアは、すぐに剣林弾雨の様相となった。未だ冬の積雪が残る大地に、サムクァイエット基地から直接射出される対空砲火、榴弾が降り注ぐ。そして統一軍新鋭量産モビルスーツ、ルタンドを主力とする防衛師団が展開すれば、それらからも制圧射撃が開始される。視界はあっという間に火花散らぬ場所が見当たらない、大混戦と化した。

 《すげぇなオイ。どこを向いても敵ばっかりだ!》

 少尉がうそぶく。大尉以下リヴァイブの主力モビルスーツ群は高機動、一撃離脱が売りのシグナスだ。スラスター移動を駆使して敵の制圧射撃を避けつつ攻撃を敢行する――が、多勢に無勢すぎる。兵力は少なく見積もっても三倍強の差があった。

 《まともに撃ち合い出来る戦力差じゃねぇ、泥仕合に持ち込むぞ。ホウセンカ隊はスモーク射出、その後はスレイプニールⅡの護衛を頼む。少尉とシンは突っ込め、俺と中尉が支援する。こうなったら接近した方がなんぼかマシだ》
 《へいへい、了解》
 「了解。やればいいんでしょ」

 無茶な命令ではある。しかし少尉とシンは頷いた。他にやりようがある訳でもない、やるしかないのだ。

 「飛び道具はアームバルカンだけか。ビームライフルぐらい欲しいんだけどな」
 《仕方あるまい。バーストモード起動した途端、握り潰してしまうんだからな。手加減が出来ればいいんだが》
 「そんなに器用な機体じゃないしな、コイツ」

 ぶつぶつと呟くシンに、Aiレイが応じる。誰が言う訳でもなく、両肩にバインダーシールドを装備した少尉機が突撃していく。シンのイグダストは相手にとっては兜首だから狙われやすい。それを考慮してくれているのだ――ありがたいと思う反面。

 「戦争大好きだよなぁ、本当!」

 シンもスロットルを押し込む。同時に、アドレナリンが全身を駆け巡る。研ぎ澄まされた感覚が空を切り裂き乱れ飛ぶ火線を脳に伝え、反射的に機体を動かしていく。視界を目まぐるしく動かし、生きる術を模索する――生存本能を強く刺激する、戦闘衝動。それはパイロットにとって、否定し切れない高揚の瞬間でもある。
 機体のパワーを上げる度、機動はますます過酷に、激しくなる。弾幕を避けるか、或いは転倒して自滅するか。その一瞬の判断は全て自分に委ねられる。シンは我知らず、にやりと笑う。

 「バーストモードを使うまでも無い!」

 シンはイグダストをまるで体操選手の様に動かした。伸身宙返り――ムーンサルトと呼ばれる動き。あまりにも派手で堂々とした、それ故に意表を付いた機動だった。少尉機を飛び越え、空中で敵機を捉える。上下が反転したままアームバルカンで敵のビームガンを狙撃――当たる!

 「今だっ!」
 《よっしゃあ!》

 少尉機が突撃した。ビームガンを手元で破壊されたルタンドは、まだ立ち直っていなかった。少尉の対艦刀が閃き、ルタンドの胴体が切断される。数瞬遅れて、それは爆散した。
 爆発音。それを耳で聞きながら、駆け抜けていく。
 しかし、それはこの戦場におけるほんの一瞬の勝利に過ぎない。リヴァイブのモビルスーツ群は走り続ける――止まれば、死ぬ。それを知っているが故に。
 次の敵影がすぐに見えた。数十機――シンは即決する。

 「イグダスト、バーストモードスタンバイ!」




 「敵全軍、侵攻。こちらの防衛部隊と交戦開始しました」

 オペレーターの報告にうむ、とゴル=ダルクス中将は頷く。その傍らにはダニエル=ハスキル少将。叩き上げの無骨な男と、政略、計略が専門の男――水と油の様な間柄かと思われたが、中々どうして。

 「よろしい。敵は大軍だが、所詮は寄せ集めだ。威風堂々と殲滅せよ!」
 「……それはワシの台詞だ、ハスキル!」

 ウマは合う様である。互いに『ここが落ちたら東ユーラシア政府の覇権が揺らぐ。イコール、自分の立場が危うくなる』という事がわかっているからだろうか。

 「いいか、ここまで良い様にしてやられているのだ。そんな事が許せるか――我々は勝利せねばならぬ。しかも、圧勝という二文字で表さねばならぬ!」
 「だからワシの言うべき事をだな……まあ、いい」

 いや、違う。負けっぱなしは性に合わないからだろう。
 ふんとダルクスは鼻を鳴らすが、それ以上は言わなかった。別にハスキルが間違った事を言った訳でもない。戦場全域が俯瞰できるモニタに目をやり、事態を把握する。

 「ふむ。士気は高いが、何時まで持つかだな。東と北はこのままでも問題なかろう。残るは南と西、か」
 「南はローゼンクロイツの本隊ですからな。まあ、多少の増派で何とかなりましょう。問題は……」
 「……これだな」

 モニタを変える。西部エリア前線に備え付けられた監視用モニタだ。それに映った緑のモビルスーツが――いや、ぶん投げられたモビルスーツが砲台に激突し、爆散する光景が見えてダルクスは嘆息した。

 「これでは士気が上がりませんな」
 「猛獣の檻に裸で飛び込ませる様なものだ。士気が上がろうはずも無い、か」

 深緑のモビルスーツ、イグダスト。その戦闘能力は先のグリスベル攻略戦で証明済みである。まして今回は完全武装状態――相対する兵士にとってみれば、その心境はどの様なものだろうか。「許されるなら逃げ出したい」がおそらく偽らざる本音だろう。

 「やむを得んか。ミハエルの子倅に15分間、好機をくれてやろう。アンフィスバエナ両砲門を西部エリアに向けろ。目標――イグダストだ」
 「大盤振る舞いですな、ダルクス中将」
 「戦力の逐次投入ほど愚かな事もあるまい。やるからには徹底的にやる。あちらにはミネルバ級改戦闘艦もある、一度は相殺されるかも知れんからな」
 「なるほど。ではアンフィスバエナを西部に集中せよ。目標、イグダストだ!」

 2門のローエングリン砲、アンフィスバエナが動き出す。ただ一機のモビルスーツを狙って――だが、それを愚かと咎める者は少なくとも東ユーラシア政府には居なかった。それ程、イグダストは問題であった。戦闘能力そのものではない。『ひょっとしたら、何とかなってしまうかも』という、可能性を与えてしまうが故に。




 戦っているのは勿論、シン達だけではない。リヴァイブ旗艦スレイプニールⅡも、スレイプニール防衛の為に残ったホウセンカ隊――シホ=ハーネンフースのシグナスが率いる、シグナスとバビ砲撃戦型で構成された部隊――が決死の行動を続けていた。
 シホの視界には敵、敵、敵。部下も精鋭揃いとはいえ、これだけの弾雨を何時までも捌ききれる訳が無い。この戦艦が最新鋭でよかったな、とは思う。
 ふと、撃ち漏らされたミサイルがシホ機の頬を掠める様に飛んでいき、甲板に命中、爆発する。

 「……ラッキー、かな」

 ぽつりとシホ。自分でも胆が据わっていると思う。いや、どこかで『どうでもいい』と思っているからだろうか。
 リヴァイブで戦っている理由は何か、と問われると実を言うと特に無い。昔の知り合いに請われ、ここに居るだけだからだ。ただ、統一連合軍だけは嫌だった。過去にオーブが敵だったからとか、そういう理由もあったかも知れない。
 いや、考えたくないのだ。心の中にいつも居る――居てしまう、白髪の男の姿を認めたく無いから。

 (イザーク隊長、相変らずだった。いつまでも戦う事ばかり……いい加減にしてよね!)

 ビームカービンを正確に連射、ミサイルが爆発していく。そのまま稜線に隠れている敵影に威嚇射撃を行なう――爆発もあった。上手く当たってくれたらしい。

 (それは私も、同じかもしれないけどね)

 味方を守る。敵を倒す。どんな美辞麗句を付けようとも、それは人殺しに他ならない。誰にも誇れぬ、誰からも唾棄される修羅の道。なにをどう間違えてその道を選んでしまったのやら。

 (他にしたい事、無かったからなぁ……)

 シホは、正直だった。したい事はするし、言いたい事は言う。ただ、心残りは1つだけ――白髪の男、イザーク=ジュールだった。
 自分を認めて欲しかった。
 一度でも、彼を振り向かせたかった。
 自分をはっきり見て、話をして欲しかった。
 ……そんな事の為に、だったのだろうか。いまここに居る理由は。
 すう、と息を吸い込んで――

 「ああああああっ! くだらないっ!!」

 唐突に切れた。とはいえホウセンカ隊では日常茶飯事であるので、戦闘中の部下達は誰も気に止めなかった。シホはコンソールを操作し、ヘッジホッグウィザードに装備させていた大量のミサイルを残らず射出する。
 見事なまでの八つ当たりであった。しかし彼女はこうしたところで、とことん幸運であったのだろう。ここは敵軍の真っ只中で、たまたま射線上に敵の部隊が集結していたところだった。

 《おお、お見事ですぞシホ殿! 周囲の敵が一掃出来ました、これで更に前進できます!》
 「……あ、そうですか。良かったです」

 ラドルの祝電に、どうでも良さそうにシホ。というより、今は誰にも話しかけて欲しくは無かった。流石に気恥ずかしい。話を逸らす様に周囲をぐるりと見渡し、周囲の様子を伝えようとして――硬直した。モニタに映った光景に「どこまでも不幸なのかなぁ、私」と嘆息する。
 アンフィスバエナが2門ともこちらを向いている――それは2門のローエングリン砲がこちらに射出されるという事。一撃でリヴァイブが吹っ飛ぶ攻撃力が2回も。
 シホはもう一度、嘆息した。




 敵機が急に引き始める――嫌な予感。それは上空で支援してくれていたコニール機の通信で確信に変わった。

 「ローエングリン砲が2門とも? おいおい……」
 《オーバーキルも甚だしいな。確実に我々を屠る段取りか》

 シンが呟き、Aiレイが突っ込む。
 ローエングリン砲は、かつてアークエンジェル級に搭載されていた対艦・対要塞用の大型エネルギー砲で、C.E79現在においてもその攻撃力は圧倒的だ。防ぐには陽電子リフレクター等の専用装備が必要で、それは今のリヴァイブには無い。スレイプニールⅡのタンホイザーで無理やり相殺して初撃は凌げるかもしれないが。

 《完全にエリア攻撃になるしな。回避しようにも。取り合えず散開しておくか?》
 《でもそうすると、避けた後に各個撃破されますね》
 《戦艦を狙われても、こっちを狙われても駄目って事っスよね。どーするべよ……》

 大尉、中尉、少尉がぶつぶつと言い合う。それを聞いていたコニールが怒鳴りつけた。

 《あんた達、何をちんたらしてるのよ! 少しは緊張感を持って、早く逃げなよ!》
 《嬢ちゃん落ち着け。エリアごと吹き飛ばす相手に、多少避けたって結果は変わらん》

 うっそりと大尉。筋は通っている。

 《でも!》
 《しかし、だ。取り合えず嬢ちゃんとシンは退避しろ。俺達は分散するとヤバイが、お前等は別だ》
 《……え?》

 思わずシンが「おいおい」と呟く。しかし、中尉と少尉はあっさりと同意した。

 《そうですね。コニールさんとシン君は退避させましょう》
 《よし、そうと決まればお前等さっさと行け。俺らはここで待機する》

 シンは思わず怒鳴ろうとした。ここまで一緒に来ておいて……しかし、大尉が先にシンを怒鳴りつけた。

 《二手に分かれれば、それだけ生存率が上がるんだよ! 行け!》

 ドスの聞いた声だった。シンは言い返そうとして――Aiレイに窘められる。

 《大尉達の気持ちを無駄にするな、シン。お前に出来る事をしろ。それがお前の『役目』のはずだ》

 シンは改めて、このAiは本当に大した出来だと思う。こんなにもずしりとした物言いが出来るのだから。シンはイグダストをジャンプさせ、コニールのフォーススプレンダーに騎乗させる。

 《いくわよ、シン!》
 「みんな、無事で……!」

 最後は言葉にならなかった。フォーススプレンダーの爆音がシンの思考を吹き飛ばす。次の瞬間、一気にフォーススプレンダーは上昇していた。




 「アンフィスバエナ初弾、放てぇぇぇぇ!」
 「タンホイザー、撃て!」

 それぞれの陣営から、光状が伸びる。それは爆発的な光の奔流。全てを破壊する威力を持つ、宇宙空間での使用を前提とした陽電子砲。それは両陣営の思惑通り、空中で相殺する。凄まじい光と爆圧が空間を駆け巡る。
 だが、その中でもう一匹の蛇がしっかりと狙いを定めていた――今や上空高い位置にいた、緑のモビルスーツ、イグダストに向けて。

 「これで終りだ、悪魔よ。アンフィスバエナの真髄を受けろ!」

 もう一匹の陽電子の奔流――それがイグダストに向かって射出される!




 光の奔流がこっちに流れてくる――それはすぐにわかった。シンの思惟はほんの一瞬で駆け巡り、整理される。

 (陽電子砲はコンピューターで軌道調整が行なわれる。戦闘機の機動位、予測済みだ。当たって見せなきゃ、コニールは救えない!)

 陽電子砲は同時に、ガイドビームというものを射出している。それはちゃんと目標に当たっているかどうかを判断し、砲の威力をきちんと命中させ続けるというものだ。逆に言うと、それにさえ当たっていればコニールは救える。

 シンには生き延びる意思がある。しかし、それは『誰かを踏み台にして』達成するものではなかった。
 もう二度と、それだけは嫌だった。
 イグダストが瞬間的にフォーススプレンダーから飛び降りる。スラスターを全開にして、陽電子の奔流に向かって。

 《シン!?》

 コニールの悲痛な声。それだけが聞こえた。シンは意を決し、吼える。

 「バーストモード、スクランブル!」

 左手に光が集まり始め――そして、光が全ての視界を包んでいた。




 陽電子の奔流――それは目標を捕らえたようだった。イザーク=ジュールの駆るストライクブレードのコクピットに、サムクァイエット基地管制塔からの歓声が伝わってくる。

 《やった、命中だ!》
 《大きな犠牲であったが、これでもう悪魔に悩まされる事もない!》
 「…………」

 イザークは通信を全て切ると、静まり返ったコクピットで腕を組み、嘆息した。

 (あいつも違った、か……やはり軍神に抗し得るは、軍神のみという事か)

 イザークのストライクブレードは、今回サムクァイエット基地防衛に半ば無理やり押しかけて来ていた。とはいえ戦場で出るのは流石に止められたので、仕方なく基地管制塔のすぐ傍に待機していたのだ。ある期待――もう一度イグダストと戦いたいという希望を胸にして。
 しかし、それは結局叶わなかった。流石にこの状況下で、生き延びているとは思えない。陽電子砲の直撃を受けて生き延びているものは居ないのだ。

 (いや、居たか。1人だけ……もっとも、戦闘出来る状態ではないだろうし、もはや無理な話か)

 ムゥ=ラ=フラガ――統一地球圏連合軍宇宙艦隊総司令官。エンデュミオンの鷹という二つ名を持ち、かつてアークエンジェルを襲った陽電子砲をあろう事か通常のシールドで防ぎきった男。それでも機体は大破していたし、当人は記憶を失っていた。イザークの希望する『戦い』など、出来るはずも無い。
 そう思っていた時、防空警報が鳴り響いた。基地の上空に、敵機が突っ込んできていたのだ。日の光を浴びて、シルエットだけが――それを見て、イザークは戦慄した。

 「生きていたか!」
 
 しかも五体のある、戦える状態で!
 イグダストが動いた。左肩にあるアーケインエッジを1つ掴み、投げる。バーストモードのパワーも手伝って、それは要塞の対空砲を次々に破砕していく。

 「ハハハッ!」

 イザークは哄笑した。己の求めていた者が、こうして現れた事に感謝しながら。ストライクブレードは対艦刀を抜き払うと跳躍し、イグダストに切りかかる。イグダストも一瞬で対艦刀を装備し、抗する。

 《また、あんたか!》

 接触回線で聞こえたその一言。イザークも応ずる。

 「ああ、そうだ。シン=アスカ! 待っていたぞ!」

 アーケインエッジが戻ってくる。それを翻って叩き落し、ストライクブレードは着地した。イグダストも後方に着地する。

 「誰にも手出しはさせん。シン=アスカ。今、この場にて一騎打ちを申し込む!」

 朗々と、イザーク。その声は熱と意志と、そして狂気を感じさせる。だが、シンは怯まず応じた。

 《俺の前に立ち塞がるなら、切り払うだけだ!》

 両雄、再び戦場にて並び立つ。赤と青の光が再び立ち上り――そして、激突する!




 「……信じられん。一体どうやって……」

 ダルクスは呆然としていた。それはそうだろう、誰もが必勝の一撃だと認めていたはずだ。例え避けたとしてもコンピューターにより補正し、必中出来たはずだし、ましてやガイドビームからの『命中信号』は出ていたはずなのだ。空中で他の物に当たったという事も無かったし、その辺は確認していた。
 ましてや何故、一気にこの基地に到達しているのか――訳がわからない。少なくとも当初イグダストが居た位置は、基地からかなり離れたところだったのだ。
 ハスキルもまたしばらく呆然としていたが、ややあってコンピューターのデータチェックを始めた。どうやっても落ち着かなかったのだろう――そして、知りたかったのだろう。シンが、イグダストが何をしたのか。
 程無くしてシンが何をしたのかわかり、管制塔に居た全員が唖然とした。

 「映像、出します」

 それはこの様な映像だった――ローエングリン陽電子砲の上を、まるで滑る様にイグダストが動いている。そして、陽電子砲に触れているのは左掌――パルマフィオキーナの光球だった。それを見て、ハスキルは納得した様に嘆息した。

 「……そうか。パルマでガイドビームに接触し、命中信号を誤作動させていたのか。それだけではない。『ビームを弾く』特性を活かし、反発を発生させていたのだ。その上でスラスターでビームの上を移動する――恐らく、誰の目にも触れまい。あの光の中で、恐らくは己の視界すら塞がれていた状態で……」
 「なんという……なんという敵なのだ。イグダスト……シン=アスカ!」

 ダルクスはだん、とコンソールに拳を叩き付ける。その様子を見ながら、もう一度ハスキルは嘆息した。管制塔の窓から対峙するストライクブレードとイグダストを見やる。

 「イザーク殿。思った通りになったと言う事か……ならば、しっかりと決着を付けてもらおう」

 ストライクブレードとイグダストの対艦刀がせめぎ合う――互いの命と、意地を賭けて。



 
 《何故だと思う!? 何故『天敵』なのだと思う!? 俺と貴様の機体の相性が、何故そう言われると思う!?》
 「知るかっ!」

 イザークの挑発を、シンは怒声で返す。シンは焦っていた――違うのだ、地下坑道で戦った時と、動きが全く。
 ストライクブレードは両の腕を肩からだらりと下げ、少しだけ曲げられた肘と膝、そして腰。前屈みの、上目遣い。はっきりとわかる事は、関節が最小限の力しか出していないという事だ。
 ――それなのに、斬撃はイグダスト並に速く、重い。

 《簡単な事さ。貴様のデュートリオンフェイズシフトは駆動部分から信じられない出力を生み出す――それ故に武装は単純なものしか使いこなせない。しかしこのストライクブレードならば!》

 炎の対艦刀、そう表現するのがいいだろうか。剣の峰にあたる部分、それが全てスラスターになっている。斬撃の勢いは、それが生み出していた。ストライクブレードの関節は勢いを殺さず、或いは上手く逸らし。そのために機体はまるで力の無い、バランスの切れた動きをしていた。しかし――それをイザークは神技といっていいテクニックで操縦し続ける。ほんの少し力の入れ所を間違えれば、自身の斬撃で自身の体を壊してしまうだろう。

 《これが! 俺とストライクブレードの達した境地『レーヴァティン』だ!》

 レーヴァティン――炎の魔法剣。確かに魔法の様な斬撃だ。速く、強く、重く、読めず――そして、止まらない!

 《シン! このままでは防ぎきれん!》
 「わかってる!」

 イグダストの対艦刀スワッシュバックラーは、威力はある。しかしあくまで普通の対艦刀だ。こんなデタラメな剣に抗しえる手段は無い。下手に踏み込めば変幻自在のレーヴァティン、防ぐのは至難の業だ。と、なれば。

 (叩き落とす!)

 とはいえ、シンとても不安はあった。その回答は誰もが到達するものだとわかっていたからだ。イザークが、その様な見落としをするかどうか。しかし、やるしかない!

 「はぁっ!」

 ストライクブレードの切り上げに反応し、気合を込めて上段からの斬撃を放つ。見え見えのモーション――だが、イグダストのパワーでフェイントを掛ければ、機体が悲鳴を上げてしまう。バーストモードの弱点がそこにあった。
 爆風を上げるイグダストの対艦刀。対するストライクブレードの対艦刀は、まるで風になびく布の様に動いた。剣の向きを一瞬で返し、イグダストのパワーを円運動で受け流す。そして――

 《既に見切った!》

 真円を描く軌道で、対艦刀が振り下ろされる。それを避けるために、イグダストは剣を離さねばならなかった。バックステップで難を逃れたが、イグダストのスワッシュバックラーは破壊されていた。

 「畜生っ……!」

 シンは歯軋りしていた。勝つ方法、それが見当たらない。奇襲は、どう考えても通じそうも無い。破れかぶれの突撃をしても、まず無理だろう。残っていたアーケインエッジを構えるのがやっとだった。

 《では、引導をくれてやろう》
 「くっ……!」

 ストライクブレードが一歩、一歩近付いてくる。シンはそれを……。




 ――その時、絶叫が聞こえてきた。

 《うおおおおおっ!》

 振り返った時、シンは見た――スレイプニールⅡが特攻を賭けて来ていた様を。
 それは酷い有り様で、あちこちが爆発し、船の原型はもはや見る影も無かった。シンは呆然とその様を見つめ――そして、それは基地の手前で派手に自爆した!

 「なっ……!」
 (誰が――載っていたんだ!?)

 爆発の中、吹き飛ばされながらシンは思惟を巡らせていた。何度目かの衝撃の後、シンの意識は遠退いていった……光差さぬ、暗闇の中へ。




 歌姫の館には、備え付けの教会がある。月に一度、そこで厳かに瞑想をする。それがラクス=クラインの表向きの日課だった。
 今日も1人、教会に向かう道を歩く。その表情は夫であるキラ=ヤマトには出来る限り見せようとしない能面の様な顔――コーディネイターとしての顔。集積・分析が最も得意なコーディネイターであるラクス本来の表情だった。
 教会に入り、懺悔室に入る。そこに目的の『彼』が待っていた。
 ある時は孤児院の院長、またある時は流浪の伝道師。そして今、この時の顔は――ラクスの私設情報組織ターミナルの重鎮、マルキオ導師である。
 挨拶も無く、先触れも無く。会話は始まった。

 「カシム=マリディアの行方はヨーロッパ、というところまでしか掴めません。セシルという男が同行している、という噂程度の情報でしたら掴めましたが。しかし、シノ=タカヤという女性が居たかどうか、というのはやはり不明です。何しろ映像メディアは全て書き換えられていましたから、目撃証言などを照らし合わせるしかありません」
 「……そうですか。貴方の考えは?」
 「はい。セシルがカシムの兄であるという情報は信頼に足ります。そして一時期とはいえセシルがオーブの学校に在籍出来て、何らの疑わしい痕跡が残っていない――カシムに取り、セシルは守るべき存在の証左と言ってしかるべき。カシム、無いし近しい者がスーパーコーディネイターである可能性は極めて高いと申し上げましょう」

 スーパーコーディネイター。その言葉を聞いた時、ラクスは少しだけ眉根を寄せた。それはコーディネイターであってコーディネイターですらない、異形の生命体――彼女の夫であるキラ=ヤマトもまた。
厳かに、マルキオは続ける。

 「もう1人、居たという事です。スーパーコーディネイターという存在が」
 「……そうですか」

 ずっと心に引っかかっていた楔。それがようやく形を成した――最も悪い形で。

 「理想とは、神話です。希望とは、夢物語です。けれど、もしもそれを『現実』と繋げる者が居るとすれば……」
 「無限の『可能性』を持つ者――スーパーコーディネイターでしょう」

 ラクスの朗々とした言葉に、マルキオが続く。その意味を、彼等は良くわかっていた。

 「こうなるとカガリさんにソラさんとハナさんを同行させた事、多少なりと吉に出た訳ですわね」
 「御意に」

 相手が感情で動いている。その要素がある以上、感情に訴える事はある程度効果的である。セシルを守る為に動いているのだとすれば、そのセシルが愛した者の家族に等しい者を手に掛ける――それは躊躇うはずだからだ。

 とにかく、動く事だ。ラクスは断じる。

 「すぐにカシム=マリディアを確保、或いは処分しなさい。手段は問いません」
 「御意。既に我々の同胞を派遣しております」
 「期待していますよ。私は『キラを守る』――そのために居るのですから」
 「御心のままに。『平和の歌姫』ラクス=クライン様」

 ラクスは立ち上がり、教会を後にする。歩む足は、迷う事無く着実に。
 ――そう、世界全てを敵に廻しても、夫だけは、キラだけは守り通す。その気持ちには少しの衰えも無いのだから。



理想とは、神話。希望とは、夢物語。
けれど、それを現実にしてしまう『可能性』。
それは恐怖であり、畏怖であり――奇跡。
万人がそれを求め、万人がそれを恐れ。
それ故に、その存在は超然を期待され。
……そこに『人』である意味を期待されずに。




 「ナージャ、持って来たよ」
 「あーう」
 「何時も飲んでるミルクが良いよね。ちゃんと取り寄せられたから」
 「うー」
 「……そうだよね。不安だよね。でも……」

 ナージャの小さな手、その手をしっかりとキラは掌で包み込む。するとナージャから不安そうな様子が消え、安堵した笑顔が浮かんだ。

 「大丈夫。僕が居るよ――こう見えて強いんだよ。僕は」
 「ううー……あはっ」

 嬉しそうにはしゃぐナージャ、それを見て微笑むキラ。それは歌姫の館において日常の光景であったので、誰も不信には思わなかった。
 そう――誰も彼の本質を理解しては居なかったのだ。この館の住人でさえ。

  
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