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 ←セイクリッドジャスティス(案) →エアリアルフリーダムのイメージ、マスターアップ!
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 SEED Revival-Ver.ARIS-    第二部「人を超えし者達」

2-6

 ←セイクリッドジャスティス(案) →エアリアルフリーダムのイメージ、マスターアップ!
 ……自分で変わった所は何か。カガリ=ユラ=アスハは自問する時がある。
 はっきりと変わったのは楽観的になったという事だろうか。『なるようになるさ』という魔法の言葉が脳裏でささやく時、すうっと気分が楽になる。
 いや、違う。楽観的にはなっていない。そこに至るまでに自分に出来る事は全てやってやろうという気概。それが、カガリの心を楽にさせてくれているのだろうか。

 「せめて後悔ではなく、反省にしたいからな」

 自分は、以前より弱くなったと思う。昔の自分であれば『自ら行動し、気概を示す』と考え、実行に移した筈だ。
 それが今は座し、周囲を良く見て推察し、意見をまとめ、行動を開始しようとしている。
 自分だけでは、どうせ大した事も出来ないのだから。

 「私個人の意見はこの際どうでもいい。世界を平和にする為に、力を貸して欲しい」

 カガリ自身は優秀な為政者だとは思っていない。ましてや政治家だとも。ただ、自らが出来そうな程度の『カガリ=ユラ=アスハ』には成れそうだから。
 そう、優秀な部下達が用意した『統一連合三周年記念式典』用の原稿を朗々と読む程度は――

 「……めんどくさ」

 溜息と共にカガリ。今居る場所はベルリンに幾つか用意したセーフハウスの一つで、先だってソラとハナに貸し与えたホテルの一室だ。早い話、パニックになったソラをそのままにもしておけず、食事もキャンセルしてルームサービスで代用、そのまま別の一室を用意させて転がり込んだのである。数フロアはまるまるキープしてあるので、その辺に何らの問題もなかった。
 時刻は既に深夜、ソラとハナも何とか落ち着きを取り戻したのでカガリも自室に戻り、『宿題』に勤しんでいるという訳である。ベッドに横たわり、用意された原稿用紙をうんざりと眺めながら、カガリは嘆息する。

 「私しか演じれない『カガリ=ユラ=アスハ』か……」

 そこに、自己はあるのか。そこに、意味はあるのか。そこに、生きた足跡は残るのか。
 言葉だけが独り歩きをして、思惟がまとまらなくなる。これは己の姿なのかと。
 だからなのだろう。ソラとハナが助けを求めてきた時、すぐに『助ける』行動を取り始めたのは。
 己が己である証明――それが欲しくて。
 そんな事を考えていたからだろうか。部屋に設置された電話が急に鳴り出した時、ベッドから転がり落ちたのは。

 「あ痛……どうした?」
 《済まないな、まだ寝ては居ないと思ったが。カガリ、バルトフェルドさんから通信が入っているぞ。『調べが付いた』そうだ》

 統一地球圏連合主席のカガリにこんな言葉遣いが許されている存在など、数人しか居ない。そして、この場には一人しか居ない――アスラン=ザラしか。

 「わかった。すぐにそちらに行く」

 バルトフェルドに調べさせていた事、それはシン=アスカの現状についてだ。ソラの状況を抜きにしても、シンの事を全く知らない訳でもない。カガリはすばやく用意を済ませると、アスランの待つ部屋に向かって歩き出した。



己とは、何か。
それを己に、魂に問い続けた人達を、私は知っている。
辛くても、悲しくても。ただ前を向き、問い続ける――その果てを知りたくて。
或いはそれが、己の証明であるかのように……。



 モニタに映るバルトフェルドからの報告を聞き終えると、カガリは半ば呆れ、アスランは嘆息していた。

 「何と言うか、『凄まじい』という形容しか出てこないな。現実の出来事として捉えていいのかどうか……」
 「……あの馬鹿。戦争は玩具じゃないんだぞ……」

 そんな二人の様子を軽く頷いて、バルトフェルド。

 《主席、残念ながら厳然とした事実です。シン=アスカ――イグダストの活躍により、東ユーラシアは政府軍及びテロリストグループ、中でも『ローゼンクロイツ』の勢力は格段に下落しました。活躍と言って良いかはともかくとして、我々にとっては上々な結果になったと言えます》
 「どこの勢力も大きく力を削がれ、戦線が維持できなくなった、か。我々の目指す『平和』とは対極の事象だが、戦争のない状態を平和と呼ぶのであれば、そうだろうな」

 軽く顎を組んだ手の甲にのせ、カガリ。そんなカガリにアスランは少し興奮気味に言う。

 「そういう事じゃない。これじゃ、アイツは――シンはただの道化だ。理想も理念もなくただ東奔西走しただけだ。アイツは……何も解ってない!」
 
 だん、と壁を叩くアスラン。そんなアスランにバルトフェルドが諭す様に言う。

 《シン君の行動理念は非常に明確だよ。仲間を助ける為に戦う、これのみだ。問題はその仲間が、周囲の人間全てに裏切られたに過ぎない。ならば、これは明確な『ガルナハン人民の意志による結果』だよ》
 「わかっています! わかりますが、これではアイツが報われない……!」

 カガリもバルトフェルドもわかっている、アスランが何に怒っているのか。シンを救ってやれない自身に対してなのだと。
 その事は誰よりも知っている。
 そう、世界の誰よりも理解できると自負している。
 だからカガリが次にこう言い出したのは、カガリにとっては自然の事であり、周囲からは瞠目される事だった。

 「なあバルトフェルド。先程の報告では『シン=アスカとその一党は海上に脱出した後行方が掴めない』という事だったが、何とか連絡だけでも取る事は出来ないだろうか?」
 《……時間は掛かるかも知れませんが、不可能とは申し上げません。『砂漠の虎』の意地に賭けて》
 「カガリ? 何を……」

 アスランの問いに、微笑みながらカガリはこう言った。アスランを上目遣いに眺めながら。

 「聞いてくれ。私はシン=アスカを私の幕僚に迎え入れたいと考えている」
 「なっ……!?」
 《正気ですか主席!? 彼は貴女様の暗殺未遂容疑で……!》

 今度はバルトフェルドに向き直り、カガリ。

 「だが私は今、ピンピンしているぞ。バルトフェルド」
 《ですが……》

 未だ納得しない――というより唐突過ぎて対応できないバルトフェルド。それはアスランもまた同じだった。

 「カガリ、考え直せ。一時の気の迷いに流されていては統一連合主席として……」

 そんなアスランを軽く手で制し、カガリは努めて静かに言う。
 
 「私は冷静だ、アスラン。私の職責が『世界を平和に導く事』であるのなら、私の判断は価値のあるものだと思える。迷える子羊に過去の諍いを水に流し、手を差し伸べる――それは、私の役目であるべきだ」

 もう一度アスランに向き直り、カガリ。表情は落ち着き、声音も動揺はない。至極冷静にカガリは判断しているという事が、アスランにも良く解る程に。そんなカガリを見ながら、今度はバルトフェルドが呟く。

 《理に適いますな。バックボーンを失っている今の状況であれば、こちらに恭順する可能性はゼロではありません。そしてその効果たるや……》
 「バルトフェルドさんまで。いいかカガリ、俺は君を危険な目に遭わせる訳には……」

 なおもアスランは食い下がる。そんなアスランにカガリは静かに首を振る。

 「私も、アスランを危険に晒したくはない。このまま彼、シン=アスカを放置していれば、いずれアスランと戦う事になるかも知れない。私にはそれは、耐えられない」

 きゅっと、アスランの手が握られる。それ程強い力では無かったが、カガリの意志は痛い程伝わって来た。平静さの裏にある激情――それを見せまいと、そして知らせようとするカガリの思惟を。
 ややあってアスランは嘆息しつつ、頷いた。

 《わかりました、主席。この上は『砂漠の虎』の名に賭けて交渉を成立に導きましょう》
 「頼むぞ、バルトフェルド」

 モニタが消える。しばらくノイズがあったが、それも直ぐに消えた。二人だけの静寂の中、アスランはカガリの手を握りつつ、ただ前を見据えていた。そこには居ないはずの残滓を追い求めるかの様に。




 一方、オーブはライヒの館。

 「厄介な事になりましたな」
 「全くだ。主席がこういう判断をするとは……女は厄介、という事かな」

 ハインツ=ドーベルとゲルハルト=ライヒがワインを愉しみながら、言う。先程のカガリとバルトフェルドの通信を当然のように傍受していたのだ。もっともそれはバルトフェルド当人も知っている。知らないのはカガリ位のものだ。よって、通信で済ませる類の相談とは、治安警察に知られてもさして問題の無い、実際問題として『対した内容では無い事』というのがわかる。しかして今回の話は、特にライヒにとって結構大変な話題であった。

 「カテゴリーSが同じ陣営に集結するという事態。それは、手が付けられないという事だ」
 「困りましたな」
 「困ったものだ」

 口調にも、表情にも焦っている節は無い。しかして、ライヒはそれなりに焦っていた。何しろ実験も兼ねてイグダストを放置していたのに、壮絶な横槍が飛んできてしまったのだ。しかも、形式上とはいえライヒの上司から。

 「カテゴリーSは、人類には必要ない。人が人である以上の力など、本来は不要なのだ」
 「ましてやそれが、或いは当人にすら御し得ない代物であれば尚更ですな」

 ライヒが杯を煽る。真紅の赤ワインが、ライヒに一息で飲み干される。ワインを愉しむより、酔いが欲しい。そういう飲み方だった。
 ややあって、ライヒが口を開く。

 「楔を打ち込むしかあるまいな。シン=アスカに我らが敵であると認識させる楔をな」
 「シン=アスカは単純な人間です。それだけに効果は有るでしょう……そうだ、一人適任がおります」

 おそらくはドーベルも同じ結論に辿り着いていたのだろう、話が早い。ライヒが促す。

 「エイガー=グレゴリーです。あれは私と同期で、かつては水中戦のエースでした。名前は熊なのに、実は蛸だったのか。ま、それは冗談ですが」
 「ふむ。件の首都防衛任務に失敗したという事で、自身から謹慎を買って出た男だったな」

 ドーベルが頷く。ライヒにワインを注ぎながら、にやりと笑ってみせる。

 「如何でしょう、賭けませんか? エイガーと『ディープブルー』で、イグダストを倒せるかどうか」
 「『ディープブルー』か。面白い勝負にはなりそうだ。だが、私の気持ちは変わらんよ」

 満足そうに、ドーベルが頷く。そして杯を掲げると、一息に飲み干し、高らかに宣言した。

 「見せましょうぞ――『人』の経験と意地の強さを。そして我が盟友、エイガーの真骨頂を」

 ライヒはふと、窓の外に目をやる。遠く離れた海が見える訳ではない。が、そこに確かに大荒れの海を見据えていた。



様々な騒動、騒乱により疲弊した東ユーラシア共和国政府は、
国内の不穏な動きを緩和する為に融和路線へと転換しました。
時を同じくしてレジスタンス連合もローゼンクロイツ指導者ミハエル=ベッテンコーファーを失い、
急速にその勢力を縮小していきました。
それぞれの陣営はお互いに次の戦いへの準備期間だと認識しながらも、
とりあえずはその矛を収めたのです。
これによってリヴァイブのリーダー、ロマ=ギリアムが目指していた
『とりあえずの平和』は達成されたのでした。




 「……と言っても、仕方なしの平和は望むところじゃなかったんだけどねぇ」

 地上戦艦スレイプニールのブリッジで寝そべりながら、ロマ。そんなロマを甲斐甲斐しく世話しながらセンセイ――エリーゼが呟く。

 「仕方ありませんわ。贅沢を言っていられる情勢ではありませんし。そもそも『平和的な話し合い』が行われたのも、相互の戦力が疲弊しきったからに他なりませんし。諸外国の圧力を受けるよりは内政問題の方がマシ、と普通の人なら考えるでしょうしね」

 スレイプニールのブリッジにあるモニタには東ユーラシア政府の国営放送が受信されていた。映し出される美辞麗句、平和への憧憬と情熱――1週間前には決してあり得なかった放送が臆面も無く映し出されている。「いやはや、政治家とメディアっていうのは面の皮が厚くなきゃやってけないね」とはロマの談。
 ブリッジにはロマとセンセイの二人きり。気を遣ってくれているのか――単にその他の面々も疲れ切っているというべきか。
 何とかスレイプニールまで逃げてきたロマ、大尉、少尉はその後シン、コニール、シホとカナードを収容し東ユーラシアの外洋まで逃げ出していた。どちらかと言えば流されているのだが、この際贅沢は言えない。何しろ他に収容できたリヴァイブメンバーはサイ=アーガイルとシゲト=ナラの両メカニックだけ。壊滅状態と言ってもいい惨状だった。

 「生きていれば何かが出来る、か。中尉が聞いたらなんて言うだろうね」
 「……そうですわね」

 大尉から中尉の生い立ちを聞かされ、ロマは唸った。「もう帰ってはこないだろう」という大尉の変わらずうっそりとした、しかし押し殺した言い様。何とも言えない無念――やるせなさだけが胸中に染みる。

 「生きる理由がなければ、生きていけないのかな……それは違うと思うんだけどね」

 生きる為の誇り、生きた証。そんなモノの為に生きているのか――違うと口で喚き、胸中で噛み締める。そんな歯がゆさだけが寂寥感として残っていく。誰しもがその答えを求めている……そう思えるから。
 不意に、ロマは考えていた。そんな中尉が心配していた事を思い出して。中尉よりもある意味純粋で、その問いを身体に刻み付けて生き続けている青年の顔を思い出して。

 「シン……君は一体、何を求めているんだい?」

 改めてその問いをする時が来た、とロマは感じていた。




 その頃、当のシン=アスカはどうしていたかというと――ひたすらぼんやりと海を眺めていた。

 《見事なまでの大海原、だな。他の形容が無いと言えばそうなんだが》
 「……ああ」

 大げさなAIレイの言い様に、しかしまるで気の無い返事のシン。シン自身、海原に目をやっているのではないという事は解り切っていた。ただ思惟をまとめたくて、そこに視点を固定しているだけで。
 先だって死力を尽くして戦った、イザーク=ジュールの言葉が胸に突き刺さる。

 『お前は何のために戦っている? お前は誰の為に強くあろうとする? お前の意志は、どこに向かおうとしている?
 ――戦えばわかる、お前には何も無い。なのに何故、そこまで強くなれた?』

 イザークを、シンは殺さなかった。殺せなかった。殺す必要もない――いや、そういう思考すら浮かばなかった。そもそもあの勝負に勝った事も、シンの理解出来ない事象が加担してくれたとしか思えなかった。

 (ルナ……お前が勝たせてくれた。だから、この勝負は俺の負けでも別にいいんだ)

 イザークにも素直に、そう言った。イザークはしばし面食らった後、何とも言えない表情をして――そしてこう言った。

 『なるほど、理解できん。だから負けた、か……勉強になった』

 そう言い捨てると、イザークとストライクブレードは去っていった。どこか満足げな微笑を残して。
 ――そして、シンとは言えば。

 (俺は……俺は、何処へ行けば良いんだ?)

 今更。
 今頃。
 今に至るまで。
 そう。今日の今日まで走り続けて、戦い続けて。
 ようやく――シンは、自己を省みる余裕に恵まれたのだった。それは同時に、己に『戦いに向かう理由が実は、そんなになかった』という致命的な弱点をはっきりと認識させるに充分な余裕でもあった。
 友の為。
 知っている人達の為。
 或いは、属した組織の理想の為に。
 一番大事なはずの、自身の戦う理由を見出す事すらせずに。

 (『他にする事がなかった』から戦っていた……っておい、それはいくらなんでも最低過ぎる戦いの動機じゃないのか?)

 シンは悩んでいた。悩む事すらせず、ただ眼前の戦いに身を投じていた――戦いに身を浸して居たかった、己の意志の在り様に。
 自分があるいは哀れんだかもしれないイザークよりも更に、どうしようも無い存在であった事に。

 《風が吹いて来たな。そろそろ船倉に入れ、シン。身体に障る》
 「ああ……」

 力なくシンは頷く。その様子はカテゴリーSと呼ばれた超人でも、あるいはコーディネイターのエースと呼ばれた男の姿でも、あるいはガルナハンで無類の強さを誇ったイグダストのパイロットの姿でもなかった。
 ただの、その辺に居る気弱な青年の姿だった。




 夜も更けて。
 潮騒だけが、夜の帳に響き渡る。
 さほど強くも無い波に揺られ、スレイプニールは広大な海で当ても無く漂う。航路を大きく外れ、ただ漂う様に動く――それを探す事は、非常に難しい。ニュートロンジャマーにより電子レーダー系は全て不可、ならば探し当てるのは目視か聴き当てる他無いのだ。オーブを襲撃した水中用モビルスーツ群が未だ発見されず、逃走中なのは正にそういった理由なのである。
 しかし、物事には例外がある。動物が環境に適応し、その形態を変える様に人もまた変わる事が出来れば。人の外見やシステムを変えることは出来なくても、戦う武器を大きく変えてみれば。それもまた、一つの進化と言えるのかも知れない。
 エイガー=グレゴリーとディープブルーは、急造の組み合わせでありながら、期せずしてそれを目指したモノ同士の融合でもあった。

 「ふふふ……深海とは、暗黒ではない。母上の胎内の様に、命に満ち溢れている。文明を得た人類が恐れる様な場所ではなく、むしろ訪れ、或いは新たに住まう場所なのだ」

 それは、エイガーの持論である。モニタには光一筋すら刺さぬ暗黒の世界が広がっていた――しかしエイガーはそれを悠然と眺め、電子計器の多少の補助だけで悠然と機体を進ませていく。それは普通に考えれば、すぐに障害物にぶつかってもおかしくない状態だった。しかし、エイガーは。

 「海流――それを見定める。目で見るだけではなく、身体で感じる。それはモビルスーツだろうがモビルアーマーだろうが、変わりはせん。流れがあるのなら、そこには何も無い」

 ディープブルー。それは統一地球圏連合軍が最近ロールアウトさせたばかりの新型モビルアーマー。オーブ襲撃の反省を踏まえ、水中で無類の強さを発揮するべく作り上げられた長大なモビルアーマーである。その様相は海蛇のようにも、或いは大きさも相まって東洋の龍神の様にも見えた。
 エイガーの言葉通り、ディープブルーは何らの障害にも当たる事無く暗黒の世界を動いていく。そしてディープブルーにはもう一つ、強力な探査システムが搭載されていた。人には到底聞こえない筈の音ですら探知し、増幅して搭乗者に伝えるソナーシステム。パイロットに骨伝導で伝えられるその音紋は、戦闘時の爆発音等は分別して伝えない様に調整、メンテナンスを繰り返され、エイガーにとって必要な音だけが選り分けられ届けられるシステムとなっている。
 それらのシステムを駆使し、とうとうエイガーは波間に揺られる船――スレイプニールを発見していた。

 「……いたな。では、リヴァイアサンに襲われるギリシャの勇者達の様に、勇猛に戦ってもらおうか!」

 エイガーが静かに吠える。そしてディープブルーは一直線に水面のスレイプニールに向かっていった。




 「『戦えない』ですって!? どういう事よ!?」
 《その通りの意味だ。俺はヤツとは戦えない――統一地球圏連合軍とは、な》

 機体のあるパイロットを除いた全員が集まった戦闘ブリッジ上で激すコニールに、冷淡にカナードが返す。
 スレイプニールがその機体を発見する事はそれ程難しい事ではなかった。何しろ巨大だし、堂々と真っ直ぐに向かってくるのだから。ところが機体識別コードに統一地球圏連合軍のものが使われていると全員に伝えられた時、上記の様な会話が行われたのである。

 「ミハシラは表立って統一軍とは構えたくないってか?」

 せせら笑う様に、大尉。しかしそんな挑発に顔色一つ変えずカナード。

 《仕方あるまい。まだ刺激する訳にはいかないと、ミナから厳命されているんでな。先の戦いの様に、テロリストが相手ならば『通りすがり』という事で何とかなるが》
 「……人権って何でしょうね、全く」

 シホが呆れた様に呟く。カナードは黙殺する。

 「でも、そうするとだ。シホさんの機体はメンテが完全じゃない、コニールのモビルアーマーは水中には入れない。大尉達の機体は回収すら出来なかった――動けるのは、シンのイグダストだけです」

 メカニック担当サイ=アーガイルが呟く。実際、現在稼動出来るのはイグダストとギャン=ウージェント=ボルトスのみだ。そして、戦えるのは。

 《別にいいさ。一人で戦う事には慣れてる》
 「シン!」

 パイロットスーツを調整しながら、シン。その淡々とした物言いにコニールは激すが、次が続けられなかった。

 《仕方が無いんだろう? なら、行って来るさ》

 コニールは気が付いていた。リヴァイブの、組織の目標すら無くしてしまったシンが己の所在を持て余している事を。
 そしてその事をシンが誰にも話そうとはしないであろう、という事も。

 「この、朴念仁! さっさと行っちゃえ!」

 コニールが搾り出せた言葉は、それだけだった。




 荒れた波間に飛び込むと、そこは意外な程静かな世界。泡沫と海流、そして差し込む光――シンにとっても慣れぬ水中の世界である。
 しかし、シンは落ち着いていた。何と無しに、落ち着いていた。別に勝ち目があるだろうとか、どういう風に戦おうとか、そういう事を考えていた訳ではない。本当に何となく――独りになりたかったから、だろうか。

 《まあ、思惟に惑う時でもなかろう。何処から襲い掛かってくるかわからん、監視を怠るなよ》
 「……そういや、お前がいたっけか」

 腕時計に内蔵されたAIレイに現実に引き戻され、シンは毒付く。とはいえAIレイの言い様は至極真っ当なものだったので、シンはモニタに集中する。程なくしてそれは視界に映った――その巨体は海中とは言え隠しようもない巨大なものだったのだ。
 体長は百メートル程もあるだろうか。モビルスーツのサイズでは到底ありえない大きさと長さだ。そんなものを内包できる海の大きさに改めて感心しながら、シン。

 「堂々としたもんだ」
 《隠し立てする気は無いという事だな――ならば、来るぞ!》

 水底まではまだ距離がある。身動きの取り辛い水中で襲うのは利に叶う。そしてその通り、その巨大なモビルアーマーは堂々とその武器を展開した。巨大な龍にも思える意匠、その顎が開く。巨大なクローアームで構成された顎の中央に装備された大型ビーム砲『スキュラ』――掴んで破壊する。単純明快、余りにも自然な殺意だ。
 そして――突進が来る!

 「チィッ!」

 シンは右腕のアームバルカンで牽制射撃を開始する。その時、シンは突進してくるディープブルーとかなり距離が離れている事を認識していた。そして、ディープブルーの突進速度が異常に早い事も。

 「図体の割りに、速い!」

 その大きさで、水中での距離感を見誤っていた事もある。だがそれ以上にディープブルーの速度は巨体に見合わぬ、圧倒的な速度で距離を詰めてくる!
 堂々としている訳だ――初撃でこちらを破壊する自信があったのだから。

 《食われたら終わりだぞ、シン!》
 「解ってる!」

 アームバルカンで落せる装甲ではない。だがシンにとって、アームバルカンであった事は僥倖だった――混ぜられていた曳光弾が、突進の速度と方向を教えてくれる。ビームではとっさにそこまで判断できなかった。

 「スクランブルバースト!」

 バーストモードをゼロモーションで起動、思い切り水を蹴飛ばさせ、瞬間的に水底にイグダストを泳がせる。頭を下に向け、スラスターも全開にし、持てるスペックを最大限利用した最大速度で潜行する――その速度は流石のエイガーでも想定できなかった速度ではあった。もちろん、シンにとっても。

 「……って水底!?」

 瞬間的に水底に突き刺さるイグダスト。正に勢い余って、というところだろうか。かなり間抜けな話だが、シンはここでも救われていた。ディープブルーが踵を返して再度の突撃を掛けて来ており、水底に入っていなければ攻撃は避けようも無かった。イグダストの激突で発生していた土石流が結果としてイグダストを隠す役目も果たした事もあり、ディープブルーの第二次攻撃は空しく水中を掻き混ぜたのみに終わった。
 とは言え。

 《今解析した情報だと、非常に分が悪い事が解った。どうする?》
 「そりゃどーも……」

 憮然とシン。当人としてもディープブルーの攻撃を避けられたのは、単に幸運に恵まれただけだと解っていた。
 単純かつ明快な攻撃オプション――そういうコンセプトは、局地専用モビルアーマーで最大限発揮される。ディープブルーの攻撃は正にそうしたもので、シンは仕官学校時代からそうした攻撃の恐ろしさをよく理解していた。

 「参った。イグダストは絡め手なんか使えないしな」
 《流石に正面対決は分が悪すぎるな。まともな飛び道具も無いし、水中で勝ち目は無いぞ》

 アームバルカンやビームブーメランでモビルアーマーが落ちるとは、どうしても思えない。ならば対艦刀で捌くか、或いは密着してパルマフィオキーナで破壊するか。問題はどちらも密着しなければならないという事で、先程の速度で海中を移動された場合イグダストで追い付ける確率は殆ど無い。結論から言えば、イグダストの取り得る攻撃オプションでは、ディープブルーを破壊できる確率はかなり低い、という事だ。
 ――そして、味方も居ない。

 (独り、か……慣れてるって思ってたんだけどな)

 今は水底に潜めている――だが、それはそう長くは続けられない。発見されるのはそう遠くは無いだろうし、何よりイグダストは燃費が悪い。長期戦には元々向いている機体ではないのだ。いつかはこちらから動かなければならない、だが速度は相手の方が上。見事に詰んでいる状態なのだ。

 「死ぬのか……俺?」

 口に出してみる。それで、ようやく体がそれを理解する。震えが湧き上がり、恐怖が背筋から這い上がってくる。いつもの戦場の感覚が、全身を支配しだす――余計な考えが、どんどん流れ落ちていく感触。

 (そうだ、これだ。これが欲しかった――俺が俺で居られる時。生きる理由とか、生きなきゃならない理由とか、そんなのはどうでもいい。ただただ『生きたい』っていう渇望、絶望にも似た願い。ただ平和に、ただ安寧になんて生きたくない――苦しんで、戦って、でも生き延びなきゃならないんだ。俺は、俺ってヤツは……!)

 シンは、或いは慟哭したかったかもしれない。けれど、もう涙は流れなかった。流すべき涙は、流れるべき涙は、もうとうの昔に流れ切っていたから。
 その思いが、その願いがシンを『最強』にしているのだと、シン当人は気が付いて居なかった。




 「むぅ……水底に潜んでいれば安全と踏むか」

 ディープブルーのコクピットは複数人での運用も前提にあり、かなり広い。コーヒーメーカーまで据え付けてあるので、エイガーは戦闘中にも関わらず一服していた。それは余裕の裏返しとも言えるが。

 「水中でこのディープブルーが負ける道理は無い。海上に出れば話は変わるが、それは有り得ぬ事。長期戦なら、尚の事よ……だが、少々飽きてきた。燻り出すとしよう」

 紙コップを握りつぶし、ダストシュートに放り込む。その様はまるで、ディープブルーのクローアームがイグダストを握りつぶし、破壊するジェスチャーの様にも見えた。

 「何故水中戦において、空中戦や宇宙戦でのエースが活躍できないのか。それは海流というものを理解しておらんからだ――海は海水で満たされている。それを理解せねば、水中での戦いには勝利できん」

 エイガーはディープブルーに不思議な動きをさせた。それは海底近くをまるで円を描くようにくるくると回る、それだけの行動だった。その行動は少しづつ場所を変えて行われる。それはまるで獲物を探す鮫の行動にも似ていた。そしてある場所においてエイガーは円を描く速度を速めていく。速く、速く――そして、水中にも変化が起きる。巨大なディープブルーが動けば水流が発生し、周囲の水が掻き回されていく。エイガーが探していたのはイグダストではない、海流――ここで動けば海流に邪魔されずに水流が作れるという場所である。そしてエイガーの望み通り、その場所に巨大な渦が出来つつあった。

 「これが水中での戦い方よ! 何人も水の流れは避けられん――水中に居る限りな!」

 巨大な渦は水面にも水底にも干渉し始め、水中はさながら竜巻の渦の如く。土石も、そしてイグダストも海底から巻き上げられ、渦に引っ張られて流される。それをエイガーは待っていたのだ。

 「今度は避けられまい!」

 莫大な水の流れは圧倒的なパワーを伴って。そしてその流れを突っ切って進めるディープブルー、万に一つもイグダストに勝ち目のない状況であった。
 再びディープブルーのクローアームが展開し、突進を開始。イグダストはそれを避けられず――いや。

 「何っ!?」

 イグダストが――消えた。いや、消えたと思えるほど凄まじい移動速度だった。水中戦に精通したエイガーだから理解できる。こんな、水流も海流も無視した速度は出しえない、と。ましてこんな、全てが巻き込まれている渦の中で。
 だが実際に、イグダストはエイガーの予想を超えて、ディープブルー並み、或いはそれ以上の速度で水中を進んでいる!
 程なくしてエイガーはその理由を理解した。イグダストが海面に向かって逃げている、だから気が付けたのだが。

 「対艦刀を横にして……オールの様に水を掻いて、だと!?」

 そう。水中を動く方法は二つ。スラスターやスクリューで自力で動くか、或いはオールや手で水を掻いて、その反動で動くか。実はこの両方を同時に行っているのがディープブルーであり、今のイグダストであった。
 そしてイグダストのパワーを持ってすれば、水中での移動速度は――。

 「なんという適応能力! しかし、だからこそ倒しがいがある!」

 エイガーは確信した。油断して倒せる相手ではない、死ぬ気で掛からなければ、と。
 状況は互角になったに過ぎない。ならば後は意地の張り合い、死闘の開始である。すばやくエイガーはディープブルーに積載されていた四門の魚雷を発射する。当たらなくてもいい、爆圧で相手の動きを制限するためだ。それは予想通り避けられたが、イグダストの動きが若干鈍る。そこへ――突進!

 「死ねぃ、シン=アスカ!」

 必殺の突進だった。如何に高速移動されても食い付き、破壊できる。そう確信できる突撃。だが、それを――それを、シンは待っていたのだ。
 余裕のある突進では駄目なのだ。相手も必死になり、無理をした突進でなければ。
 エイガーは気が付いていなかった。魚雷の爆圧に紛れ、イグダストが右腕に装備するワイヤーアンカーを伸ばしていた事を。それはまるで釣り針の様に。
 ワイヤーが引っかかる。瞬間、イグダストはその持てるパワー全てでディープブルーを引っ張っていた。エイガーの予想を超えて、更に速い速度でディープブルーに突進するために。

 「なっ……!?」

 衝撃には滅法強いフェイズシフト装甲、まさしく弾丸の如きショルダーチャージ!

 ゴガァッ!

 イグダストは一瞬の内に海面に、中空に吹き飛ばされていた。そして、ディープブルーは海底へ。半ば意識を失いながらも、シンは何とかスレイプニールへの着艦を完了させていた。




 ……とはいえ、一旦そこでイグダストとディープブルーの戦いは水入りとなりました。


 《スレイプニールの皆々様、お初にお目に掛かる方もいらっしゃると思う。私、カガリ=ユラ=アスハは統一地球圏連合、ひいてはオーブの主席などという肩書きを頂戴している。この度、皆々様に衛星レーザー通信などという手段で強引に通信をさせていただいたのは他でもない、そちらにいらっしゃるシン=アスカという青年に関することだ。そう、君の事だ、シン……久しいな。私は君を私の幕僚に迎え入れたいと考えている。今までの事は全て過去の事、これからの未来を君にも創ってもらいたいと考えている。どうだろうか、シン=アスカ?》

 コニールからの悲鳴の様な呼び出しを受けて、スレイプニールのブリッジに戻ったシンに投げかけられた状況は、その様なものだった。



 

 

 
 
 
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